第13話 まるでわんこのようだ

「アールー!」

 寝具にくるまって、気持ちのいい睡眠をむさぼっていた僕を起こしてくれたのは、フルフトバール城に泊まっているテオドーアくんだった。

「起きろよ、アル!」

「なぁにぃ?」

「外に行こうぜ! 中央広場でなんかやってる!」

「あぁ~、昨日クリーガー父様たちが狩ってきた魔獣を料理する会場つくってるんだよぉ」

 んなの後でいやって程見れるんだから、今行く必要ないっつーの。

「見に行こうぜ!!」

 ゆさゆさと揺さぶられるのを無視して、掛布の奥に潜り込むと、今度は掛布をぐいぐい引っ張られる。

「あとでね~」

 僕はまだもうちょっと眠いの。

「アル~! なぁ、アルってばぁ!」

 しつこくぐいぐい掛布を引っ張られ、しまいには剥ぎ取られてしまった。

 も~! なんなんだよ一体!

 しょぼしょぼする目をこすりながら、掛布を剥ぎ取ったテオドーアくんを見ると、きらきらした瞳でこっちを見ていて、すぐにでも遊ぼう遊ぼう、外に行こう、出かけようと言いたげな顔で……、どこかでこんな感じの見たことがあるような……。

 そうだ、シベリアンハスキー。アレに似てないか?

「おはよう! 城下に行こうぜ! あのバカでかい肉運ばれるんだろう?」

 バカでかい肉というのは、昨日クリーガー父様が狩ってきたグレートキングボアのことだ。

 不帰の樹海の浅層にいるボアは、ビッグボアなんだけどねぇ。キングボアどころかグレートキングボアってさぁ、絶対浅層じゃなくって中層まで入ったでしょう? 浅層にビッグボアの最上位種がいるか。

 しかも、一体じゃなくって二体も狩ってきたからね。

 クリーガー父様はグレートキングボアの中に入っていた魔石を母上に贈りたかっただけなんだろうけれど、ちょっとやりすぎじゃない? って思ったらさ、クリーガー父様は遊牧の民の血を引いてるから、それが原因でしょうなと、フェアヴァルターが説明してくれた。

 フルフトバール領の近くには遊牧の民がいて、クリーガー父様のルーツとなる部族は、狩りで仕留めた獲物を花嫁に贈る習わしがあるそうだ。それで狩った獲物が大きれば大きいほどいいとされているらしい。この先一生食べるに困るようなことはさせませんよという証になるそうだ。

 狩ってるところ、見たかったなぁ~。

 クリーガー父様が持ってた剣、ほんとバカでかい大剣だった。あれどうやって使うか見たかった。早く僕のバルディッシュ出来上がらないかなぁ。


 寝台の上で、ぼーっとしてたら、テオドーアくんに揺すられる。

「アルってば!」

「なんだよ」

「出かけようぜ!」

 まるでマテが出来ないわんこのようだ。

「言っとくけど、ヘッダ嬢はこんな早朝からお出掛けしたりしないからね」

 ジト目で僕がそう言うと、テオドーアくんはぴたりと動きが止まる。

「そ、そ、そんなんじゃ、ないぞ」

 嘘つけ。どーせ、僕をダシにしてヘッダ嬢を誘いたかったんだろうに。

「テオドーア様、アルベルト様のお支度にしばしお時間を頂きます」

 テオドーアくんは、シルトにそう言われて、ぽいっと部屋から追い出される。

「……二度寝はできないよねぇ」

「おそらくまた起こしにいらっしゃると思います」

 ですよねー。

 しゃーない、起きるとするかぁ。

 シルトとランツェに、朝の身支度を手伝ってもらうことにした。





「うぉ~! すげ~! やっぱ、でけ~!」

 テオドーアくんのはしゃいだ声が上がる。

 一応狩ってきた昨日のうちに、血抜きと皮と骨と肉の解体は行われてるものの、部位ごとに切り分けられているわけではない。

 本当はこういう肉って、しばらく置いて熟成させたほうがおいしいんだろうけれど、お祭りだからね。

 会場に運ぶために、肉磨き……いわゆる脂身や筋を取り除く作業をして、そこからさらに部位ごとに切り分ける。

 これでベーコン作ったら美味しいだろうなぁ。塩とハーブで数日漬け込んで、それから燻製させて、厚切りに切ってベーコンエッグ。あのほら、食欲そそる料理が出てくるアニメで作られたあれ。食べたいなぁ。ベーコンだとバラ肉だよねぇ。


 グレートキングボアの骨や毛皮、それから牙は加工されていろんなものに使われる。牙は武具やアクセサリー、骨は一部薬とか、毛皮は毛と皮を分離させて、皮はなめして何かに使うんだろうな。毛はどうするんだろ?

 クリーガー父様が狩ったものだから、牙は僕にって渡してくれたんだけど、使い道がわからないので、鍛冶屋のほうに回してもらった。これで何か作ってと言ったから何か作ってくれるはず。


「アル、眠そうだな? 大丈夫か?」

「うん、朝からたたき起こされたからね」

 あくびをしてたところをネーベルに見られ。気遣われる。

「ネーベルもこんな早くからこっちに来て大丈夫? クレフティゲ家でゆっくりしてても良かったのに」

「いや……、その使用人の宿泊棟でいいから、しばらくこっちにいたい」

「なんで?」

「伯爵夫人が……」

 ネーベルの言う伯爵夫人は、クレフティゲ伯爵夫人のことだろう。ネーベルの養父であるヘルベルト老は、爵位を長子のご子息に譲っている。

 クレフティゲ伯爵はネーベルにとっては義兄となるのだ。

「ん? あれ? でもヘルベルト老って、伯爵夫妻と一緒に暮らしてないよね?」

 爵位譲ってからは、別宅を作ってそっちに居を構えたって聞いたぞ? で、ネーベルはヘルベルト老の養子だから、こっちに戻ったらヘルベルト老と一緒に暮らすか、それとも僕と一緒にフルフトバール城で暮らすかになると思うんだけど、今はヘルベルト老のお家で寝泊まりしている。

「伯爵夫妻が泊まりに来てるんだ」

「なんで?」

「父上だけじゃ俺の世話が行き届かないだろうって」

 もしかしなくても、これはあれか、ヘルベルト老の養子になったネーベルが気になるというか、どういう子なのか知りたいって感じ?

「クレフティゲ伯爵夫妻は、お子さん居たよね?」

「俺より年上の甥っ子と姪っ子が……」

 だよね? おじい様から聞いたことあったもん。

「その二人も来てて……、いろいろ世話をしてくれるのは嬉しいんだけど、ちょっと、やりすぎ」

 あぁ、そういうことか。クレフティゲ伯爵一家は、新しく家族になったネーベルを構いたくって仕方がないんだろうなぁ。

 でも、ネーベルは前の家族とはうまくいってなかったし、物置小屋で生活していた魔法使いの子供みたいな扱いされてたから、家族との距離感がねぇ。ヘルベルト老は人生経験豊富だから、焦らずゆっくりネーベルのパーソナルスペースに浸食出来るんだろうけど、ご子息の伯爵夫妻はぐいぐい踏み込んできてるんだろうなぁ。

「辛いなら、こっちに泊まりに来なよ。僕に呼ばれてるって言っていいからさ」

 クレフティゲ伯爵夫妻、ネーベルとヒルト嬢のこと知ったら、余計に騒ぎそうな気がしない? おじい様に言っておこう。





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