第23話 アインホルン公女とハント゠エアフォルク公爵令嬢
「と、言うことなので、申し訳ないんだけど、三人とも僕に付き合ってアインホルン家のお茶会に出席してくれる?」
アインホルン公爵からの提案を受けた翌日、僕の宮に遊びに来たネーベルとヒルト嬢、そしてヘッダ嬢にお願いをした。
ネーベルとヒルト嬢は二つ返事で快諾してくれたのだけど、ヘッダ嬢は猛禽獣のように目を光らせていた。
「あらあらあら、まぁまぁまぁ! なんてことでしょう! アインホルン公女ともあろうお方が、そのようなミスをなさるだなんて……。おーほほほほほほ! 愉快極まりなくってよ!」
ヘッダ嬢はそれはそれは上機嫌で高笑いをする。
どうやら、アインホルン公女の失態が、よっぽど面白かったらしい。
対抗派閥だし、なんとなーく、察してはいたんだけど、ヘッダ嬢とアインホルン公女って仲がよろしくなさそうだね。
「ごめんあそばせ、アルベルト殿下。この際はっきりと言わせていただきますが、わたくし、アインホルン公女のことは、好きではありませんの。ですが、もちろんアルベルト殿下の頼み事は、全力で持ってお引き受けしますことよ? お茶会も淑女らしく対応させていただきますわ。そこはご安心なさって?」
やっぱり仲が良くないんだぁ。
「うん、わかってるよ。ヘッダ嬢は、公式の場に私怨を持ち出して滅茶苦茶にするようなご令嬢ではない。そこは信用しているよ」
「まぁまぁまぁ! ありがとう存じますわ! 必ずやアルベルト殿下の御期待に沿えるように、挑みますことよ!」
挑みますじゃなくって、臨みますにしてくれないかなぁ?
見える、見えるぞ~。ヘッダ嬢とアインホルン公女がキャットファイトする様子が、ありありと想像できてしまうぞ。
「嫌いじゃなく、好きじゃない、なのかよ」
ぼそりと呟いたネーベルの口を僕は慌てて手で塞ぐが、ヘッダ嬢にはしっかりと聞こえていたらしい。
「えぇ、そうですわよ? アインホルン公女に何かされたわけでも、わたくしが何かをしたわけでもありませんもの。個人的な感情の問題ですわね」
いや、何もないってことは、ないのでは?
「なにもなかったのに、好きではないのか?」
今度は僕の反対側にいるイグナーツくんがそう漏らすので、ネーベルから手を放してイグナーツくんの口を塞ぐ。
も~、君はぐいぐい来るタイプの女の子苦手って言いながら、どうしてそんな際どいこと言うかなぁ?!
そう、今日は共通語のディオラシ語の勉強のために、イグナーツくんも一緒なのだ。
イグナーツくんとヘッダ嬢は、イグナーツくんの最初のお茶会ですでに顔合わせを済ませているので、初めましてのご挨拶はあらためてする必要はなかった。でも、どうやら、ヘッダ嬢はお茶会の時は巨大な猫を被っていたようで、イグナーツくんに挨拶をした後は、黙ってヒルト嬢とお茶を飲んで、さっさと帰ったのだという。
とはいうものの、そのお茶会以降、ヘッダ嬢はイグナーツくんと顔を合わせることはなく、改めて僕のところでヘッダ嬢と顔を合わせることになったのだ。
イグナーツくんは、アクの強い、素のヘッダ嬢に目を白黒させて、ヘッダ嬢がいるとさりげなく僕の後ろに隠れるようになっていた。
いや彼女、一応、君のお嫁さん候補だからね? 怖がってないで、ちゃんと会話しなさいよとは、何度か言ってたんだけど、僕はこんな相手を煽るようなことを言えとは言ってないよ?
「もちろん理由はちゃんありましてよ? あの方、いかにも自分はわたくしたちとは違うといったご様子で、わたくしたちのことを見下していらっしゃるんですもの。しかもご自分の周りに侍ってくるご令息方に対して、困ったとご様子を見せながらも遠ざけたりなされませんの。ご本人にそのつもりがなくとも、なんだか見せびらかしているようで、見ていて不快なのですわ」
ん? どういうこと? アインホルン公女って、同年代のご令嬢たちには憧れの令嬢ってみられていて、お近づきになりたいって思ってる令嬢がたくさんいるんじゃなかったの? それって、ご令嬢だけじゃなかったってこと?
「アルベルト殿下、ヘッダ様は一度アインホルン公女に、ご忠告しているのです」
ヘッダ嬢の話にヒルト嬢が補足を入れる。
「アインホルン公女の周囲には、確かに同年代のご令嬢はいるのですが、同時にご令息方からも好かれるのです。そしてアインホルン公女に好意を持っているご令息のほとんどが、周囲のご令嬢たちを退けられてしまわれるのですよ。ヘッダ様はそのご様子に、友人であるご令嬢たちに失礼だと、アインホルン公女にご忠告されたのですが……」
「いい反応がなかった?」
ヒルト嬢が頷くのを見て、僕はイグナーツくんの口から手を放す。
「イグナーツのお茶会の時はどうだったの?」
僕の問いかけに、イグナーツくんはしばらく考え込んでから、ぽつりとこぼす。
「……覚えてない」
そっかー覚えてないかぁ。
「公爵はどう思ってるんだろう?」
アインホルン公爵は、家族に興味がないってタイプじゃなくって、どっちかっていうと愛妻家で子煩悩タイプ、家族仲はいいはずなんだよね。だって公女の失態に頭下げに来たし、我が身可愛さに公女を切り捨てるような態度でもなかった。
そうじゃなかったら、わざわざ、あんな頼みをしに来ないでしょう?
娘を使って王権とりたいって考えるなら、自分が持っていた継承権は放棄しなかったはずなんだよ。
娘可愛さっていうのは、昨日の様子から見て取れたし、そんな人だったらさ、僕らの年代、しかも娘に近づく異性には目を光らせないか? 可愛い娘に近寄るんじゃねーよって。
「同じですわよ」
僕のつぶやきを拾ったヘッダ嬢は、こともなげにとんでもないことを言う。
「え?」
「アインホルン公爵も、兄君と弟君の公子方も、アインホルン公女に侍ってくるご令息たちと同じですわ」
ちょっと待って。もしかしてそれって……。
「ご令息を呼ぶとご友人の令嬢を遠ざけられてしまうので、ご令嬢だけを呼んでのお茶会を開かれていらっしゃるのですけれど、公爵も公子方も、用もないのに何度もお茶会に乱入してきますのよ。それを叱りもせずに当たり前のように受け止めている公女に、わたくしほとほと呆れましたの。ですから、公女のお誘いはお断りさせていただいております」
昨日のアインホルン公爵の話で、彼は公女に関することに、ときどき思考を鈍らせた対応をしていた。
それは……。
「
アインホルン公女は魅了を使っているのか?
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