第17話 いざ、不帰の樹海へ

 僕のバルディッシュが出来上がった翌日、ようやく不帰の樹海に入ることとなった。


 不帰の樹海にはホロ付きの荷馬車で行くことになる。車体をひくのはスレイプニルだ。フルフトバールでは、不帰の樹海に入るのに使うのは、捕縛して飼い慣らした元野生のスレイプニルだけらしい。人の手で繁殖させたスレイプニルだと、不帰の樹海で魔獣に襲われたときの生存率が低くなるからなんだって。

 繁殖させたスレイプニルは、それはそれで利用価値があるので、積極的ではないけれど、少しはやっているのかな? まったくないわけではないと思う。

 そして不帰の樹海に入る装備は、前に、テオと手合わせしたときにつけた、亀系の魔獣ザラタンの甲羅と、キングボアの革で作られたプロテクターだ。

 魔獣狩りで鎧を着けることは本当に稀らしい。

 動きやすさ重視なんだろうな。あと防御面では魔力巡りもあるから、あまりがちがちに金属の鎧で覆うのも良くないらしい。


 不帰の樹海の中にはいくつかの安置拠点セーフティーベースがあって、そこを中心にして魔獣を狩るそうだ。

 浅層には二拠点、中層には五拠点、深層には八拠点ある。不帰の樹海には最深層まであるのだけれど、もともとは領内に入り込む魔獣を間引くための魔獣狩りだから、最深層まで入り込んで魔獣を狩るメリットはないとのことで、入り込むのは深層地までになっている。

 今回僕らが行くのは、浅層の安置拠点だ。

 荷馬車だから振動は激しい。けれど、安置拠点までの道路整備はちゃんとされていて、きっとほかのところに比べると、ましなほうなんだと思う。

 おじい様は領内の街道整備にはとても力を入れていて、土属性の魔力を持っている人は、貴族・平民関係なく街道整備の雇用を受け入れている。

 確かに、フルフトバール城がある領都だけではなく、近隣の町や村も道が石畳やレンガなんかで綺麗に舗装されていた。きっとほかのところも同じように整備されているのだろう。


 早朝に出発して、やっとの思いで浅層の安置拠点に到着、時間は昼より少し前ぐらいだ。

 そこには二人の男性がいて、一人はクリーガーと同じぐらいの年齢の男性と、もう一人は双子よりも二、三歳年下と思われる青年がいた。

「初めまして若殿、今日ご一緒するトレッフです」

 先に挨拶をしてくれたのはクリーガーと同じぐらいの年と思わしき細目の男性。

「ピートです! わぁ~、若殿お会いしたかったです!!」

 もう一人の若い青年に両手を掴まれぶんぶんと振られる。

「よろしくトレッフ、ピート。アルベルトだよ。初めてで何もわからないことだらけだから、いろいろ教えてくれると嬉しいな」

「何でも聞いてください」

「あぁ、そうだ。トレッフ、ピート。こっちは僕の友人たち」

 二人に挨拶をしてから、ネーベルたちのことも紹介する。

「ネーベル・クレフティゲです」

「あ、もしかしてヘルベルト様の新しいご子息ですか? ラング様が、引き取るなら自分でもよかったじゃないかって、ずっと言ってたみたいですね」

 そう言ってピートはネーベルの手もつかんでぶんぶんと振り回す。

「ブリュンヒルトと申します。言いにくいと思いますので、どうぞヒルトと呼んでください」

「わたくしはヘドヴィックと申しますわ。わたくしのことも気軽にヘッダと呼んでくださいまし」

 ヒルトとヘッダはあえて家名を名乗らなかった。貴族のお嬢様だと知れたら、安置拠点で待つように言われると警戒したのかな? でもねぇ? もう容姿や所作から言って、絶対高位貴族のご令嬢だってバレバレですよ。

「お嬢さんたちも一緒なんですね。浅層の危険度は低いほうですが、何があるかわからないので、我々から離れずにいてください」

 トレッフの言葉にヒルトとヘッダも、了承の言葉を発しながら頷く。

「テオドーアだ、よろしく!」

「クルト・シュリュッセルです。今日はよろしくお願いします」

 テオ、君さぁ、僕に挨拶したときの令息感がまったくなくなってるよ? もうちょっとちゃんとしよ?

「はい、よろしくお願いします」

 テオとクルトには普通に握手するピートを横に、フェアヴァルターはトレッフに訊ねる。

「今日の様子はどうなんだ?」

「それが、いつもよりも大人しい」

 するとフェアヴァルターが顔をしかめる。

「大丈夫か?」

「深層中層はわからんけど、浅層はもともと大人しめばかりだし」

「感覚が狂ってるぞ? 魔獣のトレインがなければいいが」

「最深層のが降りて来てるのとは、また違う大人しさだと思う。何かに警戒してるのは同じだが」

 そう言って二人とも僕を見る。

「え? もしかして、今日は、ダメなの?」

 そんなぁ、せっかくここまで来たのに。

 しょぼくれた僕にトレッフとフェアヴァルターが慌てて声を掛ける。

「いやいやいやいや、大丈夫です! 若殿、浅層の魔獣はもともと大人しいですから!」

「何かあってもトレッフとピートがいますから。二人は深層で魔獣を狩ってる、魔獣狩りのエキスパートです。ご安心ください」

 え? そうなの? そんなすごい人たちがインストラクターしてくれるの?

「大丈夫? 中止、しない?」

 もう一回、確認のために訊ねると、トレッフは力強くうなずいた。

「はい、大丈夫ですよ」

 よかったぁ。ここで引き返したら、僕を呼んでるやつにも会えないぞ。って思ったんだけどね、でもよくよく考えてみたら、不帰の樹海って、めっちゃ広いし、そもそもあいつがこの樹海のどこにいるかは分かんねーじゃん!! どうやって行くんじゃ?!

 今頃、それに気付いてしまったのだけど、いやいや、今日の僕の目的は、初の魔獣狩りだよ。

 呼ばれている感じは、この不帰の樹海に入ってからはさらに強くなっているけど、今日は、あいつには会えればいいかなぁ? ぐらいでね。だってきっとこれから何度もこの不帰の樹海に来るはずだし、成人すればフルフトバールに永住だからさ。






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