第33話 対価は人生

「アインホルン公女は王位継承権を持ってる。標的ではなかったけど、王族の僕まで一緒の誘拐だ。本人だけの処分で、他は無罪放免なんて、それは絶対に許されない。酷い話だと思うけど、アングストの母上の実家は処分される。それだけはどうしようもできないんだ。アングスト、君は僕に助けを求めるなら、選ばなきゃいけないよ」

「選ぶ?」

「何を一番優先して守るのか」

 僕の言葉に、アングスト少年はぎゅぅっと目を瞑って、言葉を吐き出した。

「オティーリエ様と会う前までは、兄様はおれのこと本当の弟みたいに可愛がってくれてたんだ。くだらないことから誰にも言えないことまで、どんな相談事だって聞いてくれて、どうしたらいいか一緒に考えてくれて、本当に優しい兄様だったんだ……」

 優しい思い出があればあるほど、そう簡単に切り捨てることなんてできないし、決心だってつかないよね。ましてや相手は血のつながりがある親族で、しかも本当の兄のように慕っていた相手だ。

 そう簡単に答えは出せないだろうと思ったのに、アングスト少年は僕の目を見ながら告げた。

「……アルベルト殿下。なんでもします。だから、父様と母様……ハーゼ家を守ってください」

「僕がさっき言ったこと覚えてるよね? 捨て身の交渉は一度っきりだ」

 確認のために聞くと、アングストはしっかりと頷く。

「おれ、兄様のこと止められなかった」

 そうは言っても、学園に通ってもいない子供ができることなんて、たかが知れてるというものだ。こういう状況の場合、きっと誰でもなんで親に言わなかったの? って思うんだけど、アングストの『兄様』は、大人からの信頼度は高かったんだろうなと思うわけだ。

 おかしかったのはアインホルン公女のことだけで、他はまともだったんだろう。このおかしくなったというのも、アインホルン公女の魅了にやられたからなんだろうな。

 アングスト少年が、周囲に『兄様』の異変を話したとしても、誰も信じなかったんじゃないかとおもうんだよ。

「兄様とは親戚だし、おれたちの家だって無関係じゃない。でも、今、母様のお腹にはおれの弟か妹がいるんだ。おれが、守らなくちゃいけないのは、父様と母様、それからこれからうまれてくるおれの兄弟だから。お願いします! おれの家族を殺さないでください」

「そのお願いを聞き届ける対価は、アングストの人生だよ」

「かまいません! お願いします!」

 こういうことの後始末はさ、大人の仕事なんだけど、でも、僕を頼ってきた相手を切り捨てるほど、僕は薄情じゃない。

 対価を払うと決めたのはアングストだし、ならその対価の分、僕は僕のできることをする。


「シルト、ランツェ。王妃殿下と宰相閣下に連絡。それからおじい様にも」


 王妃様と宰相閣下、それからおじい様に話を通して、僕の我儘を押し通させてもらう。みんなが渋い顔をするのは目に見えるな。特にアインホルン公爵の件で。

 標的はアインホルン公女だから、誘拐の主犯を見つけたいアインホルン公爵は、その手掛かりを始末しちゃった僕に物申したいのだろう。ついでにその犯人と関係者の情報も欲しいと言ったところか?

 教えてやってもいいけど、こっちだって条件は出させてもらおう。





 この誘拐事件からしばらくして、ある伯爵家の長男が原因不明の病気にかかり、一年ほど闘病生活を送るものの治療の手立てがなく病死することとなった。

 その時期と重なるように、宰相閣下が遠縁からある一人の子供を養子にし、その養子はイグナーツくんの側近に就くこととなった。





■△■△■△

王子様と悪役令嬢編はここで終了となります。

本日同時投稿で登場人物紹介があります。

次回から間章のような新章に入ります。


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