第6話 そう言われれば再従兄弟だった
「初めまして、リューゲン殿下。テオドーア・ゲベート・ヒンデンブルクと申します」
人の好さそうな笑顔と、はきはきとした口調。うん、まさに主人公を具現化したような人物だ。だけど、よろしくする気はないと。わかりやすくっていいね。
「初めまして、僕のことはアルベルトと呼んでほしいな。リューゲンはそのうち使わなくなる名前だから」
僕のことをどこまで聞いているのかは知らんけど、マティルデ様は僕をアルベルトと呼んでいるにもかかわらず、リューゲンのほうの名前で呼ぶってことは、従妹のアインホルン公女から何か聞いてるってところかな? もしくは、公爵かはたまた公子たちか。どっちにしろ、僕、相当アインホルン公爵家から、めちゃくちゃ恨まれてるからねぇ。
面倒なことには関わらんとこ。
あとね、申し訳ないんだけど、テオドーアくん。君、傍にいる自分の母上の事ちゃんと観察しようね。
「フルフトバールのはちみつは美味しいですよ。ぜひ食べていってくださいね」
テオドーアくんに負けず劣らずの笑顔を浮かべ、さっさと会話をきりあげる。
「母上、ごめんなさい。僕、ここで失礼します」
ごめんなさーい! あとでちゃんとお叱りは受けます! おじい様からもちゃんと怒られます! でも、もー、無理。ギブです!
「マティルデ様、ヒンデンブルク令息、ゆっくりしていってください」
最後に、お二人に声を掛けて、この場から退散。
「あっ! 待っ……」
聞こえませーん! 母上たちがいるテラスと続き部屋になっている来客室を突っ切って、廊下で待っているネーベルに声を掛ける。
「ネーベル終わったから行こう」
ネーベルは何か言いたげな表情をしていたけれど、気にしちゃいらんねぇ。今すぐこの場から離れねーとやべーのよ。僕のゴーストがそう囁いている!!
僕は廊下に出た瞬間、早歩きで来客室から遠ざかり、長い廊下の角を曲がると、一目散に走りだす。
「アル?!」
「見張り台! 行くよ!」
走って走って、フルフトバール城で一番高い見張り台に到着すると、ゼーハーと息を切らしながら座り込む。
はー、やばかったぁ。
「どう、したんだよ、アル」
ネーベルも息を切らしながら、僕の不可解な行動を訊ねてきた。
「ごめん。マティルデ様がさぁ……」
「マティルデ様?」
「うん、あそこにいたお客様、母上の親友の北方辺境伯夫人。アインホルン公女の叔母上だよ。母上の結婚式のために来てくれたんだ」
あの人、やべーわ。
「なんだよ、怒らせたのか?」
またなんかやったのかよって感じの口調だけど、やったのは僕じゃないよ。
「僕じゃなくって息子さんがね」
「どういうことだよ?」
「んー、とね。息子さんの態度がねー、ちょーっと……、良くなかったんだよなぁ。マティルデ様のお眼鏡にかなわなかったんだと思う。僕もさぁ、なんとなーく、これは良くない感情を向けられてるのかなーとも思ったし」
マティルデ様は、気が付いたんだと思うんだよ。テオドーアくん、一見好印象な様子でちゃんとご挨拶してくれたんだけど、それはマティルデ様からすると、合格点には程遠いものだった。
「魔力がさぁ……、もう足元から出てたんだよ」
「えーっと、辺境伯夫人の魔力でいいんだよな?」
「うん。属性は水、氷なのかな? 冷気がね、こう稲妻が走ってるようにビキビキビキッと」
僕の説明に、その光景を想像したのかネーベルも真っ青になる。
母上がいるから、氷漬けはないと思うけど、あそこに居続けたら、絶対、足が床に凍り付いてた。
あの王者オーラといい、魔力の質量といい、あの人こそ王族中の王族じゃないか。なんで辺境伯夫人になっちゃったの? あれを蹴落として女王になってくれれば、良かったのに。
「あー、あとでまた嫌味言われるかなぁ。でもいいや! もう知らなーい」
だらしないって怒られるかもしれないけど、見張り台の欄干によりかかり、グテーッと体を伸ばしていたら、誰かが見張り台の扉を開けて中に入ってきた。
「さっさと逃げるなんて、卑怯だろぉ!」
やってきたのは、案の定テオドーアくんだった。あと従者であろう少年も一緒。
「僕が悪いの?」
そう聞き返したら、テオドーアくんは口籠るも、乱雑に髪をかき上げながら、僕の横に来て、ドカリと座り込む。
「あー、その、悪かったよ。試したかったっていうか、確認したかったっていうか。まさかあそこでさっさと退散するとは思わなかったわ。もっとこう、食って掛かってくると思ったのに」
なんでそんな面倒なことすると思ったんだろう。やっぱりアインホルン公爵家の誰かに何か吹き込まれたんだろうな。
「言っとくけど、俺はお姫様の信者じゃねーからな」
おーおー、口調まで素になっちゃって。へー、テオドーアくんってアインホルン公女のことお姫様呼びなんだぁ。
「むしろあんまり関わりたくねーの」
「なんで? 従兄妹でしょう、仲が良いんじゃないの?」
「それ言ったらアルベルト、殿下とは、再従兄弟になんだろ。それに仲良くすんなら、異性の親戚よりも同性の親戚のほうがいいじゃん」
仲良くする気あったのかぁ。
「殿下はいらないよ。ここ王宮じゃないし、そのうち殿下じゃなくなるしね」
「本当に王位継承権、手放すんだな」
「そのために王宮内で大騒ぎ起こしたんだよ。欲しいなら……、あぁそうか、君だってその権利もてるんじゃないか」
元、継承権持ちのマティルデ様の子供なんだから。
僕の声なき言葉を察したのか、テオドーアくんは途端に嫌そうな表情になった。
「それはアレだろ。アインホルン家の子供全員が亡くなったらってことだろ。ラーヴェ王国は女性でも国王や当主になれるけど、それは第一子って条件が付くしさ。母上は公爵の妹だし父上のところに嫁に出た身だ。現時点で母上の子供には継承権は発生しない」
まぁ確かにあっちこっち継承権持たせたら大騒ぎになるわな。主に簒奪系のあれこれが発生するから、継承権の発生には厳しい条件が付けられている。
「そうだね、公爵の子供が全員いなくなったら、君に継承権回るよね」
僕の言葉に、テオドーアくんは顔を引きつらせた。
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