第16話 『夜明』と『宵闇』

 許可が取れたから、はい、しゅっぱーつというわけにはいかない。

 いろいろ準備して、万全な体制を整えて、それから不帰の樹海に行くことになる。

 今回は僕の初陣&初狩りの儀がメインだから、浅層で獲物を見つけて狩ることになった。

 同行者は、ネーベルとヒルト、ヘッダ、テオに、クルト。お子様たちで初めての魔獣狩りってことになるのかな。それでインストラクターはフェアヴァルターなんだけど、現地であと二人、合流することになっている。その人たちは、常に不帰の樹海で魔獣を狩っている人たちだから、先に行って様子見してくれているんだって。

 おじい様とクリーガー父様も一緒に来たがっていたけど、今回はご遠慮くださいとフェアヴァルターに止められていた。


「主君とクリーガーが一緒では、若殿よりも先に魔獣を狩ってしまうでしょう? ダメですよ。今回は若殿の初の実戦なんですから。自重してください。城で若殿が帰ってくるのを奥様方と一緒にお待ちください」

 フェアヴァルターの言葉に、おじい様は考え込んでから、そうだなと頷いて引き下がってくれたけど、クリーガー父様は渋った。

「だけど、三人だけではすくなすぎじゃないか?」

「……クリーガー。若殿が心配なのはわかるが、過保護すぎだ」

「で、でも、若君を入れて六人だろう? 万が一があったりしたらどうする」

「だからシューピル部隊を休ませて、ピークとトレッフを同行させるんだ。場所は浅層、それから俺とあの二人も一緒なんだから、騒ぐな」

「そ、そうじゃなくってだな」

「諦めろ。お前が居たら若殿の初陣が初陣じゃなくなる」

「だけど」

 諦めが悪いクリーガー父様だけど、フェアヴァルターは断固として許可しなかった。

「新婚なんだから、若奥様と一緒に大人しく待ってろ」

 最後はその言葉に、クリーガー父様はしょぼしょぼとしながらも、随行は諦めてくれた。


 それから、不帰の樹海に入る前日に、僕の新しいバルディッシュが打ちあがったのだ。

 バルディッシュが完成したという知らせを受けたので、フェアヴァルターに連れられて、ネーベルと一緒に取りに行こうとしたら、やっぱりここでもテオに、一緒に行くー! っていう駄々こねをされてしまった。

 なんだろう、テオってさぁ……、手のかかる弟みたい。

 そんなこんなで工房にお邪魔したわけだけど、集中して作ってくれていたためか、ハラルドもスグヴィスも少しやつれているように見えた。

「若殿、こちらが打ちあがったバルディッシュです」

 エギルがそう言って二振りのバルディッシュを僕の前に持ってきてくれた。


「こちらがハラルドが打ったバルディッシュです」

 先に見せられたのはハラルドの打ったバルディッシュ。

 ハラルドのバルディッシュは刃のところが何となく日本刀を思い起こさせる造りになっていて、ブレイドの部分の逆側は鉤爪状、ブレイドは今まで使っていたものよりも長めになっている。柄はエントから採れたものだ。

「持ってみてもいい?」

「どうぞ」

 ハラルドのバルディッシュをもって、ぶんぶんと振り回す。重さはちょうどいい。振りの遠心力ももっていかれない。一通り振り回して、これはすごくあつかいやすいなと思った。


「そしてこっちはスグヴィスの打ったバルディッシュです」

 今度はスグヴィスのバルディッシュを見せられる。

 スグヴィスのは先頭にハルバートのような鋭利な穂先が付いていて、ブレイドの部分がやや幅広。そしてこちらも柄はエントから採れたものを使っているようだ。

「どうぞ手に取ってお確かめください」

 スグヴィスのバルディッシュも手に取り振り回してみる。ん、重さはこっちのほうがあるけど、なんだろうハラルドのものとは違い、安定感が半端ない。柄の握り部分のところも握りやすいように加工されている。

 癖は、スグヴィスのほうが強いかもしれないけど、安定感はすごい。ハラルドのも、スグヴィスのほどの安定感はないけど、滅茶苦茶扱いやすい。

 これは甲乙つけがたい。どっちも素晴らしい出来だったので、僕は思わず欲張ってしまった。


「どっちも気に入ったから二つとも頂戴」


 と言ったら、スグヴィスはあんぐりと口を開け、ハラルドも驚いたような表情を見せる。

「え? ダメ? 二振り欲しいっていうのはダメだった?」

「いえ、そうではなく、選ばれるのは一振りだと思っていたので」

 驚きながらもハラルドは答えてくれた。

「だってこんなにかっこいいのどっちも選べないじゃん。だったら両方貰って、使ったほうがいいに決まってる」

 うん、使い比べだってしたいよ。あときっと、魔獣によっては替えて使ったほうがいいかもしれないしね。

「若殿がどちらもご所望なれば、我らに否はありませぬ。どうぞ二振りともお納めください」

 エギルに言われて、二振りとも貰えることになった。貰うっていうか、ちゃんと費用のお支払いはしてるからね、二振り分。


「僕さ、自分の武器を手に入れたら銘を付けたいなーってずっと思ってたんだよね。ハラルドのバルディッシュは、夜明け前の暗い藍色の空のような刃の色だから、『夜明』。スグヴィスのは黒みがかった色だから『宵闇』っていうのはどう?」

 武器に銘なんて厨二ちっくかもしれないけど、銘が付いたほうが、愛着が湧くじゃない? 

「銘を彫らせてください。口金のところに、若殿がおっしゃった銘を入れましょうぞ」

 エギルがそう言って、ハラルドのバルディッシュに『夜明』、そしてスグヴィスのバルディッシュに『宵闇』の銘を入れてくれた。

 えへへへ、僕の武器~!!

「百年使ったら神様が宿るかも」

 付喪神になって、僕の子孫を守っておくれ。






■△■△■△

面白かったら、フォロー・♡応援・★レビュー ぽちりしてください。

モチベ上がりますのでよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る