第15話 魔獣狩りはピクニックではない
僕の願いは叶わなかった。
ハント゠エアフォルク公爵夫妻も、マティルダ様も、あっさりとテオとヘッダの魔獣狩りの同行を許可出しやがった!
なんでぇ?!
特にハント゠エアフォルク公爵夫妻! まだ未成年のご令嬢の魔獣狩りをどうして許可するの?!
確かに初狩りだから浅層付近での狩りだよ? ベテランのフェアヴァルターと他数名がインストラクターでついてきてくれるよ? でもさぁ、万が一があったらどうすんのよ?! 止めて! 誰か止めてぇ~!!
長い付き合いのネーベルは僕の心情を読んだのか、同情的な眼差しを向ける。
「いやさぁ……、逆転の発想で、フェアヴァルターさんがいるから安心だと思えば……」
安心できるか! むしろフェアヴァルターがいるからって無茶するでしょ!!
「あの、アルベルト様」
ヒルトは言いにくそうな様子を見せながらも発言する。
「わ、私も一緒に行っていいですか?」
あー!! ここにも戦闘力高めのつよつよ女子いたー!!
「あのねぇ、ヒルト。危険なのわかってる? 怪我でもしたらどうするの? 僕のお嫁さんの頼れる側近になりたいんじゃないの?」
「そ、それはそうですが。あのでも、その、ま、万が一のことがあったら、ネーベルがいるので!!」
確かにネーベルはヒルトが消えない傷を負っても気にせんだろうけど。
ヒルトの言葉に思わずネーベルを見たら、ネーベルは浮かれるよりも、苦渋の表情をしていた。
葛藤してるなぁ。
ネーベルはヒルトの実力は十分に知ってるけど、同じぐらいに、女だからと言われ続けて、武術の制限をされていたことも知っているのだ。まぁそうやって騒ぐのは、ヒルトの家族以外の人なんだけど。
ネーベルが止めたいのは、相手がヒルトだから、なんだよね。やっぱりさ、好きな子にはできるだけ危険な場所ではなく安全な場所にいてもらいたいじゃん? でも、それを言うと、ヒルトのやりたいこと、それから強さや実力を否定しているようになる。それでもって、そういうことでヒルトが悔しい思いをしてきたことを知ってるから、やめろ、とは言えないんだよね。
「ヒルト」
「わ、私も行く! ネーベルが止めても一緒に行く! 女だからってそういうので置いて行かれるのは嫌だ!」
やっぱりヒルトは、それが一番引っかかってたんだろうな。
「そんなこと言ってないだろ」
「でも!」
ネーベルはしかめっ面のままだから、ヒルトは反対されると思ったのだろう。さらに言い募ろうとする。
「侯爵とご両親に許可を取れよ。誰か一人でも駄目だって言ったら、ヒルトは留守番だ」
ネーベルの言葉に、ヒルトの表情がぱぁっと輝いた。
「わかった!」
そう言って、ヒルトはさっそくご両親と、祖父であるギュヴィッヒ侯爵の元へ走り去る。
「アル、ごめん」
ヒルトの後ろ姿を見送りながらネーベルが僕に謝る。
「止めなきゃいけないとは思ったんだけど」
「あれは仕方がないよねぇ」
僕らは出会ってからずっと一緒だったからね。
それにヒルトは、今まで一度だって口には出してなかったけど、誘拐事件のこと引きずってる。あの日、ヒルトは家の都合で一緒に馬牧場へは来れなかった。
僕とネーベルにしてみれば、ヒルトまで危ない目に遭わなくてよかったって思ったんだけど、ヒルトからすれば、僕らが誘拐されて危険な目に遭っていた時にそばにいなかったことが、心の中でずっと引っかかってるのだろう。
だから今回、ヒルトは僕らと同行したがっている。
「俺が出来るだけ見てるから」
「ん~、まぁ、僕ら子供だけってわけでもないし、心配し過ぎるのも良くないのかな?」
「いや、俺たちはうるさいぐらいがいいと思う、特にヘッダ様には」
それな! 本当にあのワクワクさんはどうしてくれようか。いろいろ頼んでる身としてはね、ヘッダの好きにさせてもいいと思うんだけど、でもねー、忘れちゃいけない。あの子はイグナーツくんのお嫁さん最有力候補なのよ。
王妃様が隣国の王族の血を引く公爵家のお姫様だから、イグナーツくんのお嫁さんは、絶対に国内から選ばなきゃいけないのだ。
イグナーツくんとヘッダの婚約は、おそらく学園に入学する前までには、正式発表されるのかなぁ? ヘッダをイグナーツくんの婚約者にして、学園内でもちゃんと交流させようっていうのが上の方針だからな。
ただ、宰相閣下筆頭に国議に出てる貴族たちは、イグナーツくんの婚約を発表することに関して、滅茶苦茶慎重になっている。
誰とは言わないけれど、婚約者を発表しているのに、他国のご令嬢に公開プロポーズしたバカが、ラーヴェ王国の王族にいたからだ。
イグナーツくんがそういうことをするとは思えないけれど、ラーヴェ王国としては、あんな醜聞はもう二度とご免で、だから発表は、学園を卒業してからのほうがいいのではないかと、そういう意見も出ている。
このことは、もうずいぶん前から、イグナーツくんだけではなく、ヘッダにも話が通っているのだ。
公式文書にされているわけではないが、学園に入学する前か、それとも卒業した後か、正式に二人を婚約者と発表すると。
そうか……、だからヘッダは魔獣狩りに同行したいと言ったのか。
婚約が発表されたら、イグナーツくんの隣に立つものとして、妃教育が始まることになって、自由に動き回ることなんて、もうできない。
この世の不思議をたくさん知りたいと願うヘッダの望みは、きっと叶わなくなるのだろう。
そう思うと、今回の魔獣狩りは、ヘッダの自由に動ける、最後の思い出になるのかもしれないのだと、僕は気が付いた。
いや、でも半分は、自分の手で魔獣を斃したいっていう欲求もあるはず。
知り合ってからずいぶん経つけど、いまだにヘッダは何を考えているのか読めない所があるんだよね。
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