第31話 後始末は押し付けたはずなのに……。

 誘拐事件から一週間。

 とばっちりの誘拐だったんだけど、念には念を入れてということで、しばらく外出禁止となった。

 ここ最近、風評被害の払拭のために、お茶会に出席してたけど、もともとそんな外に出るわけではなかったから、お出掛けできないヤダヤダなんて言うつもりはないよ。


 あの後の顛末としては、ゲルプが馬車を運転してアインホルン公爵のタウンハウスに、馬車と公女を送り届けて終了。

 誘拐の主犯の捜査はアインホルン公爵に全部押し付けた。だって標的は僕じゃなくってアインホルン公女なんだもん。


 王妃様と宰相閣下には、あのゴロツキどもを一人残らずお掃除してしまったことについて、何も言われなかった。

 あの二人にとっては、まず僕の身の安全が第一。僕が無事に戻ってきたのだから、特に言うことはないらしい。

 しかも、今回は巻き込まれ事故、標的はアインホルン公女で僕ではない。誘拐の主犯はアインホルン公女を標的にしていて、僕の存在は標的が動く理由になるから、目を付けられていたわけだしね。

 まぁそこはね。公爵の失策よ。

 どんな思惑だったかは知らないけど、僕と公女をお近づきにさせたかったんでしょ? 友人関係を狙ったのか、それとも恋心を持たせるようにさせたかったかは定かではないけど、どっちに転んでも良かったんだろうね。

 ただ、僕の友人関係としてハント゠エアフォルク公爵令嬢とギュヴィッヒ侯爵令嬢が脇を固めちゃってるわけだ。そこにアインホルン公女が入ってきたとしても、いろいろと確執があったし、公爵としては出遅れたと思ったんじゃない? 公女の立ち位置は、令嬢たちの中でも、横並びどころか一歩遅れている状態なわけだし。

 友人関係としてとびぬけた親密さがなければ、婚約者としてという立ち位置を狙ったともあり得るわけだ。アインホルン公女本人はそれを嫌がっているし、公爵は知っているはずなんだけど、この辺は貴族ならではの思考だからなぁ。


 そんなわけだから、僕自身にお咎めはない。

 そして実行犯を始末したことも、王族に手を出したんだから、しゃーなしってところだ。主犯の特定に必要だったというならば、そこは公爵がもっと護衛関連を徹底して、僕らが始末するよりも先に、獲物を確保しておけばよかっただけ。

 それに実行犯は始末したけど協力者のほうまで手を出してないんだから、そっちから特定すればいいのだ。


 公爵は僕との会談を希望しているらしいのだけど、僕は会う気がない。

 だってなんか、いちゃもんつけられそうじゃない? なんで実行犯を生かしておかなかったんだとか、生かしてこっちに引き渡してくれればよかったのにとか、あと……今現在公女は引きこもってるそうだ。始末現場に立ち会ったから、らしいよ?

 一応、ちゃんと配慮して目隠しさせてたし、イキリ野郎を拷問してる最中は、ゲルプに耳塞いでもらってたし、現物はみせてはいない。けど引きこもりの原因は僕らしいから、そのことでなんか言ってきそうな気がするんだよね。

 でもそれを言うなら、誘拐に巻き込まれたのはこっちなんだし、文句言われたくないなぁ。

 この誘拐事件はもうすでに、僕の手から離れた、でいいのかな? とにかく、終わったことだし、後のことは標的だったアインホルン公女の関係者がどうにかすることだ。

 そう、もう僕、無関係。なんだけどなぁ?


 なのに、一人のご子息が、僕に連絡を入れてきた。


 連絡を入れてきたのは、アングスト・ハーゼ伯爵令息。

 アインホルン公爵家の寄り子であるループレヒト家の四男、ヴァルム少年を小間使いのように扱っていた令息たちの中の一人。

 アインホルン公女を釣るために僕を餌にした子ね。ついでに、お茶会で何かと僕にマウントを取ってきた子だ。

 マウントを取ってきた理由は、アインホルン公女に、自分のほうがイケてるだろうという、優良さを示したかったんだろうね。

 そんな一方的にライバル視をしてきていた彼が、僕にお会いできませんかと連絡をよこしてきたわけだ。

 僕は外出禁止だから、ハーゼ令息に来てもらうことになった。


 アングスト・ハーゼ伯爵令息は、挨拶をしてからずっと僕に向かって頭を下げている状態を保ってる。

「その姿勢、疲れない? 顔上げていいよ?」

「い、今まで、殿下に対して失礼な態度をとっていながら、図々しいお願いであることはわかってます。でも、もう頼めるのは殿下しかいないんです。お、おれ、いえ私はどうなっても構いません! ハーゼ伯爵家を助けてください!!」

「ハーゼ令息、まず顔を上げようね?」

 僕の言葉に、恐る恐ると言った様子で、彼は顔をあげる。


「『私はどうなっても構いません』なんて、軽々しく言うもんじゃないよ」


 僕がそう言うと、アングスト少年は顔を青くさせる。

「僕は聖人君子とは程遠いからね。君の言葉を聞いて、ご両親が悲しむからそんなことを言ったらダメだ、なんてことは言わないよ。捻くれてるから、君が言われるとは思わないことを言おう。そんな風に言えば、聞き入れてもらえると思ったのかな? ってね」

「ち、違います! おれ、本当に、ほんとうに、どうなってもいい! 何でも言うことききます!」

「交渉術学んでから出直しなよって言いたいなぁ」

「い、言ってるじゃないですか!」

「だって君さぁ、何も考えてないでしょう? 今、捨て身の交渉を使ったら、もう、この先はそれ使えないからね? 次なんかないよ」

 図星だったのか、アングスト少年は、ぐっと喉を鳴らして押し黙ってしまう。

「なんで僕のところに来たかなぁ。頼れる人は他にいたんじゃない?」

 僕がそう言ったらアングスト少年はぶんぶんと首を横に振る。

「そ、それは、出来ないです。父様と母様は、なにも知らなくって、おれが……バカだから、父様と母様にまで迷惑をかけるなんて考えつかなかった」

 ふかいため息が出てしまう。

「とりあえず、何があったのか全部話して。助ける助けないは話を聞かなきゃ決められないよ」

 僕の返事を聞いたアングスト少年は、躊躇いながらも話し始めた。


「アルベルト殿下を誘拐させたのは、おれの兄様です」







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