第8話 魅了が効かない人が他にもいた

 テオドーアくんは自分のタイプだけを暴露されたことに気が付いて、顔を真っ赤にしながら喚きだす。

「じゃぁ、お前たちの好きなタイプはどんなんだよ!!」

「うーん、フィーリング、考え方とか波長が合う子かな?」

「行動力があって心が強い子」

「僕と一緒にテオ様のフォローをしてくれる子」

 ネーベルのはタイプじゃなくって好きな子だけど、クルトく~ん! ほんとに歯に衣を着せない子だなぁ。

 僕らの好みを聞いたテオドーアくんは、なぜか悔しそうな表情を見せる。

「なんでそんな現実的なんだよ。もっとこう、理想とかそういうの、あるだろう!」

「じゃぁ、僕と一緒にフルフトバールを支えてくれる子」

「好きなことを折れることなくずっと続けている子」

「めんどくさいご主人の戯言を一緒に聞いてくれる子」

 僕らの答えはテオドーアくんが求める答えではない。彼はたぶん自分のように、具体的な人物像を出してほしかったんだろうな。


「ちがーう!! そうじゃない! そういうんじゃない!!」


 案の定、またしても喚くテオドーアくんに、思わず笑ってしまう。そして僕につられるようにネーベルとクルトくんも笑い出した。

「くっそー! なんで笑うんだよ!」

「ごめんごめん。だってムキになりすぎ。ローゼ姫が理想の女の子だっていいじゃないか。それに、理想の女の子と、実際に好きになる女の子っていうのは違うからね。例えばテオドーアは、ローゼ姫がタイプだけど、実際好きになる相手はローゼ姫みたいに守られるタイプじゃなく、弱きものを守る女の子かもしれないよ?」

 僕がそう言うと、テオドーアくんは驚いた顔で僕を見る。

「これから僕らが大人になるまで、たくさんの女の子と遭遇するんだよ? 直近で言えば来年だね」

「来年?」

「来年は、学園に入学するだろう? そこで運命的な出会いがあるかもね」

 あいにく僕の場合は、ざまぁフラグへと導く運命の相手だけどね。

 そして、イグナーツくんやテオドーアくんには、将来を共にする運命の相手がいるかもしれない。

 運命の相手と聞いて、テオドーアくんは途端にそわそわし始める。

「まぁ、それも、許婚とか婚約者がいなかった場合の話だけどね。テオドーアの場合はそういう相手が居そうな気がするんだけど? っていうか、アインホルン公女は婚約者じゃないの? なんで?」

 そう言えばこの話、途中だったよね?

「なんでって」

「だってアインホルン家から、僕の雑言を聞かされるぐらい親密なんでしょう?」

「そりゃぁ、相手の話してることに口を挟まずに、うんうん頷いて話を聞いてるんだから、自分たちの味方だと思ってなんでもべらべら喋るだろうよ。特に公子らはお姫様がこの世で一番大切らしいしな。大切なお姫様を傷つけた第一王子殿下はアインホルン家の敵なんだとさ」

 わ~、予想通りのお答え。その現象って魅了のせいなのかな? それとも純粋に、妹である公女に対しての愛情? 判断に悩むね。

「そうなんだ」

「そうなんだよ。公爵が娘可愛さに冗談で言うならわかるんだけど、公子たちはマジでそう思ってるっぽい。あの調子だと、公子……、特に継嗣である長男と婚約者の間には一波乱あると思うぜ」

「妹を優先できないなら婚約はなしだ、とか?」

「そう、それ。公子たちってお姫様のことになると、なんか常軌を逸してるからな」

 第三者であるテオドーアくんから見て、常軌を逸してるってことは、それは相当って事じゃないのか?

「公爵夫人はどうしてるの?」

「公爵夫人は叱り飛ばしてるさ。妹が可愛いのは分かるけど、婚約者と同列扱いするなってな。改善しなかったら、公子の有責で婚約を白紙にするとか。あと、殿下に対して失礼な物言いをするなってな」

 公爵夫人は女性だから魅了が効いてないのかな? でもこのままじゃ初版の白雪姫みたいにならなきゃいいけど。

「そういうことも聞いてるの?」

「公爵夫人が話してくれんだよ」

 テオドーアくんはにやりと笑いながら、答える。どんだけ猫被って話しやすい雰囲気をつくったんだろう。

 はっ! もしや、ハーレム主人公はイグナーツくんじゃなくって、テオドーアくんだったのか?!

「俺は最初から話半分に聞いてたわけだけど、実際のアルベルトがどんな奴か知らなかったわけだし、だから挑発して、どんな出方をするか、見たかったっていうか……ごめん、良くない手段だった」

「気にしてないけどね。よろしくはしたくないんだなぁって思っただけだし」

「だから、ごめんって! よろしく、したい!」

「じゃぁよろしく」

 右手を差し出せば、テオドーアくんは目を輝かせて、がっしりと握手して、ぶんぶんと振り回す。


 にしても、テオドーアくんのこの様子だと、アインホルン公女の魅了が効いてないみたいだなぁ。

 僕、ネーベル、イグナーツくんに、テオドーアくん……。

「クルトは?」

 唐突にクルトくんの名前を呼んだものだから、皆が一斉に僕を見る。

「はい?」

 ネーベルがアインホルン公女に靡かないのはヒルト嬢の存在があって、イグナーツくんは基本的に女の子怖いっていうのがあるから魅了が効きにくい。テオドーアくんはちょっとわからんけど、クルトくんはどうなんだ?

「クルトはアインホルン公女のこと、いいなぁって思わないの?」

 僕の問いかけに、クルトくんは邪気のない笑顔で言った。

「僕、あぁいうのダメなんです」

「あぁいう?」

「オティーリエ様って、誰に対しても丁寧で、優しく接して、十人いたら八・九の割合で、いい子だって言うと思うんですよ。でも僕は、残りの一・二なんです。どーしてもあぁいうのが受け入れられない。不敬承知ではっきり言っちゃうと、嘘くさいなぁって思っちゃうんです」

 一見、柔和そうな雰囲気なのに、容赦なくこき下ろすなぁ。昔何かあったのかと疑ってしまいそうになるのに、でも悪感情というか、嫌悪感は持ってなさそうなんだよね。





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