第24話 魅了とは、洗脳なのか、それとも呪いなのか

 僕のつぶやきにまたしても目を輝かせたのはヘッダ嬢だった。

「チャーム、とは何ですの?!」

 え? 魅了チャームをご存じない?

「えーっと、いわゆる動物や虫が子孫を残すために放つフェロモンのようなもの。フェロモンは分かるよね?」

「なんとなく?」

「あー、その辺は、もしかしたら学園で習うかも? 専門的なことは生物学を研究してる学者さんに聞けばわかると思うんだけど、簡単に説明すると、フェロモンって言うのは異性を引き付ける体臭なんだ。それの魔力版だと思ってくれればわかりやすいかも。つまり、異性を惹きつける魔力? 魔術? いや、やっぱ魔力の方かな? そういうの聞いたことない?」

 ヘッダ嬢は首を振りながら答える。

「ありませんわね」

「ネーベルとヒルト嬢は?」

 二人も首を横に振る。

「イグナーツは?」

「ない」

 即答かぁ。

「……シルト、ランツェ」

 僕が呼ぶと、今までずっと気配を消していた双子が答えた。

「「聞いたことはございません」」

 まじかー! いや、まだもう一人確認しておきたい人がいる。

「ごめん、フェアヴァルター呼んできて」

 僕がそう言うと、シルトが一礼して部屋から出ていく。


 ヘッダ嬢の話と昨日のアインホルン公爵の話を総合すると、どう考えてもアインホルン公女は魅了を使ってるような気がするんだよなぁ。でも本人のあの様子だと、無意識っぽい。そして自分にそんな能力があると気が付いていない。

 アインホルン公女が『ざまぁ』をするのに都合よく進行しているのは、この魅了も関係してるからじゃないか?

「兄上」

 呼びかけてきたイグナーツくんに視線を向けると、イグナーツくんはわずかに眉間にしわを寄せていた。

「どうしたの?」

「アインホルン公女は、その魅了と言うものを兄上に使っているんですか?」

「……いや? それは、ないと思う」

 言われてみれば、もし、その魅了が僕に向けられているなら、もっとこう……好意的なものをアインホルン公女に向けてるはず。

 将来美人に育ちそうだなとは思うけど、それだけなんだよね。わ~、綺麗な子だ、どきどきする~、みたいにはならないし、可愛いから自分の婚約者にしたい! とも思わないし。

「イグナーツはアインホルン公女が苦手なんだよね。それは今も?」

 僕の問いかけにイグナーツくんは頷いて肯定する。

 まだ苦手か。

「ネーベルは? ネーベルはアインホルン公女に会ったことある?」

「イグナーツ殿下の最初のお茶会の時に、見かけたな」

 あ、そーいや、そうだったわ。

「その時はどう思った?」

 するとネーベルはちらりとヒルト嬢のほうを見て、それからもごもごと口籠りながら言った。

「興味ねーし」

 あ、はい。もう、その頃からヒルト嬢一筋だったわけね。ごめんねー。野暮なこと聞いて。

「効く人と効かない人がいるのか?」

 わからんなぁ。う~んと唸っていると、シルトがフェアヴァルターを連れて戻ってきた。


「作業中でしたのでお見苦しい格好ですみません」

 どうやら表の庭園の手伝いをしていたようだ。

「ううん、仕事中に悪かったね。フェアヴァルター、魔獣には詳しいよね?」

「えぇ、まぁ不帰の樹海にいる魔獣でしたら、たいていの個体のことは知っています」

「魅了を使う魔獣っているのかな?」

「魅了、ですか? えーっとそれはどういうものでしょうか?」

 やっぱり、知らんのか。

「例えば、綺麗な女の人の姿をしている魔獣に見惚れてしまうと言った感じ」

「魔獣に見惚れる、ですか?」

「魔獣がものすごーく綺麗な人間に見えて、恋しちゃう感じだと思って。もしくは、素晴らしく美しい魔獣で、討伐するのではなく飼い慣らしたいと思ったり」

「あぁ、洗脳系の魔獣ですね。ユニコーンやバイコーンは、洗脳能力を使ってきますが、あれらはどちらかと言うと、自分の大事に思っている相手、例えば妻子や恋人の姿に見える幻術をかけてくるので……。アルベルト様の言う魅了ですか? そういうのとは違うと思います」

「うん、わかった。ありがとう。戻っていいよ」

 みんなの反応とフェアヴァルターの話を聞いて確信した。


 この世界、魅了がないのか!


 いや、広義では魅了は洗脳の一種だと思う。だから全くないってわけではないんだと思うんだよ。

 でもファンタジーであるあるの、特定の人物にめろめろになって、それまで親しくしていた異性、例えば恋人とか婚約者を蔑ろにする系の魅了とは違うよね。過去の文献、漁ってみるか? あと、これは魔術師の分野だよなぁ。

 ちらりとヘッダ嬢を見ると、ヘッダ嬢はにこにこと上機嫌な笑顔を浮かべている。

「ヘッダ嬢」

「なんでしょう?」

「精神系の魔術を研究している魔術師の紹介もお願いします」

「よろしくてよ!」

 ヘッダ嬢と知り合ってから、双子に聞いたんだけど、ハント゠エアフォルク家って、代々魔力量と研究体質の人を多く輩出しているらしくって、殆どが魔術師となって魔術塔に所属しているんだって。

 ヘッダ嬢は王立学園ではなく魔術塔のほうに進むのかな? 進路はどこに進もうともヘッダ嬢の好きにしてもいいんだけど、僕としてはできるだけイグナーツくんと交流してほしいんだけどなぁ。

 これを頼んだら、ヘッダ嬢には借りがどんどん増えていくから言わないけどね。


 魅了の件は、アインホルン公女に告げたほうがいいのかどうか迷うところ。

 今のところ理性を吹っ飛ばすようなものではないらしいっていうのは分かるんだけど、これがもし洗脳と同じ効果があるとして、長くあてられたらどういう結果になるのかが、ちょっと気になるよね。

 もうアインホルン公女のことだけしか考えられなくなるような廃人になるとか、そう言うのではなければいいんだけど。

 あと、解呪って言っていいのか? 僕が誓約書を製作したときに、神殿誓約付きにしたのは、あれを破ると、ペナルティーが付くからだ。神殿誓約とか神殿契約とかは、言い方変えてるだけで、言うなれば呪術と同じだからね。

 魅了は洗脳になるのか、それとものろいになるのか。とにかく魅了の効果を消し去ることが出来るのか、それも知りたい。

 あとで図書館に行ってくるか。




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