第4話 マルコシアス家と不帰の樹海の繋がりは?

「話を聞く限りだと、不帰の樹海にいるだろう『なにか』が、以前アルと何らかの約束をしている。その約束をすることで、『なにか』とアルの間に利が発生。でも現段階で、その約束が途切れている、もしくは途切れそう。だから会いに来て、もう一度その約束をし直せと、夢で知らせてきた。って感じだな」

「うん」

「アルは生まれも育ちも王都だろう? 今回初めてフルフトバールに来たわけだし」

 そうなんだよ。もしかして前世が関係してるのかと思ったんだけどさ、僕の前世の記憶って、そこで生きていた人格の記憶がないんだよね。

 いや、最初はあったんだよ、社会人だった成人男性のものが。だけど、どんどんぼやけていって忘れてしまった。強烈に残っているのは、二十一世紀の日本の出来事とか、一般人が知ることが出来るぐらいの知識とか、そういうものだけ。

 前世の僕がどんな人間で、何をしていて、どんなことを考えたり思ったりして、どんな生活を送って、どうやって死んだのかって、もうそこらへんはさっぱり思い出せない。

 だからあの存在と前世の僕が、何らかの約束をしていたのかなぁ? それ以外を考えるなら……。

「人違い、ってこともあるかなぁ」

「人違い?」

「例えば、僕のご先祖様」

「それでこの歴史書か?」

「うん、なんか手掛かりがあるかもって思って」

「もし、そうだとすると……。マルコシアス家が、不帰の樹海の管理者になった理由を調べたほうが早いな。その辺はご当主から何か聞いてるのか?」

「聞いてない。変な話は聞いたけど」

「変な話?」

「マルコシアス家はさ、どこの血でも受け入れるんだって。結婚に関して、平民だからとか国外の人だからダメっていう、タブーはないんだよ。ただし、王家にマルコシアス家の血を入れてはいけないっていう家訓がある」

 僕の話を聞いて、ネーベルは渋い顔をしながら言った。

「それって、アルの夢に出てきたやつが関係してるんじゃないか?」

「そう思う?」

「そうとしか思えねぇよ。ってことは、やっぱりマルコシアス家の人間、アルのご先祖様が、鍵だよな」


 初代のことが書いてある歴史書って、ほんと少ないんだよ。

 なんでも、不帰の樹海よりはるか遠くの地からやってきたドラゴンがたくさんの魔獣を引き連れて、このラーヴェ王国の地で大暴れ。それを制圧したのが、建国時の国王陛下の臣下の一人で、初代マルコシアス家の当主だったというのだ。

 それからマルコシアス家は不帰の樹海と隣接しているフルフトバールの地に根を下ろし、そこからやってくる魔獣がラーヴェ王国を蹂躙しないように、不帰の樹海の管理者となった。というのが初代の話。

 この話、全部嘘ってわけじゃないけど、都合が悪いことをラーヴェ王国の支障にならないように言い換えて、ある程度の脚色やら、このフルフトバールの地にある言い伝えなんかを盛り込んだ虚偽が入ってると思う。

 この手の話には、そういうことが多くあるからね。


 このマルコシアス家の歴史書は、五代目が自分の家のことを記録に残そうと思って書き始めたそうで、初代から四代目の話も、この五代目が書き残したものが最古の記録になっている。

 それで、五代目が記録に残そうと思ったのは、やっぱり不帰の樹海との関係がきっかけのようだ。


 この歴史書によると、実はこの不帰の樹海の管理に関しては、隣接領が自分のところの領地と主張してきたり、王家の直領地だと言ってこられたりということが、ちょくちょく起きていたらしい。

 もちろんフルフトバールだって、好き好んで危険な魔獣を間引いてるわけじゃないしさ、じゃぁ絶対にフルフトバールに魔獣が出てこないようにしろよ、それが出来るならおめーが管理しろと、管理権を譲渡しようとしたら、魔獣がフルフトバールじゃなく、管理権を得ようとしたほうに流れるようになったり、王家の直領地だからって樹海を切り開こうとして魔獣の餌食にされちゃったりとか、マルコシアス家が不帰の樹海から手を引こうとすると、そんな感じの魔獣災害が多々起きているのだ。

 一度最悪な事態になったこともあって、まぁ例にもれず、不帰の樹海の管理は自分のところがやると言い出した隣領が、結局魔獣を間引きすることが出来なくなって、しかも樹海からの浸食もきて、あっという間に人が住めるような状態でなくなったこともあった。結局、その領地はフルフトバールに吸収されることになって、浸食された部分も開墾されて元通りに戻ったようだ。


 こうやって見ると、周辺が不帰の樹海の管理権を得ても、結局、フルフトバールというかマルコシアス家にその管理権が戻ってきちゃうのには、人ならざるモノの力が働いているような気がしてならない。

 そして何度も同じことが起きれば、ラーヴェ王国の首脳たちも自分たちでは手に負えない代物と思って、この先その手の諍い事が起きないように、被害資料を残し、国王陛下承認のもと、不帰の樹海の管理者はマルコシアス家から動かさないという取り決めがされて、今に至るといった具合だ。


 マルコシアス家と不帰の樹海の繋がりは、『なにか』の言ってる盟約なんだと思う。でなければ、マルコシアス家の手から管理が離れた途端に、手に負えないほどの魔獣災害が起きるのはおかしい。

 ここに、答えがあるような気がするんだよなぁ。

 僕がう~んと頭を悩ませていたら、隣で家系図を見ていたネーベルが、何やら関心したような声を出した。

「アルの名前、初代のご当主と同じなんだな」

「え?」

 ネーベルは家系図のいちばん上のところをほらと指をさす。

 マルコシアス家の開祖の名前。


 そこには『アルベルト・ウィルガーレン・マルコシアス』の名が綴られていた。


 アルベルトは、僕の名前。そして、ウィルガーレンは、おじい様の弟君の名前だった。





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