第19話 楽勝だろうだって?! 何処が?! 辛勝だっつーの!

「お前ぇ!! ぜってぇー馬刺しにしてやるからなぁ!!」

 なかなか近づけないせいで、思わず僕は声を荒げる。

 この悔しさは、絶対、ヒポグリフの肉を食さないと気が済まない!

 ヒポグリフは上半身鷲で下半身は馬だ。そう馬! 馬と言えば、馬刺し!!


「馬刺しってなんだ!!」

「馬の刺身!! 馬肉を加熱しないで薄切りにして食べる!」

「生で食うのかよ!! ゲテモノか!」

「刺身を馬鹿にすんな! オリーブオイルと塩とレモン絞ったタレで食べるの! 美味いんだからな! ただし新鮮な肉に限る!」

 ヒポグリフの風圧をよけながら、ネーベルとヒポグリフの可食のことで言い合う。

 軽口を言い合ってるのは、余裕があるからじゃない。そうでもないとやってられないからだ。

 初陣で、なんでこんな大型魔獣を相手にしないといけないんだよ!!

 僕の予定ではホーンラビットかナーゲルフォックスを狩って、角とか毛皮をイグナーツくんや王妃様たちにお土産であげたかっただけなのに。

 あと、初狩りで獲れた魔石をおじい様たちにあげたかっただけなのに。

 それを全部お釈迦にしてくれやがって!!


浅層ここはおめーの縄張りじゃねーだろー!! 深層にすっこんでろよ!! くそ野郎!!」


 心の声が駄々洩れになってしまう。でもこれは僕だけじゃない。みんな声を張り上げて、ヒポグリフに悪態吐きながら攻撃している。

 またヒポグリフが首を振って翼を羽ばたかせ、風圧を放ってきた。


 もー、この風圧なんとかしてくれ! 近づけない!


「こんのぉ!! おとなしくしろぉぉぉぉ!!」

 ヒルトがクレイモアを振って、ヒポグリフが発する風圧を斬った! まじかぁ! さすが、剣豪を多く輩出してるヴュルテンベルク一族の秘蔵っ子!

 続けて放たれる風圧を、ヒルトが次々と斬り伏せていく。

 よっしゃぁ! あの厄介な風圧を封じ込めた!

「総攻撃で叩き込め!!」

 フェアヴァルターの掛け声に、皆が一斉にヒポグリフの前脚に攻撃を仕掛ける。けどやっぱ堅ぇ~!!

 ヒルトの風圧斬りで、風の攻撃が効かないとわかったのか、ヒポグリフがカチカチとくちばしを鳴らす。


「ギャッギャッギャッギャッ」


 何かくる?!

 口を開けるヒポグリフの口内に、緑がかった光の塊が見える。

「うっそだろぉ!」

 あれを吐き出す気かよ!!

「させませんわよ!!」

 ヘッダが再び、光の……、今度は赤みを帯びた光の矢をヒポグリフの口内に向けて連続で放つと、爆発音が立て続けに起きる。

 あの光の矢、色によって属性が違うのか?! 

 ヒポグリフは閃光の吐き出しが出来ず、口内の爆発で動きが鈍っている。

「アル! 首押さえるから獲れ!」

 ネーベルがいつの間にか剣をしまって、縄鏢を取り出し、縄の先端にくっついている鏢を振り回しながら縄鏢に魔力を乗せてる。

 魔力を乗せた鏢をヒポグリフの首に目がけて飛ばすも、鏢が刺さったのは胸のあたり。


「キャァァァァァァァ!!」


 またヒポグリフは咆哮をあげて首を振ろうとする。

「うをっ!」

「ネーベル!!」

 持っていかれそうになるネーベルに、ヒルトとテオ、それからクルトがしがみ付く。けど、軽いから重しにならないか?!

「手ぇ離すな!」

 ピートがネーベルに駆け寄り、一緒に縄を掴む。

「トレッフ!!」

 ピートの掛け声に、トレッフのほうも縄鏢を取り出して、今度は鏢が首に刺さった。

「若殿!! 首、斬れ!」

 さっきみたいに樹木をつたって、上に飛びあがる。それから『夜明』の刃に魔力を乗せて……。


 ヒポグリフの首を目がけて、『夜明』を振り落とす。


 『夜明』の刃が、皮から肉へ食い込む。肉を斬る感覚にぞわぞわっと肌が泡立つ。けど、このまま斬る!

 堅い! なんだ?!

「骨ぇ?!」

「若殿! 魔力巡りを途切れさせるな! そのまま振り切れ!」

 フェアヴァルターの言葉に、そのまま魔力を乗せたまま振り切るも、やっぱり骨に阻まれた。

「フヒッ、ヒヒヒッ! くっそ堅ぇわ!!」

 最後まで通せなかった! よろけながら着地する。

「もう一回やれる!!」

 誰の声? たぶんトレッフが言ってくれた!


「ギャァァァァァァァ!!」


 ヒポグリフの咆哮でワンワンと耳鳴りがやまない。だけどここで立ち止まるわけにもいかないよね?!

 今度は下から! 時々飛ばされる風圧をよけて、ヒポグリフの足元から飛び上がって、首に向かって『夜明』を振りぬく。

 また肉を斬る感触にぞわぞわするけど、今度こそ骨まで断つ!!

「うりゃぁぁぁぁぁ!」

 堅い! 骨! もっと魔力を刃に乗せて!

「落ちろぉぉぉぉ!!」


 『夜明』を振り切ると同時に、ヒポグリフの首が落ちた!


「アル!!」

 ようやく斃せたというのに歓声の声じゃない、ネーベルの焦ったような声。

「やっ、うえぇぇぇ?!」

 首を落とされたヒポグリフの最後の足掻きだというように、翼を羽ばたかせ、僕の体が宙をまう。

「アル!!」

 縄鏢の縄からとっくに手を離したネーベルが、追いかけるように飛び上がって腕を掴まれるも、今度は何か後ろから引きずり込まれる感覚。

 なに、これ?


「「「若殿!!」」」

 フェアヴァルターとピート、それからトレッフの焦ったような声。

「アルー!」

「アルベルト様! ネーベル!」

 テオとクルトの驚いたような声。

「アルベルト様!! ネーベル!! 嫌だ!! ダメ! 私も!」

「ヒルト! いけませんわ!」

 泣きそうなヒルトの声と、ヒルトを引き留めるヘッダの声。


 みんなの声が聞こえたと同時に、僕の視界は反転した。







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