第9話 貴族の結婚はいろいろ大変

 クルトくん以上に、明け透けにものをいう奴はもう一人いる。

「俺は、お姫様の周囲にいる信者も気持ちわりぃって思う。俺がお姫様に傾けないのはそれだな。あれはかなり異常に見えるぜ」

 テオドーアくんの『お姫様』呼びは、わざとなんだろうなぁ。そして信者かぁ、言い得て妙。

 アインホルン公女の魅了にやられてる人って、まさしく信者って感じ。中にはいきすぎちゃう人もいるんだろうけどね。


「テオドーアは、二年前に起きた誘拐のことは知ってるの?」

「公爵から聞いた。お姫様とアルベルトのごたごたも聞いてたし、それで婚約させようっていうのは、公爵の愚策だって、俺でも解るわ。だけど、さっきも言ったけど、公爵はめちゃくちゃお姫様のこと可愛がってるわけよ。だから結婚相手も厳選するだろ? できれば、公爵家での暮らしそのままの生活水準ができる婚家が望ましい。って言ったら、王家か上位貴族のどっちかになる。話によると、第二王子殿下のほうとはうまくいかなかったって聞いたぜ? じゃぁ、あとはアルベルトしかいねーじゃん。アルベルトとの蟠りを解消させることを理由に、お姫様と接点持たせて、親密な状態に持っていかせるのは、妥当なやり口ではあると思う。でもなぁ……、お前はそのことは察してたんだろ?」

「うん」

「じゃぁ無理じゃん。こういうのはさぁ、お前がそのことに気が付いてなければ、うまくいくんだよ。運命の出会いとか、いい感じに盛ればその気にさせやすいからな」

「それは分かるんだけどねぇ……」

 テオドーアくんの言うとおり、アインホルン公爵のやり方は、別に悪くはない。でもさぁ、相手によるっていう注釈がつくよね。

 貴族令嬢にとっての婚姻の目安は財力・権力っていうのは、当たり前なんだけど、アインホルン公爵はそこに『愛』っていうのも入っていそう。財力・権力があっても、婚家で虐げられてたら、本末転倒だしな。

 財力と権力と、それから愛されることが揃ってれば、アインホルン公女は幸せになれるって思ってるんだろうけど……。

「そこまで考えてるなら、肝心の娘さんが、相手をどう思ってるかっていうのも加味する必要があるでしょうよ」

「だから、公爵の早合点だったってことよ。いろいろ反省してるみたいだぜ?」

「反省?」

「誘拐事件の後の対応も良くなかったんだろう? 大切な一人娘が危ない目に遭ったんだし、心情としては犯人とっ捕まえて八つ裂きしなきゃ気が済まない。とにかく、いち早く犯人を捕らえたかったのは、親心ってやつだ。けど、それやるなら、まずアルベルトに頭下げるのが先。なのに、それやるよりも先に、関係者始末しやがってって怒るのはさぁ、ちょっと余裕がなさすぎだよな」

 たぶんそれは魅了が関係してるんだと思う。一見ちゃんと考えていそうなんだけど、感情が暴走するっていうか……。

「公爵もアルベルトの不興を買ったのわかってんだよ。わかってねーのは公子のほうな。あれは誰かが一度ガツンと言ってやらないと、アインホルンの評判落ちると思うぞ」

 公子たちもアインホルン公女の魅了にやられてるんだと思うんだよねぇ。

 うーん、如何しようかなぁ。


「テオドーア、お願いしたいことがあるんだけど」

「なんだ?」

「特に継嗣の公子のことは、公爵か公爵夫人に忠告してあげて。このままだとアインホルン家、お家取り潰しになる。アインホルンがなくなると、ラーヴェ王国のパワーバランス崩れるし、他国に付け込まれるよ」

 公子たちがどうなろうと、どうでもいいんだけど、アインホルン公爵家がなくなるのは良くないんだよ。この先イグナーツくんが国王になったとき、ラーヴェ王国がどこかの国に付け入られる要素は排除したい。

 そのためには継嗣一人はまともであってもらわないと。それが無理なら、最悪、公子たちは全員お亡くなりになってもらって、公女に公爵家を継いでもらう方向で行くしかない。

 やだなぁこういう権謀術数やるの。

 僕の考えに気づいたかどうかはわからないけど、テオドーアくんも神妙な表情になる。

「そうだな、これは母上に相談する。そっちのほうが効くわ」

 マティルデ様にお任せするのはいいけど、やりすぎないか心配だなぁ。

「ところでさ、アルベルト」

「ん?」

「今、ヴァルンドがフルフトバールの領都にいるって本当か?」

「あ~、うん。会いたいの? 明日会いに行く? 領都のマルコシアス家のお抱え工房にいるから」

「行く!!」

 テオドーアくんは目をキラキラさせながら、食い気味で返事をする。

「やっぱ、剣はヴァルンド作のが一番かっこいいんだよなぁ。そうだ、手合わせしようぜ!」

 ここにも武器好きがいたかぁ。そしてヴァルンドは剣に特化してる刀工なのね。武器庫にあるかな?

「いいけど、僕、対人は下手だからね」

「へ?」

「それから僕が使うのは剣じゃなくってバルディッシュだから、やるなら、木剣と長棒になるよ」

「へ?」

「シルトいる? フェアヴァルターに声かけて、手合わせの準備お願い」

「伝えてきますのでしばらくお待ちください」

 見張り台の扉の前にいたシルトが、そう言って出ていく。


 打ち合いの訓練って、苦手なんだよね。あれって結局、対人仕様の訓練なんだもん。僕、手合わせって最後までできない。向かい合って武器を構えるまではできるけど、そのあとが駄目になる。

 フェアヴァルターもフルフトバールで武器を使うのは、魔獣の狩りの為って認識だし、人間相手の殺し合いなら、首を狙えの一言なんだもん。そりゃぁ、頭と胴体が離れたらそれで終了なんだから、狙うならそこだよね。

 でもそれは本番仕様で、打ち合いと殺し合いは違うから、急所狙うのは駄目でしょう? だから僕いつも失敗するんだ。





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