第3話 もっと具体的に何をして欲しいのか言ってくれ

 あー、また、この夢だ。

 周囲に広がる緑と、濃厚な草木の空気。まったく知らない場所なのに懐かしいと思ってしまう、不思議な……不帰の樹海。

 そして、前方からは、これでもかと言うほどの大きな圧。


「疾く会いに来よと言うておろうが」


 ほらぁ、やっぱり、いつぞやの正体不明な奴だよ。

 フルフトバールに来た時から、ずっと兆候はあったんだ。不帰の樹海がある方向から、ずっと呼ばれている感じ。

 何かが、聞こえるとか、そういうのじゃなくって、早く、不帰の樹海に行かないといけない、そんな気持ちが湧き出て止まらなかった。

 だから以前、この夢を見た時に会った……人、人なの? 雰囲気からすると、これは人じゃないでしょ? ともかくその存在が、なんとなく出てきそうな気がしたんだ。


 早く会いに来いと言われたって、こっちにも事情と言うものがあるのだし、そこに行くには準備も必要なの。

 魔獣がわんさかいる場所に、手ぶらで行けるわけないでしょ。


「人とはなんと煩雑なものよ」


 そういう事じゃないんだよなぁ。そもそもその煩雑なものを呼んでるのは君だろうに。


「むぅ、我が盟友は、いつもそうだ。我を畏敬する念が微塵もない」


 ん? んん? もしかして君、拗ねてるの? 僕がなかなかそこにいかないから? そういう時はね、退屈でつまらないから、遊びにこいって言えばいいんだよ。


「そうではない。そなたが戻ってきたのだから、盟約を結びなおす必要があると言うておろう」


 だから盟約ってなんなのさ。あっ、また切れた! なんで肝心なところで途切れるんだよ! せめて会話に時間制限があることぐらい最初に教えてよ!





「あー、もうなんで肝心なこと言ってくれないんだよぉ」

 もそもそと身体を起こして、寝台の上でぼへーっとしてしまう。

 不帰の樹海にいるよね、何かが。この何かがなんなのかはわからんけど、確実に僕を呼んでいる。

 本当はね、このフルフトバールに来た初日に、不帰の樹海に行こうと思ったんだよ。

 当然のことながら、難色を示された。当たり前だ。

 だってあそこ、本当にやべー場所だから。気軽にホイホイ行ける場所ではないんだよ。魔獣狩りをしているフルフトバールの軍の人なら、入り口付近の浅層に日帰りで行けるだろうけれど、ド素人の初心者が行きたいと言って、いいですよーってわけにはいかない。しかも僕、一応まだ王子様だからね。

 何の準備もなく不帰の樹海に行って、僕が怪我なんかしたら、まず宰相閣下に怒られるだろう。それでもって、それこそ成人まで、フルフトバールへ行くことは禁止される。


 それに今回僕がフルフトバールに来られたのは、母上が結婚式を挙げるからだ。メインは母上の結婚式への出席。

 不帰の樹海に行くのは、母上の結婚式が終わってからになる。

 あそこから「はよ、来んかい」って急かされてる感はあるけど、こればっかりはどうにもならんのだ。

 母上の結婚式が終わるまで、大人しくしておこう。


 それでもやることないからね、鍛冶工房をちょくちょく覗きに行ったり、まだまだ回り切れていない領都を散策したり、あと、いまは乗馬を習っているので、領都に近い村に訪問したり、時間を潰す方法はわんさかあるのだけど、今日は朝食の時に、母上から外出しないでほしいとお願いされてしまったのだ。


「何か僕に用事あるんですか?」

「今日はね、わたくしの友人家族が、フルフトバール城に来てくれるの」

「結婚式の招待客ですね?」

「えぇ、そうよ。とても大事な友人なの。アルベルトと同じ歳のご子息も連れての訪問だから、顔合わせをしてほしいのよ」

 子供同士の繋がりですね。わかります。

「わかりました。じゃぁ今日は、城内の図書室で過ごします。ネーベルも一緒でいいですよね?」

「えぇ、いいわよ。おそらくあちらも従者の子を連れていると思うから」

 従者の子がいるってことは、最低でも伯爵家って事かな?


 朝食後はシルトとランツェに、ネーベルが来たら図書室に通すように告げて、図書室にこもることにした。

 丁度良かった。マルコシアス家の歴史書や家伝書を探そう。それから不帰の樹海に関する資料があればいいけど。

 あの不帰の樹海にいるのは、絶対、マルコシアス家と関係があるはず。過去の文献を調べれば何らかの手掛かりが出てくるはずだ。

 司書の人に、マルコシアス家の歴史書と家伝書、それから不帰の樹海に関する資料がどこにあるのか聞くと、書棚を案内してくれて、それらの本や資料を机まで運ぶのも手伝ってくれた。


「それにしても、なぜマルコシアス家の歴史書を?」

「え? だって僕、領地のことは勉強してるけど、マルコシアス家のこと全然知らないんだもん」

「あぁ……、そうですね。主君は頻繁に若殿にお会いに行かれますが、やはり魔獣討伐や領地経営もしなければならぬ身ですしね」

「うん、だから、せっかくフルフトバール城に来たんだしさ、この際マルコシアス家の歴史も知ろうと思って」

「わからないことがあったら、私をお呼び下さい。私の知ってる範囲でしたらお答えすることもできますので」

「うん、お願いね」


 司書の人と話をしていたら、ネーベルが図書室に顔を出す。

「アル」

「ネーベルこっち」

 ネーベルを手招きして隣の席に座ってもらう。

「これ、どうしたんだ?」

「マルコシアス家の歴史書。実はネーベルに相談したいことがあってさ、聞いてくれる?」

 僕はネーベルに、以前見た夢と今日見た夢のことを話すことにした。

 っていうのも、これは別に隠すことでもないと思ったんだよね。あの存在は僕がマルコシアス家の血を引いている人間だから、干渉してきているんだと思う。

 それにね、ネーベルは僕に命を預けると言ってくれたから、これは共有しておいたほうがいい。

 もし、不帰の樹海に入った僕に何かがあった場合、この話をネーベルが知っていたならおじい様にも伝えてくれるはずだ。





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