第27話 誘拐の目的は何なのか?

 護衛が、護衛としてちゃんと機能しているなら、王都に向かっていない御者を止めるはず。

 ネーベルが気付いたのに、護衛が気付いてないはずはない。

 護衛も当てにならねーな。

「ネベも公女もこれだけは約束して。相手が何を言ってきても言い返さない。怖くて泣くのは許容範囲。おそらく相手は調子に乗っていじってくるけど、相手にしちゃだめ。僕らは何が起きてるのかわからないふりをして、大人しく相手の言うことを聞くんだ」

 ネーベルもアインホルン公女も僕の言うことに素直に頷く。

 誘拐の主犯はともかく、実行犯は貴族とは関係ない、雇われ者のはず。その手の人間は、言っちゃ悪いけど、こういったことに手を染めているんだから、犯罪稼業なんかをしているならず者だろう。

 下手に騒ぐとうるせーとかなんだとか言って八つ当たりしてくるからな。


 ループレヒト男爵の牧場を出たのは、夕暮れよりも少し前。まだ太陽は高い位置にあったけど、窓から見える空の色はどんどん暗くなっていってる。

 日が沈んでも戻らなければ、シルトとランツェが動く。僕らは、二人が迎えに来るのを待ってればいい。

 いざというときは、躊躇わず、僕の覚悟を決めるだけだ。

 そもそも誘拐の真っ最中に、僕らが出来ることと言ったら、相手を刺激させないことだけである。犯人探し? そんなんやってる余裕なんぞないわ。

「そうだ、ネーベル」

「なんだ?」

 僕は自分の右耳につけてるピアスを外して、ネーベルの右耳のピアスと取り換える。僕のピアスは魔石でできていて、居場所を特定できるようになっているらしい。特注品だし一般には出まわってないから、誘拐犯には気付かれないはず。ネーベルと離されたときの対策として、片方はネーベルにつけていてもらう。

 にしても、どこに向かってるんだか。





 王都から、どれぐらい離れただろうか。窓から見える空はもうすっかり暗くなって、そしてようやく馬車が停まる。

 それでも僕らは動かない。

 外から複数の人が話しているのがわかる。仲間と合流したのか? 自らドアを開けて外に出るのは危険だ。

 そう思っていたら、馬車扉が開いて、いかにもゴロツキでございと言った風体の右頬に傷がある男が顔を出す。

「よぉ坊ちゃん、嬢ちゃん。長旅ご苦労さん」

「どなたでしょうか?」

 首をかしげて訊ねると、男は皮肉気にフハッと笑いを漏らした。

「外に出な」

 もとより名乗ってもらえるとは思っちゃいなかったけどね。素直に言うことを聞いて馬車の外に出る。

 見たことのない建物。でもあちこちボロボロになっているのを見るに、随分と使われてなかったのだろうな。そして、周辺に人気がない。近くに家屋敷がないってことは町中でもないな。複数人の、見たこともない男たち。その中には、御者の格好をした男や、アインホルン家の護衛騎士の服を着た男もいる。

「キョロキョロしてんじゃねぇ!!」

 さっきの男とは違う、別の男が怒鳴りつけてくる。イキってんじゃねーぞ、三下が。おめーみたいなやつが、何かあったらいの一番に首ちょんぱになるんだからな。もう少し謙虚な態度とれや。

「悪いなぁ坊ちゃん嬢ちゃん。こっちだ。付いてきな」

 馬車のドアを開けた男に声を掛けられる。

「おら、さっさと歩け!」

 言いながら、そいつはネーベルを後ろから蹴り飛ばした。

「ネベ!」

 慌ててネーベルを助け起こす。

「ちんたらしてるんじゃねぇ!!」

 おめーが蹴り飛ばしたからじゃねーか。さっきからキャンキャンキャンキャン小型犬みたいに吠えやがって、うるせーんだわ。おめーの顔は覚えたからな。

 躾が出来ていない犬のように、キャンキャン吠える男を無視して、僕らは右頬に傷がある男の後をついてボロボロの屋敷の中に入る。

「こっちだ」

 地下室か。ネズミとか虫がいなきゃいいけど。

 地下室は意外と広くて、奥の部屋に通された。

「しばらくここで大人しくしてな」

 ランタンを部屋の中央にあるテーブルの上に置いて、男は部屋を出ていく。施錠音がしたからしっかり鍵もかけられたな。

 遠ざかっていく足音が聞こえなくなるのを確認して、僕はネーベルと顔を見合わせる。

「大丈夫、見張りはいない」

「鍵かけていったからね。ネーベル背中見せて」

 上着を脱がしてシャツをたくし上げる。さっき蹴られたところが赤くなってる。これは時間がたつと青黒くなるやつだ。

「痛みある?」

「ちょっとだけ。でも大丈夫だ」

 あのくそ野郎。他の奴らはどうでもいいけど、あいつだけは見逃してやらねー。

 心情的には、耳から手ぇ突っ込んで、奥歯ガタガタ言わせてやらねーと、僕の気が済まねぇんだわ。絶対に泣かす。

 ネーベルの服を整えていると、怯えながらもアインホルン公女が声を出した。

「こ、これからどうするの?」

 僕とネーベルは再び顔を合わせる。

「これから?」

「どうする?」

 僕らが出来ることなんて、ここで大人しく迎えが来るのを待つしかないんだけど? アインホルン公女はそうは思っていないようだ。

「に、逃げ出さないと」

「どうやって?」

 逆に聞き返したら、アインホルン公女は不安の色を強めて、泣きそうな顔をする。

「動くにしても、相手の目的が分からなければ動きようがないよ?」

「それにここから逃げ出したとして、そのあとどうするか、ですよ。今いる場所がどこかもわからないのに、逃げ出しても捕まるのが目に見えてますからね」

「だから、ここで僕らがすることは、どうやって逃げ出すか、じゃなくって迎えが来るまで大人しく待つ。あと相手の目的を探るだね」

 まぁそれも、子供にどこまでできるかって話になるんだけど……。さすがにねー、アインホルン公女がいるのに無茶はできないでしょう?


「それよりも、アインホルン公女は心当たりある?」

「え?」

「誘拐される心当たり」


 僕の問いかけにアインホルン公女は何度もまばたきを繰り返す。

「ゆ、誘拐の標的は、わ、わたくし、なんですか?」

「あの人たち、僕のことに気が付いてなかったんだよね」

 もし、僕が第一王子だって知っていたなら、相手は僕のことを坊ちゃんなんて言わないで王子様と言ったはずだ。

 目的はアインホルン公女で、僕らは付随してついてきたどこぞの貴族の坊ちゃんだと思われてる可能性が高いだろう。

 現時点での情報が少なすぎるから、これも推測に過ぎないんだけどね。






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