王子様フルフトバールに行く

第1話 フルフトバールに行けることになった

 誘拐事件やらなんやらありましたが、無事に12歳になりました。

 来年は王立学園に通うらしいのだけど、学園生活にドキワク感はなく、僕としては早く成人してフルフトバールに行きてーなという思いのほうが強い。

 飛び級制度、あるのかな? あるんだったらそれ使って、早く修学してフルフトバールに行く手もあるのでは? なんて考えていたのだが、おじい様が僕のところを訪れて嬉しそうなご様子で言った。


「アルベルト、フルフトバールに行けるぞ?」


 その言葉を聞いたとき、一瞬何を言われたのかすぐさま反応できなくて、でも、徐々に内容が脳内に浸透して……。

「やったー!」

 ピョンピョン飛び跳ねて喜んでしまった。

「いつ?! いつ、行けるんですか?!」

 でも喜びが抑えきれない!! 


 どうしていきなりお泊りの遠出が解禁になったかはわからないけれど、行けると言うなら行こうじゃないか!!

 おじい様が言うには、ひと月ほど、フルフトバールに滞在できるらしい。

 フルフトバールに行くのは双子とフェアヴァルターたち庭師、あと数名の使用人も一緒で、それからネーベルとネーベルを養子にした、マルコシアスの遠縁で、おじい様の片腕でもあるヘルベルト・クレフティゲ老も一緒らしい。

 ネーベルを養子にしたヘルベルト老は元伯爵で、今は爵位をご子息に譲っているらしい。ネーベルを養子にしたため、王都のほうに出てきてくれているのだ。

 ヒルト嬢とヘッダ嬢には、ひと月ほどフルフトバールに行くから、シュトゥルムヴィント宮を留守にするという手紙を出し、王妃様と宰相閣下にもご挨拶をして、それからイグナーツくんにも伝えた。

 王妃様と宰相閣下からは、苦笑いで、気を付けていってくるようにと言われ、イグナーツくんは見るからにショボンとしていたので、お土産もってくるよと宥めた。

 お土産なにがいいかな? ヒルト嬢やヘッダ嬢にも用意したほうがいいよね?





 フルフトバールはラーヴェ王国の西北に位置している場所で、主な生産品は果樹である。あと養蜂。特産品はワインとミード酒。もちろん農耕も麦・芋をメインに作っているが、畜産はほぼ鳥と牛だけらしい。

 と、いうのも、フルフトバールは、不帰の樹海と隣接していて、そこから村にやってくる魔獣を間引いているのもあるからだろう。特にボア系は人里に降りてくることもあるので、どうしても畜産は牛や鳥ばかりになるようだ。

 不帰の樹海で間引かれた魔獣の肉は、マルコシアス家の主導で、領内の各村や町に卸されている。

 フルフトバールは、おそらく他の領地に比べると、平民でも動物性のたんぱく質をとりやすい環境にあるんだと思う。

 あと養蜂もやってるから甘味物、果樹のはちみつ漬けとかも自家製で作っているそうだ。それこそ特産品になりそうなのにね。

 王都からフルフトバールは馬車で五日ほどかかる。休みなく早馬を走らせれば二日ほど。僕らは急ぎ旅じゃないから、五日かけてフルフトバールの地にやってきた。


「アルベルト!」


 フルフトバール城に着いたら、母上が笑顔で出迎えてくれた。

「おかえりなさい、アルベルト! 会いたかったわ!」

「ただいま帰りました母上」

 むぎゅーっとハグをされる。

「男の子はあっという間に背が伸びてしまうのだもの、少し寂しいわ」

 そう言いながらも、母上は嬉しそうに僕を見つめた。


 今回、僕がフルフトバールに来ることが出来たのは、母上とクリーガーが結婚式を挙げることになったからだ。

 母上とクリーガーの結婚式は、フルフトバールにある神殿で執り行うことになっている。


 ここでラーヴェ王国の宗教に触れると、ラーヴェ王国が建国から信仰しているのはシュッツ神道と言う多神教で、実は日本の神道に似通っているのだ。

 主だった神様は、天空神・ヒンメル、大地神・エルデ、風神・ヴィント、水神・ヴァッサー、火神・ヴルガン、月神・モーント、その他にもたくさんいて、神はどこにでも宿るという思想がラーヴェ国民には根付いている。

 このシュッツ神道は、ラーヴェ王国だけではなく、周辺諸国も同じく信仰しているのだけど、それ以外の宗教もあって、それが女神ウイスタリアを唯一の神として崇めるウイス教だ。

 ウイス教は一神教で、確かウイス教国が総本山で、各地に教会を置いて信仰を広めている。

 簡単に言うとシュッツ神道の活動拠点は神殿で、そしてウイス教の活動拠点が教会ということである。

 ウイス教の思惑では、ラーヴェ王国や周辺諸国の宗教を多神教のシュッツ神道から、一神教のウイス教に改宗させることだったんだろうけど、昔から多神教を祀ってる国にそれは通じないというか、「あー、はいはい、新しい神様ね」で、ラーヴェ王国にウイス教への改宗が浸透しなかった。

 もともと神はどこにでも宿るという思想をもつ国民性なので、そういう信仰は、地方に行けば行くほど、その土地で祀っている神様を信仰する傾向が強くなっていく。ラーヴェ王国や周辺諸国は、ウイス教は新しい神様の一人として受け入れられはしたものの、そこで止まってしまって、国民の改宗ができにくかったのだ。


 そういうわけで、ラーヴェ王国のほとんどの国民はシュッツ神道を信仰していて、フルフトバールでは、天空神・ヒンメルと大地神・エルデの神殿があるので、主にその二柱を信仰している。

 母上の結婚式は、大地神・エルデの神殿で執り行われるのだ。


 母上は再婚になるのだけど、フルフトバールの姫君の結婚だから、おめでたい祝い事だと領民たちは受け入れていて、フルフトバール城がある領都では、三日三晩の祝いが行われることになっている。

 母上の結婚式もお祭りも、僕は楽しみなのだ。





■△■△■△

面白かったら、フォロー・♡応援・★レビュー ぽちりしてください。

モチベ上がりますのでよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る