第2話 フルフトバールの鍛冶師たち

 母上の結婚式の準備で、あっちもこっちも大忙し。

 しかし、子供の僕は手伝えることもないし暇をしていたら、フェアヴァルターとネーベルの養父であるヘルベルト・クレフティゲ老が、僕とネーベルをフルフトバールの鍛冶工房に連れ出してくれた。


「ようこそ、若殿! お待ちしてました!」


 フェアヴァルターと同じぐらいの中年のおじさん、ハラルドが、僕らを出迎えてくれる。

「若殿がフルフトバールにお戻りになるのをずっと心待ちにしていたのです。狭いところですが、中にお入りください」

 いや狭いなんてことはないよ。立派な鍛冶工房だ。

 入ってすぐの部屋は出来上がった武器の保管場所兼鍛治打ち以外の作業をするようになっていて、奥に炉がある部屋になっているけど、そちらにも出入り口があって、開口を大きくとっている。万が一の対策なんだろうな。

 炉は三基あって、三基とも火が入ってる。

「若殿が選んだ武器はバルディッシュだとお聞きしました。見せていただいてもいいですか?」

 ハラルドがそう言うとシルトがアイテムボックスから僕の使っているバルディッシュを取り出す。

「どうぞ」

 シルトからバルディッシュを受け取ったハラルトは、刃の部分をまじまじと見る。

「これは……エギルの三代目、いや二代目の作かな?」

「エギル?」

「あぁ、申し訳ございません。フルフトバールにはヴァルンド、スグヴィス、エギルの三名の銘を受け継ぐ鍛冶師がいます。それぞれ特徴があるのですが、エギルは特にアックス系の武器を得意とした鍛冶師で、特に二代目と三代目の作が、最も素晴らしいと言われているのです」

 ほぉ……って、やっぱりこれマルコシアス家の家宝だったんだぁ。おじい様、いくら武器は使う物って言っても、そんな凄腕の鍛冶師が打った武器をよく僕に渡したなぁ。

「どけどけ! 若殿! お会いしとうございました!」

「なっ! それは二代目エギルのバルディッシュではないか?!」

「なにぃ?! エギル随一と言われる二代目のか?!」

 奥の工房からわらわらとお年を召したお爺さんたちが三人ほど出てきて、僕が使っていたバルディッシュをハラルトから奪って、あーだこーだと話し合っている。元気のいいお爺さんたちだな。

「若殿、こちらが今代のヴァルンド、スグヴィス、エギルです。三名とも本拠地の工房は他にあるのですが、若殿がフルフトバールに来ると聞いて、領都に馳せ参じたしだいです」

 ハラルトはお爺さんたちの紹介をした後、さっそく僕の新しい武器を作ろうと聞き取りをし始める。


 今使っているバルディッシュの使い心地、重さや柄の長さ、刃の大きさや形状のデザインなどなどを聞かれている途中で、お爺さんの一人が、「お前のような若造に打たせられるか!」と口をはさんできた。

「若殿が扱う武器だぞ!」

「スグヴィス、落ち着かんか。ハラルトはもう立派な鍛冶師だ。若殿の武器を打たせるにはいい頃合いだ」

「何を言う! まだまだひよっこじゃ!」

「そうじゃそうじゃ! ここはベテランのわしらに任せるべきじゃ」

「おぬしら、そう言っているが、単に若殿の武器を自分たちが打ちたいだけだろう」

「そ、そんなことないわい!」

 仲裁をするお爺さんと煽るお爺さんともう収拾が付かなくなってきたところ、ヘルベルト老の一喝が轟いた。


「いい加減にせんか!! 若殿の武器を打ちたいならば打てばよかろう! しかし出来上がった武器のどれを使うか選ぶのは若殿だ。誰が作った武器が選ばれても恨み言はなしだ。良いな?」


 おぉ、さすがおじい様の片腕。

 さっきまで勢いづいていた二人のお爺さんがショボンとしてしまった。

「それで、ハラルトのほかには誰が若殿の武器を打つのだ? エギルか? それとも三人ともか?」

 ヘルベルト老の問いかけに三人のお爺さんたちは互いに目配せをして、一番体の大きいお爺さんが挙手をしながら言った。

「わしがやります」

「スグヴィスか。エギルはよいのか?」

「後進の育成も鍛冶師には必要ですな。ハラルトの腕は認めております。わしはハラルトの補佐をするので、スグヴィスに打たせるのがよいでしょう」

「そうか。もし可能であれば、誰かわしの新しい息子にも一振り打ってほしいのだがな」

 そう言ってヘルベルト老が、僕の隣にいるネーベルに視線を向ける。

「ヘルベルト様?!」

 いきなり自分の話題になって、ネーベルが慌ててヘルベルト老の名を呼んだ。

「父上と呼べと言うておろうが」

 ヘルベルト老の言葉にネーベルは耳まで真っ赤になる。

 ネーベル、元の父親はあんまり手をかけてくれるような人ではなかったみたいだし、ヘルベルト老に甘え慣れてないんだろうな。

「うっ、ち、父上」

「なんだ」

「俺はまだ未熟者なので、名工に剣を打ってもらっても、宝の持ち腐れにしかなりません」

「未熟だからこそ、持ち手に相応しくなるように、己を磨くのだ」

 本音はネーベルにいい剣を持たせてあげたいってところなんだろうけど、それを言うとよけい遠慮するだろうと見越して、そう言ってるんだろうな。


 ネーベルもそれ以上は強く言えずに、結局新しい剣を打ってもらうことになった。

 ついでに今まで使っていたバルディッシュは、刃こぼれはないものの砥ぎ直しさせてほしいと言われたので、そのまま預けることにした。

 と、言うことは、砥ぎ終わるまで不帰の樹海にはいけないのか。残念。


 この日は、鍛冶工房のほか、領都の市場をぐるりと見学して、フルフトバール城に戻ることにした。

 果樹栽培と養蜂が盛んなだけあって、果樹の加工品が結構目についた。

 あとは魔獣肉も。結構いろんな魔獣肉が串焼きになって売られていて、ちょっと食べ比べとかしてみたくなってしまった。部位ごとで脂身の付き方も違うだろうし、今度、よらせてもらおう。





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