第30話 おやすみなさい。いい夢見てね?

今回のお話はセルフレーティング有です。

殺害シーン及び残酷描写がございますのでご注意願います。




■△■△■△


「お、お前ら何やってる!」

 地下室におりてきたのは一人。傷の男でも、ネーベルを蹴ったイキリ野郎でもない。手にしていた袋を放り投げ、こっちに近づいてくる。

「どうやって外に出た!」

「鍵、開いてたよ?」

 とぼけてそう言うと、男は気色ばんでゲルプが潜んでいる部屋の前を通り過ぎた、と、同時に潜んでいたゲルプが音もなく部屋から出て、男の口を押え、背後から男の首に腕を回し、あらぬ方向に捻る。

 ゴキンッと嫌な音とともに男は口に泡を吹きながら崩れ落ちた。

 成仏してください。ナムナム。

「あー、悪いことしたな」

 ネーベルが、男が放り投げた袋を拾い、中を確認して呟く。

「あらら、ほんとだ」

 袋の中に入っていたのはパンだった。僕らの食事を持ってきてくれたらしい。

 でも仕方がない。この世は弱肉強食で、いかにも貴族の子供だと思わしき僕らを誘拐したのだから、こうなる覚悟だって持ってたはずだ。


 アインホルン公女が隠れている部屋の扉を大きく開けて、怯えた顔をしている彼女に声を掛ける。

「振り向かないでついてきて。言うこと聞かないで見たとしても、悲鳴は上げないように」

 ちゃんと忠告したからね。

 地下室から階段をのぼり、上の部屋にたどり着く。

 この館、昔は貴族の持ち物だったんだろうな。間取り的にそれっぽい造りなんだよなぁ。それにさっきまでいた地下室。一部屋だけじゃなく、廊下をはさんでいくつか部屋があったから、あそこは地下牢的な役割もあったんじゃないかな。

 地下室の入口は、玄関ホールの中央にある階段の横の小部屋と繋がっている。

 玄関ホールに出た僕らは、中央にある二階に続く階段を上って、上の部屋に移動しようとしたところで、あのイキリ野郎に見つかった。


「てめーら! なんでここにいる!!」


 イキリ野郎の怒号が、広間にいただろう残りのゴロツキどもにも届いたのだろう。

 なんだなんだとぼやきながら、玄関ホールにぞろぞろと出てくる。

「鍵が開いたから外に出たんだよ」

「そんなわけっ、てめぇは誰だ!」

 ゲルプに気付くの遅くない?

「僕の家の庭師」

 ゲルプの代わりに僕が答えると、イキリ野郎はますます声を張り上げる。

「はぁ?! なんでお前んところの庭師がいるんだよ!」

「なんでって、君らが僕を誘拐なんかするからでしょ?」

 誘拐されなくても、シルトとランツェが同行していない以上、マルコシアスの暗部がくっついてきたけどね。

 イキリ野郎は僕のお答えがお気に召さないのか、またもや喚きだした。

「なっ、何わけのわかんないこと言ってやがる!!」

「何って、聞かれたから答えてあげたんじゃないか」

 もー、なんでこんな頭悪い会話しなきゃいけないかなぁ。

「いいから地下室に戻りやがれ!!」

「やだよ。あそこじめじめしてかび臭いし不衛生なんだもん」

「ふざけんな!!」

「ふざけてもないよ」

「このくそがき!!」


 イキリ野郎がこちらに向かってくる瞬間、吹き抜けになっている二階から、二つの影が降りてきて、あっという間に、イキリ野郎以外のゴロツキどもの首と胴体が分離し床に転がる。


「お静かに」

「これ以上、我が主君に近づかぬようお願いします」


 イキリ野郎の右の眼球と首筋ぎりぎりに、二本のナイフの切っ先を向けているのは、マルコシアス家の執事服と侍女服を着た双子。

「シルト、ランツェ。それには落とし前を付けてもらいたいから始末しちゃダメ。あともう一人いるよ。そいつもまだ殺さないで」

 ランツェが回し蹴りでイキリ野郎を壁にのめりこませ、シルトはイキリ野郎が出てきた扉から姿を現した傷の男の攻撃を避ける。

「おいおい、こりゃぁ、どういうこった」

 状況的に不利であるにもかかわらず、傷の男はみっともなく喚くことはなかった。うん、イキリ野郎よりは根性据わってるわ。

「日が暮れても帰ってこない僕を心配して、お迎えが来たんだ」

 僕がそう答えると、傷の男はシルトから僕に視線を移し、再びシルトと向き合う。

「坊ちゃんのか?」

「うん、僕のお迎え」

 シルトと傷の男は膠着状態。

 でもランツェは壁にのめり込ませた失神中のイキリ野郎に近づき、ナイフで服を切り刻んで全裸にしてから、切り刻んだ服で手足を拘束している。

「うーんと、依頼主、教えてくれる気ある?」

「愚問だな」

「シルトなら拷問で聞き出せると思うけど、まぁいいや。そうだ、君はどこかの組織に所属していたりするのかな?」

「もしそうだとしたら?」

「どうもしないよ。もし、その組織が存在するなら、後顧の憂いを断つために、見敵必殺サーチ&デストロイするだけ」

 存在しなければそれでよし、もし犯罪組織があるのだとしたら、殲滅だ。


「おやすみなさい。いい夢見てね?」


 僕の言葉を聞き終わると同時に、シルトが動く。

 シルトのナイフをよけ、持っていたであろうナイフでやり返すも、それはシルトに届くことなく跳ね返されて、回転しながら落下する。

 落下したナイフが、大理石の床の上に落ちる音と、シルトが傷の男の首を持っているナイフで掻き切るのは同時だった。

 頭を始末したから、ひとまず安心かな?


「「お迎えにあがりました、我が主君」」


 何事もなかったかのように、僕の前でシルトはボウアンドスクレープ、ランツェはカーテシーをする。

「シルト、ランツェ、ご苦労様」

 この程度じゃ双子の相手にもならないか。

「シルト、バケツ探して水入れて持ってきてくれる? それからランツェ、何か目隠しできる布持ってるかな?」

「すぐご用意します」

 シルトは厨房へ向かい、ランツェは自分のエプロンをナイフで切り裂く。

「それで公女の目隠しをして」

 アインホルン公女はゲルプの両手で目を塞がれている状態だったので、ランツェが切り裂いたエプロンの端切れで、ぐるぐると公女の目を隠す。

「ゲルプ、引き続き、耳塞いでおいてくれる?」

「はい」

 笑顔で答えるゲルプから離れ、僕はランツェによって拘束されたイキリ男の前に立つと、水が入ったバケツを持ってきたシルトに、無言で中身をイキリ野郎にぶちまけるように指示する。

 バシャンッと水を掛けられたイキリ野郎が目を覚ます。

「うっ、あっ、てめ」

「許可もされていないのに口を開くな」

 シルトがイキリ野郎の顎をつかんで、両膝を床につけさせ正座をさせる。

「他の人はどうでも良かったんだ。犯罪行為するにもいろいろ事情もあるだろうしね。フルフトバールの領民でないなら、その人の事情なんて知ったことではないよ」

 魔力巡りでニードルに魔力を乗せて、イキリ野郎の膝にぶっ刺した。

「ギャッ!!」

 ぶっ刺したニードルをぐりぐりと動かす。

「アガッ、や、めっ」


「でも、ネーベルを蹴り飛ばした、おめーだけは許さない」


 簡単に死ねると思うなよ?





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