第22話 アインホルン公爵の頼み事

 他力本願な頼みではあるけれど、アインホルン公爵の申し出は、風評被害を払拭させるには、一番手っ取り早く済ませられる方法なんだよね。

 公爵は、今後、僕が茶会を開くこともあると思うので、その時は公爵家が全力でバックアップと手伝いをすると言ってきたのだが、そこは丁重にお断りさせていただいた。

 だってそんなことされたら、僕とアインホルン公女が婚約するのかと思われちゃうじゃない。

 なーんか、外堀を埋めてくるような、この流れ。やっぱり作為を感じてしまう。アインホルン公女と僕を婚約させて、断罪とか『ざまぁ』の流れに持っていくようじゃない?

 それはともかく、僕が主催になる次の茶会は、イグナーツくんと連名での主催で、王妃様が手配すると思うんだよなぁ。あの時、僕は笑って誤魔化したけど、王妃様はそれで済ませてはくれないから。


 おじい様も内心は、なんでそっちの不手際で起こったことなのに、僕をダシに使って鎮静化させにゃならんのかってお気持ちではあるのだろう。しかし、この風評被害を素早く終結させるとしたら、双方に蟠りはありませんよ。むしろ友好的な関係ですよアピールは、いい手であることも理解している。


「アインホルン公爵にお訊ねしたい」


 おじい様のお声に、アインホルン公爵の背筋が伸びる。

「私も娘一人しかおらぬ身だ。可愛さに目が眩んで甘くなるのもわかる。しかし、公爵、卿はあまりにも、公女の教育に関して、無責任すぎるのではないか?」

 あらら、言っちゃった。

「そ、そんなことは!」

「では、何故、四年前の出来事を公女に伝えておられないのか?」

「当時娘は幼かったので……」

「聡明で理知もあり、当時から、同年代の令嬢からも、一目置かれていたというのにか?」

 種を明かせば、前世の記憶が戻ったから、精神的にその年代の子よりも大人びていたのだろうね。

「お話し中、口をはさんで申し訳ないのですが、ちょっといいですか?」

 二人の会話に交ざるように、僕も口をはさむ。

「どうした?」

「おじい様のお話で、僕も思い出したんですけれど、アインホルン公爵は、公子や公女に継承権を持っていることを忘れるような振る舞いはしないようにと、仰っていたと聞きました」

「あ、あぁ、それは、そうだね」

「なのに、お茶会の席などで、公女が僕の話題を避ける行為があったことを咎めなかった。公女はともかくとして、アインホルン公爵は、影響力のある公女のその行動で、僕への風評被害が起こるという考えに至らなかった、とは思えません。茶会には公女の傍付きの使用人などもいたはずです。そういった者からの報告はなかったのですか?」

 僕の問いかけにアインホルン公爵は、心当たりはあったのだろう。気まずそうな様子を見せる。

「報告は受けておりました」

「受けていて放置していたのですか?」

「いや、そのっ、ち、違うんだ。いえ、違うんです。アルベルト殿下にお聞かせするのは心苦しいのですが、娘は……家でもアルベルト殿下のことをよく思っていなかった節があり、私は普段から我儘などを言わずにいる賢い娘が、それほどまでに厭うと言うことは、何かあるのかと思っていたんだ」

 う~ん、なんだかおかしな話だなぁ。

「公女が僕との接触や話題を避けていたのは、元側近たちが広めた流言を真に受けていたからだそうですよ。評判が悪い相手とは関わり合いになりたくないから避けていた。元側近たちの言ってることが嘘であったことも知らなかったそうです。そのことは伝えていなかったのですか?」

 すると公爵は、え? そうだったの? と言わんばかりに、驚いた様子を見せる。

「いや……、どうなのだろうか? 私はてっきり娘とアルベルト殿下が顔を合わせたことがあって、だからと……」

「僕、今まで同年代との社交はしていないんですよ。母上の再婚の周知のお茶会が初めてで、今のところは、それ一回きりですね。それまで一度も同年代の子とは会ったこともありませんでした」

 僕の話にアインホルン公爵はますます戸惑った様子を見せる。

「すまない。何故そんな勘違いをしたのだろう。私もわからない」

「あと、元側近たちが僕の悪評をばらまいたことを公女に告げなかったのは何故でしょうか?」

「……それも、私は子供たちに告げていたと思っていたのだ」

 う~ん、この様子だと、アインホルン公爵に野心があって、元愉快なお仲間たちが流した悪評をわざと訂正せずにいた、って感じではなさそうだなぁ。

 それでも、何かがおかしい。んー、なんだろう、ざまぁが行われる下地を作られている感じと言えばいいのだろうか?

 一つ一つは些細なことで、そして、対処できないことでもないのだ。それでも何かがそこに残って、放っておくと、それが大きくなって、僕のざまぁフラグが立っていくような気がする。

 気のせいで済ますには、見落とすとやべーことに発展しそうな紙一重感があるのだ。

 まぁ気にしすぎても仕方がないか。

「お茶会のお呼ばれについては了承します」

 僕の返事に、おじい様は、いいのか? と言いたげな顔をするが、僕は小さくうなずいてから話を続けた。

「ただし、そのお茶会には、僕の友人であるネーベル・クレフティゲと、ヴュルテンベルク家のブリュンヒルト嬢も呼んでください」

「あぁ! もちろんだとも! 他にお呼びしたいご友人はいるのかな? いるのならばその方もお呼びするよ?」

 えー、いいのかなぁ? 対抗派閥になるんだけど。でも呼んでいいというならば、お呼びしてもらいましょう。

「じゃぁ、ハント゠エアフォルク家のヘドヴィック嬢をお願いします」

 ヘッダ嬢の名前を出した途端、アインホルン公爵は顔を曇らせた。

 ですよねー? だってヘッダ嬢はアインホルン公女と唯一タメはれる相手。いわゆる優劣を競う相手のライバル令嬢だもんね。公爵としては、そりゃぁ面白くはないわなぁ~。

 でも僕は空気を読む気はないので、取り消しはしない。

 たぶんなんだけど、公女関連の僕のざまぁフラグを折るには、ヘッダ嬢はいい意味でのトリックスターになってくれるはずなのだ。





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