第7話 これってもしかしてコイバナになるの?

「そんな気にはならないから! 俺だって王様なんかやりたくねーよ」

 残念。イグナーツくんを解放してあげられると思ったのになぁ。

「それより、気にならないのか?」

 いたずらっ子みたいな眼でそう訊ねてくるテオドーアくんに、逆に訊き返してしまった。

「なにが?」

「なにがって……」

「君が僕を挑発した理由なら、だいたい予想つくもの」

 僕がそう言うと、テオドーアくんはむっとした顔をする。くるくる表情が変わる子だなぁ。

「予想って、どんな予想だよ」

「アインホルン公女には刺激の強い体験をさせちゃったから、避けられてるのもわかるし、その件で公爵から恨み買ってるのは自覚してるし、追従して公子たちにも嫌われてるんだろうなっていうのも推測されるし、そういう人たちが何も知らないだろう人に、僕のことを公女を危ない目に遭わせたと吹き込むのも、貴族社会ならではのあるあるだよね。まぁ、あそこは一回フルフトバールから目を付けられてるから、迂闊なことはしないだろうけど、身内になら零すんじゃない? 愚痴的な感覚で」

 ただし、それちゃんと口止めしておかないと、周囲に拡散されて、再び内戦勃発する雰囲気になると思うんだけど、公爵、わかってるのかなぁ?

「……いや、お姫様と公爵はそう言うのはないと思うぞ? まぁ確かに公子たちからは心証悪いな」

「でしょー? って、え? 公爵は違うの?」

 公女が引きこもりになったのもあるけど、無理やり僕と公女の接点を持たせようとはしなくなったのは確か。お見舞いに来いとか、そんなのもなかったしさ。

「俺から見ると、の話なんだけどさ。アインホルン公爵は、アルベルトのこと、母上と同じカテゴリーに与してると思ってるんじゃないか? 取扱注意みたいなやつ」

 マティルデ様は確かに取扱注意な方だけど、実の兄なのに妹のこと怖がってるの? いや、怖いわな。マティルデ様の王者オーラ、半端ない。ほんと気を抜くと呑まれそうになるもん。

「話聞く限りじゃ、公爵はお姫様になるべくいいところに嫁がせたくって、アルベルトに近づかせたかったみたいだし」

 親心、なんだろうな。貴族だもんね。

「でもアインホルン公女はね、僕とはどうしても結婚したくないんだよ」

「なんで?」

 不思議そうに訊ねるテオドーアくんに、僕は笑って答えた。

「ひみつ」

「なんだよそれ。じゃぁ、お前はどうなんだよ」

「論外だねぇ」

 だって僕のざまぁフラグは彼女との婚約だもの。それを抜きにしても、僕の好みじゃないんだよなぁ、アインホルン公女は。全然、ときめかない。あっちだって同じだと思うよ?

「そういう意味では、ヒンデンブルク令息も候補にあがってるんじゃないの?」

 テオドーアくんって、そんな感じじゃない? 婚約破棄をされて、断罪返しのざまぁをした悪役令嬢にプロポーズする本命の相手。

 北方辺境伯のご子息で、アインホルン公女と幼少期から親しくて、母親が元継承権持ちの公爵令嬢だったっていうのは、流れ的にそのポジションに納まりやすい。

 いや、でも従兄妹同士だからなぁ。血が近いと婚姻ダメってことになるし、そういえば言えばマティルデ様、末の息子って言ってたじゃん。跡継ぎじゃなく、子供を作らなくてもいいなら、ワンチャンあるか?

 思考を巡らせていると、テオドーアくんがむすっとした顔で声を上げた。


「テオドーアだ」

「ん? なに?」

「テオドーアって呼べ」

 名前呼びしろってそんなムキになって言うことかぁ? よくわからない子だなぁ。まぁどっちでもいいんだけど。

「はいはい、テオドーアね。君だって、アインホルン公女のお相手には申し分ないでしょ? っていうか、好きな子泣かしたのはどんな奴だ、って感じで、挑発したんじゃないの?」

「だから、違うって言ってるだろう。そういうんじゃないんだって。あー、もうめんどくせぇ!!」

 テオドーアくんが頭を掻きむしって、喚いている横で、ネーベルとテオドーアくんの従者がひそひそと話し込んでいる。


「誤解させるようなことを言った、テオ様が悪いんですよ」

「普段からあんな感じ?」

「はい、あんな感じです」


 二人の会話はばっちり僕らにも聞こえていて、そこでテオドーアくんが自分の従者の名を責めるように呼ぶ。

「クルト!」

「余計なことを申し上げました。申し訳ございません」

 しかし従者の……クルトくん? は、テオドーアくんの八つ当たりに慣れているのか、全く動じることがない。

「アルベルト殿下、テオ様の好みのタイプは、守りたくなるような、おしとやかな女の子です」

 それどころか堂々とテオドーアくんの好みのタイプを暴露する。わ~、もしかしてオリハルコン製の心臓なのかな? 強いねぇ~。

 にしても、テオドーア君の好みのタイプって、マティルデ様とは正反対の子がいいということかな? 

「アインホルン公女はか弱くない?」

 ヒルト嬢やヘッダ嬢と比べると、はるかにか弱いよね?

「お姫様はか弱いっていうのとは違うだろう? あと、俺がいなくたって守ってやる奴たくさんいるじゃん」

 それは魅了があるからねぇ。誘拐もそれが原因だったわけだし。

「俺は、俺が守ってやらなきゃダメって、そういう感じの相手がいいんだよ」


「女の子に夢見過ぎてない?」

「女の子はそこまで弱くねーぞ」

「ほらぁ~、テオ様の理想の女の子なんて、シュラート物語に出てくる、ローゼ姫ぐらいなものですよ」


 テオドーアくんの話を聞いて、僕だけではなくネーベルとクルトくんも突っ込みを入れてしまう。

 ついでに言うと、シュラート物語というのは、英雄シュラートという男が活躍する冒険譚で、そこには英雄シュラートとローゼ姫の恋愛模様も書かれているのだ。

 へぇ~、テオドーアくん、物語のお姫様が理想のタイプなんだぁ。

 シュラート物語に出てくるローゼ姫って、英雄シュラートがいないと生きていけないって感じのお姫様だもんなぁ。





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