第28話 物語はいつだってご都合主義の塊だ
「そう、アインホルン公女。彼女はね、僕の前の人生と同じ世界からこの世界に生まれ変わったんだ」
「あら、ちょっとよろしくて?」
ヘッダが手を挙げて質問を投げかけてきた。
「アルベルト様のその言い方ですと、異世界っていうのは、一つだけではありませんの?」
あー、そうだよね。そう思うよね?
「異世界っていうのは、その名の通り異なる世界ってこと。この説明を詳しくすると長くなってしまうから、簡単に説明すると、果物を例に出そう。果物と言ったらなにがある?」
「ブドウ」
「リンゴもありますね」
「オレンジもございますわ」
「うん、つまりそれと同じだ。果物と言ってもたくさんの種類があるように、世界は一つだけではなく、様々な世界がある。例えば人間が存在しない世界。動物が存在しない世界。魔力がない世界。魔獣がいない世界。この世界とは違う世界を総じて異世界というんだ」
「数多くある異世界ですけれども、アインホルン公女が公女として生まれる前は、アルベルト様が生まれる前にいた世界で生きていた、と言うことでよろしくて?」
いち早く理解したのはヘッダだった。
「その通りだよ。ただし、向こうの世界で知り合いだったとか、そういうことはないね。お互いまったく見ず知らずの他人だ」
ここまでの説明は、まだ許容範囲なんだよ。摩訶不思議なことだけど、魔力や魔術があって、ドラゴンがいて神様がいるならそれもありだって思えるから。
問題はこの先なんだよねぇ。
「アインホルン公女が言うにはね、この世界、は彼女が前の世界で愛読していた物語と同じなんだって」
僕の発言に、今度は全員何を言ってるんだと言いたげな顔をする。
だよねー。ゲームやラノベの世界に異世界転生は、あっちの世界じゃフィクションあるあるだけど、こっちの世界じゃなにそれ? って感じになるもんね。
「僕はその物語を読んだことがないんだけどね。大まかな内容は、とある伯爵家の娘がヒロイン……主人公で、父親の再婚によって、継母と腹違いの妹が出来るんだ」
そこからは、アインホルン公女から聞いた話をみんなに聞かせた。
物語は四章まであって、一章はヒロインの不遇時代、二章は学園での出来事、三章は恋のライバルとの決着、四章は三章のあとの話、アインホルン公女はこの四章の初めのほうまでしか読んでいなくこの後の展開がどうなるのかはしらないが、この物語は不遇なヒロインと王太子リューゲンの恋物語だということ。
王国の名前、僕らの名前は同じ、だけど登場人物の人格や、特に王家の王太子のところは差異がある。
そしてアインホルン公女はその物語でヒロインをいじめる恋のライバルで、ラーヴェ王国を混乱に導いたために処刑されるので、僕に近づかないようにして、あの風評被害が起きてしまった。
そのことを話した後、ネーベルとヒルトは何とも言い難い表情をし、ヘッダは無言でティーカップに口をつける。
「それっていうのは、物語に似た世界だから、物語の登場人と同じようになると思ったって事?」
ネーベルは言い回しをマイルドに言い換えたなぁ。
「そんな感じが半分」
「半分?」
「実はね、あの世界では、ちょっと面白い話が流行っていたんだ。いわゆる、物語に出てくる登場人物の逆転の物語」
いわゆるシンデレラストーリーに物申すって話だけど、この世界に『シンデレラ』の物語はないから、シンデレラって言ってもわからないよね。
「王子様と町娘が恋に落ちる物語があるとしようか? その物語は王子様と町娘が恋をする話だけど、王子様には幼い頃からの婚約者がいて、仲良くしている二人に嫉妬した婚約者は、町娘をいじめたり王子様の前に現れないようにあれこれ企てる。終いには町娘を殺害しようとするも、王子様に阻止され、王子様は大勢の人が集まる場所で、婚約者が町娘にした悪行をつまびらかにしたあと、婚約者の悪辣な心根に婚約破棄を言い渡し、王子様と町娘は『真実の愛』で結ばれて、幸せに暮らしました、おしまい」
「いろいろと破綻の多い内容ですわね」
皮肉気なヘッダの口調に僕も同意する。
「そうだよ。でも物語ってそういうものでしょう? 題材は身分違いの恋なんだから、主人公の王子様と町娘のための、ご都合主義満載な内容になる。そしてこういう話は、とても女性受けする内容じゃないかな?」
ヒルトは少し考え込んだ後、何かを思い出したように言った。
「その……、私は恋物語よりも冒険譚のほうが好きなので、そういった話はあまり読まないのですが、仲良くしている令嬢たちは確かにそういったロマンスが好きだと思います」
例えが悪かったかなー? でも婚約破棄系のざまぁは、だいたい女性向けのお話だからねぇ。
「たとえ話だから、まぁ続きを聞いてよ。王子様と町娘の恋の物語が流行りだすとね、そういった内容を読んでいる読者の中には、こう思うものがでてくるんだよ。『これ、婚約者悪くないよね?』って」
僕がそう言うと、ヘッダは、それはそうでしょうと言わんばかりの表情で、ヒルトも貴族令嬢としての認識が強いから、うんうんと頷く。
「ヒルトとヘッダの考えは分かるよ。王子様に婚約者がいるっていうことは、大抵政略的な何かがあって結ばれたものだ。愛だ恋だで結ばれるものじゃない。そして王子様との婚約なんだから、相手は最低でも伯爵家以上の貴族のご令嬢でなければいけない」
「当り前ですわよ」
「そう、現実的に考えると、当たり前なんだ。でも先に話した王子様と町娘の恋物語は、あまりにご都合主義の創作なせいか、貴族のお約束的なことや政略なんかを蔑ろにし過ぎてはいないかと、そう思う読者も出てくるわけだよ。そしてそういった身分違いの恋を取り扱う物語が一通り流行し始めた後に、今度は婚約者の目線で綴られる恋物語が流行りだしたんだ」
ここまで話すと、ヘッダがあら? っと、気になりはじめる。
「最初に話した王子様と町娘の恋物語。王子様と町娘にとって、最大の障害は、王子様の婚約者だ。これから僕が話すは、異世界の人間が生まれ変わった、王子様の婚約者の話だよ」
今までつまらなそうな顔をしていたヘッダの表情が、次第に楽し気に輝き始めた。
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