第10話 手合わせという訓練の難しさを知る

 フェアヴァルターといつものメンバーの庭師たちに、準備してもらって、城壁傍の広場で手合わせをすることになった。

 テオドーアは木剣、僕はいつも使っているバルディッシュと同じ長さの長棒に、先のほうに革袋で覆ったおもりを付けたものを用意してもらった。

 ぶんぶんと振り回してみたものの、打ち合い用のものだから、やっぱりちょっと軽い。手からすっぽ抜けそうで怖いなぁ。


「テオドーア様、前もってご説明させていただきますが、フルフトバールの人間は、武器での手合わせという訓練はしません。剣技などで優劣をつける意味がないからです。そこだけはご理解してください」

 フェアヴァルターの説明に、テオドーアくんは不思議そうな顔をして僕のほうを見る。

「魔獣狩りに打ち合いなんか意味ないでしょう?」

 僕の言葉に一瞬呆けたものの、すぐにその意味を咀嚼したようだ。

「……そういうことか?!」

 ありゃ、今わかったのか?

「じゃぁさっき言ってた対人が下手っていうのは」

「教わってるのは急所狙って狩る方法なんだから、対人向けじゃないよね。対人仕様だと殺し合いになっちゃう」

「そ、そー言うことは先に言えよ!」

「だから、対人は下手って言ったじゃん」

「はい、そこまでです」

 パンッと手を軽く叩いてフェアヴァルターが、自分のほうに注目させる。

「ですので、テオドーア様。アルベルト様はテオドーア様自身に攻撃は致しません。そしてアルベルト様。アルベルト様はテオドーア様の攻撃を防いでください」

 つまり僕はテオドーアくんの攻撃をこの長棒を使って、防ぐか躱すのか。それならできるかな?

「そうしたら、勝敗はどうやってつけるの? 延々攻撃を受けるのは、うーん、ちょっとしんどいかも?」

「得物を落としたほうが負けです」

 あ、はいそういうことですか。わかりました。でもなー。

「それだと、テオドーアが不利だよ。僕のほうがリーチあるし。だからこうしようか。ランツェ、何か細長い布ある?」

「こちらを」

 差し出された布を受け取り、それをおもり近くの場所に結び付ける。

「僕が長棒を落とすか、この布をテオドーアの木剣で破ったり、解けたりしたら僕の負け。それでいいよね?」

 そう確認するとテオドーアくんはそれでいいと頷いた。

「テオドーア様は、身体強化を使うことはできますか?」

 念のためということで、おそらく魔獣の皮で作られたプロテクターのようなものを、両手両足それから上半身に装着させながら、フェアヴァルターはテオドーアくんに訊ねる。

「一応?」

「では危険ですので、使えるのならばお使いください。アルベルト様も、魔力巡りをお使いになってもいいですが、得物に繋げてはいけませんよ」

「はい」

 長棒に繋いだら、刃がなくても斬れる、気がする。それぐらい僕でも解る。


 指定の位置について、僕はテオドーアくんと向かい合う。審判役は、フェアヴァルターだ。


「それでは、はじめ!」


 フェアヴァルターの開始の声とともに、テオドーアくんが僕に向かって剣先を向けて突進してくる。スピードはそんな速くもないので、僕はその剣先を長棒ではじく。

 と同時に、テオドーアくんのバランスが崩れるもすぐに体勢を立て直して、今度は長棒にあててきた。

 うん? 軽いぞ? 打たれたときの重さはあるけど振動がそれほど強くない。この振動が弱いのは、テオドーアくんの剣を受けてるだけで、僕のほうから振るってるわけじゃないからか。

 二度、三度と、剣を受け剣戟の音を鳴らすうちに、どんどんとテオドーアくんの打ち込みのスピードが上がっていく。けど、捌ききれない速さじゃない。

「くっそっ、なんでぶれねーんだよ!」

 悪態をつかれてしまった。

 いや、ぶれないっていうか、打撃の重さは蓄積してる。けど、やっぱり持ってる長棒は軽いから、こっちから仕掛けようとすると、剣の刃の部分と当たってても、長棒の曲線で滑る~!!

 剣先は弾きやすいけど、威力が低くなるから飛ばすことが出来ない。やりにく~い!! フェアヴァルターめ、このこと知ってたな。

 さてどうする。

 状況はテオドーアくんの剣を受け止めることしかできない。

「ちょっとは焦った顔しろよ! 俺ばっかり苦戦してるみてーじゃねぇか!」

 そんなん知らんわ! うわ~、もう歯がゆい! どうすりゃいんだ。あ、そうか滑るなら……、滑らせて!

 テオドーアくんの剣を持ち上げて、そこで弾く!

 カンッと弾いた剣が、テオドーアくんの手から離れ、宙を舞ってガシャンと地に落ちた。


「勝負あり」


 フェアヴァルターの声が響く。

 うへぇ~、疲れた~。

「もーやんない!」

「なんでだよ!!」

「疲れた! 思いっきり振りそうになる! 急所めがけたくなる!」

 フェアヴァルターが、対人なら首狙えっていった意味がよくわかった。そこ狙うのが一番簡単だってわかっちゃった。

「勝ち逃げかよ!!」

「知らん! 素人の僕に手加減とかできるわけないだろ! 僕は人との手合わせよりも魔獣狩りに行きたいんだよ!!」


 手合わせの意味がないって言ったのもわかった。

 相手の攻撃を受けるのが、めちゃくちゃ歯がゆかった。テオドーアくんの急所めがけて振りぬきたい衝動に何度も駆られた。

 フェアヴァルターが僕に教えてくれたことは、本当に、人間相手のモノじゃない。これは魔獣相手のものだと、思い知った。


「アルベルト様」

 プロテクターを外す僕に、フェアヴァルターが声を掛けてきた。その表情は僕が何を言いたいのかわかっているみたいだ。

「長棒に魔力を通してたら、確実にやってたね」

「はい」

「今まで何度も寝込みを襲われたし、返り討ちにしたけど、あれは僕に対しての殺意があったから躊躇いなんかまったくなかった。でも、武器を持っての戦闘は、それよりももっと簡単に済ませることが出来るって理解しちゃったよ」





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