第28話 誘拐犯の特定なんて、この状況だけではできない

「標的がアインホルン公女だと思ったのはね、それなりの動機が推測できたからだね」

 僕の言葉に、アインホルン公女が顔をあげる。

「お茶会に出るようになってから、いや、本当のことを言うと、ヘッダ嬢から話を聞いてから、ずっと君のことを観察させてもらってたんだ」

「ヘッダ……様?」

「ヘドヴィック・シェーネ・ハント゠エアフォルク公爵令嬢」

 ヘッダ嬢の名前を言ったら、アインホルン公女は、ビクッと肩を揺らす。

「ヘドヴィック様が、なにを……」

「以前、アインホルン公女に侍っている令息たちの件で注意したって言ってたよ」

 あの時は一方の話を聞いたところで、嘘か本当かわからなかったのもあるけど、基本女性同士の話に首突っ込まないほうが無難なんだよ。例外は自分が関わっている場合ね。関わってないなら、訳知り顔で、仲裁するのも愚策。そう言うのは一度関わると絶対に巻き込まれるから。

 僕の場合はヘッダ嬢の話は、前情報として頭の片隅に置いておくだけにしていた。

 だけどお茶会で、実際の様子を見たらね。確かにこれは、ヘッダ嬢は腹立てるなぁとは思ったよ。

 それだけ、アインホルン公女の傍に侍る令息たちの態度は、よろしくなかったのだ。

 ラノベに出てくる逆ハー狙いの悪女がアイテムだか自身の魅了だかを駆使して、対象者を陥落した状態とおんなじ。

 ただしここで注釈をつけると、公女は寄ってくる令息たちに対して、ご機嫌で侍らせているわけではなく、むしろそばに寄ってきてほしくない様子であるということ。

 公女はこの状態を避けるために、自身が開くお茶会は令嬢だけのお茶会にして、招かれるお茶会も、断ると障りが出てくる相手のところのみになったそうだ。


 ところが僕の風評被害を払拭するために、アインホルン公女は僕が出席する茶会にも出るようになった。


 アインホルン公女に避けられ続けて令息たちは、こう思ったんじゃない? 第一王子殿下をお誘いすればアインホルン公女も出席してくれる、ってね。そしてそれは狙い通りになったわけだ。

 僕のストレスがマッハでマックスになったせいで、お誘いは片っ端からお断りしている。アインホルン公女も僕がいないお茶会やら催し事には参加しないから、アインホルン公女目的の彼らは、公女に出席を断られている状態なわけだ。


「今日、馬を見せてくれたループレヒト男爵のご子息も、お茶会でよく顔を合わせていたんだけど、僕は彼がアインホルン家の寄り子の男爵家の子供であることは気が付かなかったんだ。どうしてだと思う?」

「どうして……?」

「アインホルン公女が、一番親しそうにしていた、アングスト・ハーゼ伯爵令息。他にも数名いたんだけど、特にハーゼ伯爵令息がね、ヴァルム・ループレヒト男爵令息を自分の従僕のような扱いをしていたからなんだ。僕はてっきりハーゼ伯爵令息の寄り子の家だから、あんなふうに横暴に振舞われても言い返さないんだと思ったんだよ」

 家の爵位関係もあると思う。でもねぇ? ループレヒト男爵は、王家にも馬を卸すことがあるほど名馬を扱ってるわけなんだから、先々のことを考えれば、親からきつく言われるはずなんだよなぁ。あの家の子は有益な取引相手なんだから、粗暴な態度をとるなってさ。


「アングスト・ハーゼ伯爵令息は、頻繁に僕に招待状を送ってきてる人物の一人なんだよね」

 執拗に招待状を送ってくる人物は、他にもいるけど、特にハーゼ伯爵令息が気になったのは、彼の主催したお茶会には、彼の兄だろう人物が顔を出して、その場に陣取っていた……、正確にはアインホルン公女の横の席を独占し、自分が主催しているかのような態度だったこと。あと他のお茶会でも、兄だろう人物が必ず迎えにきていたのだ。

「だ、第一王子殿下は、何を仰せになりたいのですか?」

「アルベルトでいいよ。ループレヒト男爵令息は、今日公女が牧場に来ることを誰かに話したんだと、僕は思うんだよ」

 この誘拐の内通者は、おそらくヴァルム少年だ。

 何故そんなことをしたのかと言う理由は知らないけど、想像の範囲で言えば、男爵位の子供だから、自分の家よりも上の爵位の令息たちに、言い返したり逆らったりはできなかったんじゃないかな?

 アインホルン家の寄り子で王宮にも馬を卸しているのだから、ただの男爵家だと侮る者はいないと思う。だけど、学院に通ってもいない子供には、それがわからんのだよ。

 自分の家の爵位よりも下だから、横柄な態度をとっても、誰にも怒られないって考えなんだろうね。

 貴族なら、持てるものこそ与えなければ、だろうが。親! どんな教育してんだ! あれと同じか!


 アインホルン公女は僕の話を聞いて、誘拐犯を推測する。

「ハーゼ伯爵令息にですか? では、誘拐犯はハーゼ伯爵令息?」

 名前出したからね、そう考えるのも無理ないんだけど……。

「それはどうだろう? 今の時点ではわからないね」

「え? どうして? ループレヒト令息を……」

「ループレヒト男爵令息を使用人のように扱っていた令息たちは、他にもいたよ」

 アインホルン公女は、こういったことには疎いなぁ。でも自分所の寄り子家の令息だよ? 同年代だし、その場合は、アインホルン公女の派閥の人間なんだから、公女が気にかけてあげないといけない相手じゃない?


「僕が言いたいのはね、今日、アインホルン公女が牧場に来ることを知っていたループレヒト男爵令息が、ハーゼ伯爵令息を筆頭に、他の貴族令息たちにも小間使いのように扱われていたこと、アインホルン家の寄り子の家であることに目をつけられて、公女の情報を流すように脅されていたんじゃないか? ってことだよ」


 僕らを案内してくれていたヴァルム少年は、始終、何かに怯えている様子でもあった。

 こうなることを予想していたかどうかは知らないけれど、寄り親のご令嬢のスケジュールを他所に漏らすなんて、本来ならあってはいけないことだ。

 寄り親であるアインホルン家にたいしての逆心、ループレヒト家が今まで築いてきた信用を貶める行為にもなる。

 ヴァルム少年はそれを理解していたからこそ、怯えていたのではないかと思ったのだ。





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