第32話 誘拐事件の真相

「本当はオティーリエ様だけを連れ去りたかったんだと思う」

 やっぱり標的はアインホルン公女だったかぁ。

「いつだったかな……。兄様がやたらとオティーリエ様のことをおれに聞いてくるようになったんだ」

「兄様……、あー、あれか。ハーゼ家のお茶会の時に、アインホルン公女の横をずっと独占してた人。やっぱりハーゼ令息の兄上だったんだね」

「アングストでいいです。本当の兄様じゃなくって、母様の弟なんだ」

「……叔父上ってことかな?」

「うん、じゃない、はい。母様の実家は、母様のすぐ下の弟である叔父様が伯爵位を継いで、ます。兄様はまだ学生だから、母様のほうのお祖父様たちと一緒に、タウンハウスのほうで暮らしている、です」

「話しにくいなら口調は崩していいよ」

 あの人、アングスト少年の兄じゃなくって、叔父だったのか。歳が近いからてっきり兄弟だと思ったのに。

「そのうち、おれの家で開くお茶会に、オティーリエ様を呼ぶようにとか、おれが呼ばれたお茶会にも頼んでもないのに迎えにくるようになったんだ。オティーリエ様にも、なれなれしく声かけしはじめて、なんかちょっと変だなって」

 ちょっとどころか、かなりおかしい。えぇぇぇ~、その人もしかしなくてもさぁ。

「オティーリエ様はみんなに優しいし、依怙贔屓とかしないけど、ヴァルムとは結構仲が良いほうで、それを見た兄様が、怖い顔しながら、あの男の子は誰だって聞いてきたんだ」

「それって、僕がお茶会に出るようになる前の話だよね?」

「うん、そう。アルベルト殿下がお茶会に出てきてなかった頃の話だ。さすがに、おれだって、これはやばいって思ったんだよ。だからヴァルムがオティーリエ様に近づかないようにさせて、あとおれの傍にいれば、兄様がヴァルムに、危害を加えたりしないだろうって、思ったんだけど……」

 あー、あの小間使い扱いはそう言うことだったのか?

「ループレヒト男爵家は、アインホルン公爵家の寄り子だから、公女もその辺で仲良かったんだと思うんだけど、それでもダメだったってこと?」

「うん、ヴァルムが公爵家と繋がってるところの子供だってわかってたよ。兄様だってそのこと知ってるはずなんだけど、それでもヴァルムに何かしそうだったんだよ。だって、ヴァルムにだけじゃなくって、オティーリエ様の傍にいる女の友達にも、兄様は怒ってる感じだったんだ」

 う、わぁぁぁ。見境なく、アインホルン公女に近づいてくる相手に嫉妬してたんか。

「それで、友人たちにも協力してもらって、おれたちがオティーリエ様の傍にいれば、ヴァルムも女の子たちもなにもされないって思ったんだ。おれも、睨まれたけど、兄様が来たらすぐ離れたし」

 やべー。まじかー。アインホルン公女の魅了に、ばっちりやられてるじゃねーか。

「そのうちオティーリエ様は公爵家とつながりのある家のお茶会しか出席しないようになったし、オティーリエ様のところのお茶会も女の子だけとかになったから、大丈夫だと思ったんだ。兄様は機嫌が悪くなってたけど、それはどうにもできないだろ? 俺の家で、招待状を出しても欠席で返信されるからさ」

「そうだね」

「でも、オティーリエ様が、アルベルト殿下のいるお茶会に出席するようになったから」

「あのさぁ、アングストがお茶会で僕にマウント取ってきたのって、そういう事?」

「マウント?」

「『俺のほうが殿下よりも優秀だぞー』っていう態度」

「ごめんなさい! 態度が悪かったのはわかってた。自分でも不敬だって思ってたんだ。でも、さすがに殿下に何かするとは思わないけど、兄様が何するかわからない様子だったんだよ。オティーリエ様のことになると、どんどんおかしくなってたから。それに、オティーリエ様、今までアルベルト殿下のこと避けてたみたいだけど、違っただろう? 家だって公爵家だし、アルベルト殿下の婚約者に選ばれたっておかしくない。そういうの兄様もわかってたと思うんだ」

 風評被害はこっちの思惑通りに鎮静化してたんだな。

「それから、アルベルト殿下がお茶会に出てこなくなっただろう? アルベルト殿下が出席しないと、オティーリエ様も前みたいに、女の子だけのお茶会とか、公爵家とつながりのあるところだけの出席に戻っちゃったから、兄様の機嫌が悪くなったんだ。それでおれにアルベルト殿下を遠出やお茶会に誘えって……」

 あのうざいぐらいのお誘いはそういう裏があったわけね。確かにアインホルン公女を釣るための餌にされてるとは思ってたけどさぁ。

「アングストのご両親はなにも言わなかったの?」

「兄様は母様たちから信頼されてるから、兄様がお誘いしたほうがいいって言ったら、そうねって賛成するんだ」

 王家・公爵家にお近づきになって、寵を得たいというのは、貴族あるあるだからなぁ。

「オティーリエ様が外に出てこなくなったから、兄様も大人しくしてくれると思ったんだ。でも違った。ヴァルムの家が公爵様とつながりがあるって思い出して、ヴァルムからオティーリエ様のこと聞きだし始めたんだ。ヴァルムだってそれがいけないことだってわかってたから最初は嫌だって言ったんだ。おれもそんなことしたら父様や母様に怒られるって止めたんだけど兄様は聞いてくれなくって、ヴァルムにも、その……」

「脅した? 言うこと聞かないと、お前のところみたいな男爵家なんか潰してやるって?」

 僕がそう言うとアングスト少年は頷いた。

 アングスト少年の『兄様』は、伯爵の弟であって伯爵じゃない。だから男爵家と言っても公爵家の寄り子であり、馬産業界の一角であるループレヒト男爵家を潰すなんてできるわけがないんだけど、その辺はまだわからんだろうしなぁ。

 自分よりも年上でいろんなことを知っていそうな相手にそんなこと言われたら、そうかもしれないって思うのも無理ないか。

 ヴァルム少年は家を潰されたくないと思って、アングストの『兄様』に、公女が馬牧場に訪問することを教えたというわけか。





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