第5話 母上のご友人とそのご子息

 ウィルガーレン・キューン・マルコシアスは、おじい様の早くにお亡くなりになった弟君で、僕から見ると、大叔父様にあたる。


 このフルフトバール城の廊下の各所に、代々の当主の絵画のほか、家族の絵画も飾られている。さすがに家族の絵画は先代と当代のみで、それ以前の家族の肖像画は、絵画専用の物置部屋に大切にしまわれている。


 初代の肖像画は、なんとなくおじい様と似てるなぁって思った。

 そしておじい様の子供のころの家族の肖像画には、僕から見ると曽祖父母に、少年時代のおじい様と大叔父様の姿が描かれていた。


 あの家族の絵画を見た時、ネーベルは大叔父様と僕が似ていると言った。

 顔ではなく、なんとなく感じが、と。そしてそれは、初対面の時におばあ様にも言われたことだった。

 実のところ大叔父様のお顔は、美少女もかくやといった絶世の美少年で、髪長くしてドレス着せたらぜったい男の人にモテモテだったよ。


 家系図を見て固まってる僕に、ネーベルが心配そうに声を掛ける。

「どうした、アル」

「あのね、おじい様に弟がいたの知ってるよね? 二階の東の廊下に飾ってあるの」

「うん」

「大叔父様の名前、ウィルガーレンって言うんだよ」

 そう言って、僕はおじい様の名前が書かれている、横の名前を指さす。


「ウィルガーレン・キューン・マルコシアス……。もう亡くなってるんだよな?」

「曽おじい様とおじい様が留守にしてる時に、襲撃があったんだって。おじい様と結婚したがったご令嬢が、婚約者だったおばあ様を狙ったものでね、その時大叔父様が身を挺して守られたって聞いた」

「……すげぇ」

「うん、すごいね」

 若い頃のおじい様は、歌劇に出てくる役者さんのようなきらびやかな美しさではなく、雄みの強いイケメンで、おばあ様を狙ったご令嬢は、結婚相手にしたいタイプだとおもったのかな? たぶんそう。

 この辺はもう全部終わったことなので、いまさら掘り返してもどうにもならない。

「成人前に、亡くなられたのか」

「みたいだね。生きてたら、お話聞けたのになぁ」

 僕も大叔父様も、初代の名前を貰ってる。それって、偶然とは思えないんだよ。しかし亡くなった方に話を聞くことはできない。

 残念だけど、他のところで、手掛かりを探すしかない。


「アルベルト様、いらっしゃいますか?」

 そんな話をしていたら、母上の専属侍女であったヤーナとは違う侍女が、僕を呼びにやってきた。

「リーゼロッテ様がお呼びです」

 側妃だったころの母上の傍にはいなかった人だよね? こっちに来て新しく雇った人なのかな?

 朝、言ってたお客様が来たのかも。


「はい、片付けてから行きます」

「若殿。片付けは私がしておきますので、どうぞリーゼロッテ様の元へ行ってください」

 慌てて机の上を片付け始めると資料を出すのを手伝ってくれた司書さんが、声掛けをしてくれた。

「いいの?」

「お急ぎでしょうから、私が片付けておきましょう」

「じゃぁ、俺が片付けます」

「いえ、ネーベル様も若殿と一緒に行ってください」

 思わずネーベルと顔を見合わせてしまった。ん? 今日のお客様って、そんなに大事なお客様だったの?

 急かされているわけではないと思うけど、片付けよりもお客様を優先しろということなので、あとを司書さんにお任せして、ネーベルと一緒に迎えに来た侍女の後をついて行く。

 連れてこられた場所は庭に続くテラスで、そこには母上のほかに、母上と同じ年頃の女性と、それから僕と同じぐらいの年齢の子供がいた。

 女性のほうは覚えてる。母上が再婚の周知お茶会の時にご挨拶した、メッケル北方辺境伯の奥方。マティルデ・ペルデ・ヒンデンブルク夫人。

 旧姓、マティルデ・ペルデ・アインホルン。アインホルン公爵の妹君だ。

 こう言っては何なんだけど、兄のアインホルン公爵よりヒンデンブルク夫人のほうが、国王陛下に似てるんだよなぁ、顔が。すなわちそれは、僕とも似ているということになる。


「御機嫌よう、アルベルト殿下」


 にこやかな笑顔とともに挨拶をするヒンデンブルク夫人。

 なんだろう、僕はさ、正直、あれやアインホルン公爵よりも、ヒンデンブルク夫人のほうが王者感あるなぁって思うんだよ。この方を女王にしていたほうが、ラーヴェ王国安泰じゃね? っていう。でもヒンデンブルク夫人は、そういうことに関して、自分の中では些末なことってご様子なんだよね。


「こんにちは、ヒンデンブルク夫人」

 僕も笑顔で挨拶すると、ヒンデンブルク夫人はまぁっと声をあげる。

「酷いわ、アルベルト殿下。マティルデと呼んでと言ったのに」

「北方辺境伯夫人を気軽にお名前でお呼びしては失礼にあたりますよ」

「あらあら、第一王子殿下であらせられる方に、そのようなことを言われてしまったら、わたくしたちは身の置き場がございませんことよ?」

「その称号は、そのうち消えてなくなるものです。僕が成人すれば、すべて泡と消えるものに敬う必要はありませんよ」

 うえぇ~、こういう貴族ならではのやり取り苦手ぇ。母上助けて~。

「マティ。そのぐらいにしてちょうだい。このフルフトバールにいる間は、アルベルトはマルコシアス家の人間よ」

 王宮にいてもマルコシアス家の人間だけどね。

「……いいでしょう」

 母上のお言葉で、ヒンデンブルク夫人は少しだけ広げていた扇子をパチンと折りたたむ。そして武装のようなトゲトゲ部分が、あっという間に消えてしまう。やべーな。母上ってさぁ……、いや、やめておこう。

「アルベルト。マティはお母様のお友達なの。形式ばったことは必要ないわ」

 あ、はい。つまり、礼儀は忘れず、しかしながらもっと気楽にってことですね、わかりました。

 そんなやり取りをしている傍で、クスッと漏れる笑いを漏らしたのは、黒に一滴の蒼を落としたような色の髪に、ヒンデンブルク夫人……マティルデ様と同じタンザナイトのような青い瞳をした少年。

「アルベルト様」

 お、『殿下』が抜けた。

「二年前、王都でリーゼの再婚周知のお茶会をしたときにもお話ししましたが、わたくしの末の息子、テオドーアです。どうぞお見知りおきを」

 紹介されたご子息は、これまた麗しい容姿で、これぞまさしく異世界ファンタジーで主人公ぽい少年だった。





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