第12話 どこもかしこもあまずっぺー
母上の結婚式は領都内にあるエルデの神殿で行われた。
司祭様が祝詞をあげ、新郎新婦の誓いの言葉を認め、それから互いに身に着けるアクセサリーを贈る。このアクセサリーは、身に着けられる物ならどのような形でもいいので、特にこれという決まりはない。大体は指輪かブレスレットが主流だ。
クリーガーは指輪、母上は腕輪を用意して、内側にお互いに向けたメッセージと、それから付与が付いた魔石が埋め込まれている。
それが終わったら誓いのキスをして、司祭様のお言葉で締め。
出席者が先に神殿から出て、神殿の出入り口で新郎新婦を待ち受け、出てきた新郎新婦に花びらを降らせてお祝いする。
めでたい。
フルフトバールの領民たちも母上とクリーガーにお祝いの言葉を贈ってくれる。
この結婚式の日から、フルフトバール城がある領都内で、三日三晩のお祭りが行われるのだ。
初日はフルフトバール城で親族やお呼びした貴族を相手に結婚披露パーティーが行われ、二日目は新郎であるクリーガーをはじめとした男性たちが、不帰の樹海に入って魔獣を狩ってくるのだ。その日のうちに戻ってくるから、狩場は不帰の樹海の入り口付近の浅層だ。狩ってきた魔獣はその日のうちに捌かれて、翌日の最終日、捌かれた肉は領都の大広場で調理され、領民たちに無料でふるまわれる。
で、結婚式が終わった後の城内での結婚パーティーなのだけど……。
「御機嫌よう。アルベルト様」
「お久しぶりです。アルベルト様」
来てましたわ、ヘッダ嬢とヒルト嬢が。ご両親と一緒に。
母上の結婚パーティーだけど、おじい様繋がりでご挨拶しなければいけない、お偉方の貴族のご当主もいるので、挨拶をしまくって、あらかた挨拶が終わった後、ネーベルとそれからテオドーアくんとクルトくんと一緒に、端っこでビュッフェを頂いていたら、可愛くドレスアップした二人が挨拶に来たのだ。
「御機嫌よう、ヘッダ嬢、ヒルト嬢。まるで月の妖精と炎の妖精のように神秘的だね」
もちろん月の妖精はヘッダ嬢で、炎の妖精はヒルト嬢だ。
ヘッダ嬢はシャンパンゴールドの生地にパールがちりばめられているドレスで、ヒルト嬢は深紅のドレスに黒のレースが縁どられたドレス。どちらも美しく、パーティー参加者の注目を浴びている。
ドレスアップした二人の令嬢、主にヘッダ嬢に見惚れてるテオドーアくんはこの際おいておくとして、ネーベルはヒルト嬢を見てそわそわしながらも、つたない誉め言葉を贈る。
「き、綺麗だ。すごく似合ってる」
「あ、ありがとう。ネーベルも、かっこいいぞ」
「飲み物っ、何がいい? 喉かわいてるだろう? とってくるぞ?」
「あ、えっと、一緒にいってもいいか?」
「うん、じゃぁ、一緒に……」
あ、あまずっぺー! 食べてるのはローストビーフだけど、滅茶苦茶あまずっぺー!! ソースのせいかな? グレイビーソースのを選んだと思ったんだけど、オレンジソースだったみたいだ。
「あ、アル。アルの飲み物も持ってくる。なにがいい?」
「レモン水お願い」
「わ、わかった! ヒルト、行こう」
手を繋いでドリンクバーにいく二人を見送りながら、残りのローストビーフを口に入れ、もっもっもっと咀嚼する。うんまい。
「あらあら、まぁまぁ」
ヘッダ嬢も猫のように目を細めながら、ネーベルとヒルト嬢を見送る。
「相変わらず仲がよろしいこと」
もうずっと一緒にいるからね、今更だけど、ネーベルの養父であるヘルベルト老は、ヴュルテンベルク家に、ネーベルとヒルト嬢の婚約の打診をしているらしい。
「あら、こちらは?」
「紹介するよ。メッケル北方辺境伯の令息、テオドーア・ゲベート・ヒンデンブルクと、ご友人のクルト・シュリュッセル子爵令息だよ。テオドーア、こちらハント゠エアフォルク公爵家のヘドヴィック嬢」
「どうぞヘッダとお呼びくださいませ」
カーテシーでご挨拶するヘッダ嬢に、テオドーアくんはぽわーっとした顔で見惚れて、クルトくんに突かれて慌てて挨拶をする。
「あ、は、はいっ、テオドーア、いえ、テオって呼んでください!」
「テオ様ですね。よろしくお願いしますわ。口調も崩されてもよろしくてよ? わたくしはこの口調が癖になってますのでご容赦下さいまし」
「う、うん」
こっちもあまずっぺーなぁ。だけどそのお姫様はあれだからな、テオドーアくんが言ってる『お姫様』よりも苛烈だからな? 今は人前で70%抑えてるだけだからな? それから僕の異母弟の嫁候補なんで色目使わないように。
「きらびやかなお姫様ですね。容姿はあっちのお姫様に負けず劣らずって感じなのに、なんか……違う?」
「違うねぇ。ヘッダ嬢はアインホルン公女とは違って能動的な令嬢だからかな」
「能動的?」
「公的なところでは、あんな感じでお姫様やってるけど、実際はやんちゃな猫ちゃんだよ」
ただし猫は猫でも、イエネコではないけどね。
「このテリーヌ、うっま」
「……殿下はマイペースですね」
色気がないって言いたいのかな? やかましいわ。
二日目の魔獣狩りは、新郎のクリーガーがメインの狩りだから、僕はお留守番。もちろんおじい様もお留守番。
仕方がない。だっていつも使ってるバルディッシュはまだ砥ぎの途中だし、僕専用のものは今打ってもらってる最中なんだもん。
フェアヴァルターも行くのかな? って思ったら、警護の関係で行きませんと。でも僕と一緒に王都からフルフトバールに戻ってきた庭師の数人はクリーガーと一緒に狩りに行ったらしい。
そうそう、クリーガーはさ、母上と結婚したんだから僕の継父になるわけでしょう? だから『父上』って呼んだんだけど、母上から『旦那様』呼びされたときみたいに顔を真っ赤にして、出来ればいつもみたいに名前で呼び捨ててほしいって言われてしまった。
そんな恥ずかしがることぉ? いいじゃん、母上と結婚したんだから僕の父上になるんだよ? 僕が不貞腐れた顔をしたら、母上に少しずつ慣れさせてあげてと言われたので、じゃぁ『パパ』にする? って聞いたら余計に照れられてしまった。
だから妥協して、クリーガー父様と呼ぶことにした。もう決定。本人がどれだけ照れても呼び方は改めない。
早く弟か妹が生まれないかなぁ~。妹だったら、僕、滅茶苦茶に甘やかす自覚がある。弟でも甘やかしたい。でもきっと可愛い盛りのころには、そんなに会えないんだろうなぁ。
来年は学園に通うし、長期休暇になったらフルフトバールに来れるようにしたい。
■△■△■△
面白かったら、フォロー・♡応援・★レビュー ぽちりしてください。
モチベ上がりますのでよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。