第25話 誰のための世界なのか

 あれから、なんやかんやで、一月経ちました。

 アインホルン家のお茶会には出席して、ついでに、ヒルト嬢やヘッダ嬢にも協力してもらって二人のほうでもお茶会を開いてもらって、アインホルン公女と僕、それからイグナーツくんも招待してもらった。

 アインホルン家のお茶会一回きりでは、僕の風評被害の払拭が出来ないからだ。

 何度か違うところが主催しているお茶会に出席して、他の出席者であるご令嬢やご子息たちに、僕とアインホルン公女は、いがみ合うほど仲が悪いわけでもないし、アインホルン公女は元愉快なお仲間たちが流した噂を真に受けて誤解していたんですよアピールを振りまいたのだ。

 上位に位置する三家のお茶会、それから王家の方でも僕とイグナーツくん主催のお茶会を開いて、アインホルン嬢たちを招待し、そこそこ風評被害は払拭できたと思う。


 それを皮切りに、いろんなところからお誘いのお手紙が届くようになったんだけどね。

 令嬢たちからのお誘いは却下させてもらって、令息の方はアインホルン・ハント゠エアフォルク・ギュヴィッヒそれぞれとの繋がりがあるところに出席している。


 もー、そろそろ、お茶会は、いいんじゃねーか?


 お茶会から戻ってくるたびに、僕の機嫌が悪くなってきているのを使用人たちも察しているので、早々におじい様に連絡が行って、お茶会行脚は終了になった。

 なんか、八つ当たりみたいになってごめんね。

 でもガス抜きのためにお散歩コースでストレス発散してたんだけどなぁ。障害物を片っ端からバルディッシュで壊してるから、フェアヴァルターには、壊すよりも避けてほしいのですが? と、注意されてしまった。ごめん。


 しばらくお誘いはお断りしますと通達しているのに、来るんだよなぁ。遠出の招待状とかが。

 って言うか、遠出許可してくれるなら、フルフトバールに行くっつーの!

 断ったのに送ってきた招待状をつまんで揺らしている僕を見ながら、ネーベルとイグナーツくんがこそこそ内緒話をしている。


「兄上は、何をお怒りになってるんだ?」

「怒ってると言うか八つ当たりですね。イグナーツ殿下は、ご一緒に出席はしてなかったから知らないと思いますが、アインホルン公女の取り巻きが、アルベルト殿下に絡んでくるんですよ」

「ご令嬢たちが? 兄上はかっこいいから当然だろう?」

「うわぁ、ブラコン」

「なんだ?」

「いえ、アインホルン公女のお取り巻きは、ご令嬢の方じゃなく、ご令息の方ですよ。アインホルン公女に懸想してるご令息方が、アルベルト殿下と公女の親しげな様子に嫉妬してるんです」

「ネーベル、余計なこと言わない」


 聞こえてないと思って、言いたい放題だな。ちゃんと聞こえてるんだぞ。

 揺らしていた招待状をペイッとテーブルの上に投げ出す。

 今日はヒルト嬢もヘッダ嬢も家の用事があるらしく、僕のところには来ていない。代わりにイグナーツくんが来ている。

 イグナーツくんのあの乳兄弟は配置替えとなって、イグナーツの傍から離された。で、今は王妃様のところから執事を派遣されていて、従僕がいない状態だ。

 こっちもなんとかせんとなぁ。せめて学園通う前までに、一人ぐらいイグナーツくんの側近とまではいかなくても従僕をつけたい。

 そのために令息たちのお誘いを受けてたっていうのによぉ。あいつらまだ十歳だっていうのに色ボケしやがって、全く話にならねーわ。


 ふてくされている僕をなだめるように、ネーベルが話題を変えてきた。

「結局、アインホルン公女は、アルの言ってた魅了って言うのは使ってるのか?」

「あー、おそらく?」

 あの後、僕も王城内の図書館にある歴史書と魔術の文献を調べまくって、それからヘッダ嬢のお茶会にご招待されたときに、僕の訪問に合わせてハント゠エアフォルクを訪問していた魔術塔で精神操作系の魔術を研究している魔術師さんたちとも話をしたんだけど、魅了と言う概念がこの世界にはなかった。

 精神操作系の魔術は存在するんだよ。

 顕著なのは魔獣たちが捕食のための誘因に使うもので、魔獣の魔術は詠唱唱えて発動と言うものではないからスキルに近いのかなぁ?

 もう一つは、こっちが僕の本来知りたかったもので、精神操作の魔術になるんだけど、これは精神に干渉するものだから、完全に対象者の思考を奪っちゃうものらしい。

 乙女ゲーム題材のラノベなんかでよくある、好感度を上げるアイテムなんてものはなく、あるのは催淫剤、手っ取り早く性欲刺激する系統、もしくは精神向上させる系のドラッグを使用しながらの誘導になる。

 思考を保ったまま異性の好感度を自分に向けさせるアイテムとか魔術とか、そういうご都合主義っぽい便利なものは、この世界にはなかった。

 ただね、過去の歴史書や物語なんかには、ラーヴェ王国に限らず周辺諸国などで、女性に翻弄されて国が滅んだとか、そういった記述があるんだよね。

 これはつまり魅了をパッシブスキルとして持っている人がいたということではないかな? と思うわけさ。

 たとえをだすなら、前世の歴史で有名な玉環お嬢さん。あの世界はスキル概念がなかったけど、自身の美貌で権力者たちを翻弄させたのは、魅了のパッシブスキル持ちであったからなのではないかな?

 アインホルン公女は玉環お嬢さんと同じなのかもしれない。

 でもなぁ~、僕が、アインホルン公女は魅了持ちなのかもと疑った時、最初に連想したのは玉環お嬢さんではなくって、竹取物語のかぐや姫だったんだよなぁ。


 かぐや姫は月で罪を犯して、地球に追放された。翁に拾われ媼とともに育てられ、五人の公達と帝に求愛される。竹取物語で、かぐや姫が月で犯した罪と言うのは明かされていないが、地球で権威ある者たちに求愛されるというところから、恋愛系や妻子ある相手とのトラブルがあったっていう考察をよく目にしたんだよね。

 正直言うとアインホルン公女の前世がどうだったとか何があったとか、そんなのには全く興味はないし、知りたいとも思わないんだけど、もしその手の要素があって、この世界に転生したのだとしたら……。

 まぎれもなく、ここは彼女のために用意された世界なのかもしれないと思ってしまった。





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