第21話 まだまだ厄介ごとは終わらない

 気が付いたら、一面緑に覆われた、深い森の中にいた。

 濃密な草木の空気が充満しているそこは、知らない場所なのに、なぜか懐かしい。


「ようやくお目覚めか? 我が盟友」


 頭の中に語り掛けてくるその声は、男とも女ともつかず、そしてなんだか、腹の奥底から、びりびりとしてくる。

 声の主は僕の前にいる。

 そう、さっきからすごい質量の圧と言うのか、それとも存在感の塊と言うのか、それがあるのだ。

 なのに、まるで靄にまかれているかのように、その姿が見えない。ただ、一つ分かるのは、それはものすごく大きいということだけ。


「我が盟友、早く我に会いに来ぬか」


 声の主は苛立たし気と言うよりも、呆れているような、もー、仕方がねーなーこいつは~、みたいなニュアンス。

 会いに来いって言われてもさぁ。そこがどこだかわからないんだけどなぁ。


「わからぬわけがなかろう? そなたが居らねばならぬ場所ぞ?」


 僕がいなくちゃいけない場所? 


「なんと、まだ寝ぼけておるのか。そなたが居るべき場所は、ただ一つ。我との盟約を思い出せ。忘れるな。疾く、戻るがよい。そして我に会いに来よ」


 いや、ちょっと待って、そんなこと言われても何が何だかさっぱりわからんのだけど? って言うか、僕、君と盟約した覚えもございませんが?

 ちょっとー! おーい! 返事しろー!





 はっと目が覚めると、まず最初に視界に入ってきたのは、僕が寝起きしている寝台の天蓋。

 天蓋のカーテンで直日は顔に当たってないけど、この明るさは、そんなに日が高くない……けど、僕の寝所は日当たりがいい場所だからなぁ……。

「おはようございます、アルベルト様。お目覚めになりましたか?」

 天蓋のカーテンをまとめながらシルトに声を掛けられた。

「うん。おはよう」

 体を起こして、寝台の上でボーッとする。

「なんだろう、あれ」

 夢にしては妙に質感がリアルだった。

 にしても、契約だとか盟友だとか、誰かとそんなことした覚えはないんだけどなぁ。

「ねぇ、シルト」

「何でございましょう?」

「僕がいるべき場所ってどこ?」

 僕の問いかけに、シルトは苦笑いを浮かべて答える。

「何を仰せになっているのです。アルベルト様がいるべき場所は、フルフトバールだけでございましょう」

 あ、そうだった。

 と、言うことは、あそこはフルフトバールの地……、不帰の樹海、だったのか。んーっということは、あの樹海に僕を待っている相手がいるってこと?

 もしかして、僕をこの世界に転生させた存在?

「う~ん、わからん」

 考えてもわからん不思議体験な夢のことは、とりあえず保留だ。

 さぁ今日も元気に勉強と訓練がんばろー!


 はしゃいでいた、朝の自分を指さして笑いたい。

 今日はネーベルとヒルト嬢は来ない日で、朝食をとってから、午前中はフェアヴァルターに訓練をつけてもらって、お昼を取ってから、午後からはフルフトバールの領地のことを学ぶ。

 そのあとは自由時間になるんだけど、その時にシルトにまたしても会談の申請が来ていることを知らされる。

 相手は、アインホルン公爵だった。

 つい先日、アインホルン公女との会談が終わって、もうそこでアインホルン家とのあれこれは終了したのでは?

 いやね、うん、わかってるんだよぉ? あれだよね、公女は子供だから、責任を取るのは親の仕事だもんね? それは公爵がおじい様とお話しすれば終了なんじゃないかな~?

「おじい様に連絡取ってくれる?」

 傍にいるシルトに、おじい様との連絡をお願いすると、通信魔道具のある部屋に通されて、フルフトバールにいるおじい様と連絡を取ってもらう。

 魔道具は、魔法陣の中に入っていれば、お互いの姿をホログラフで映し出し、会話ができるようだ。


「アルベルト、どうしたのだ?」

「アインホルン公爵から会談の申請が来たんです」

「アインホルン公から?」

「公女からの謝罪はちゃんと受け取ったので、アインホルン公爵とのお話は、おじい様とで、と言うことになってましたよね?」

「うむ、アルベルトの風評被害は、ひとえにアインホルン公爵の教育不足からの失態だからな。アインホルン家で責任をもって、アルベルトの風評被害を払拭するようにと、それで手打ちと言うことにしたのだ」

「話はついてるんですよね?」

「そうだ」

 じゃぁなんで、わざわざ僕に会談の申し込みに来た?

「会わないと駄目ですか?」

「公爵の目的が分からんな。こちらからアインホルン公爵に連絡を入れよう」

 おじい様も魔獣狩りで忙しいのに申し訳ない。





 おじい様に連絡をしてから二週間後、王都のマルコシアス家のタウンハウスにお呼ばれした。

 おじい様がアインホルン公爵と連絡を取った結果、マルコシアス家のタウンハウスでの会談となったのだが、僕も同席でと言うことになったからだ。

 いったい何の話をされるのか。


 僕とおじい様が隣り合って座る前に、向かい合うように座っているアインホルン公爵が気まずそうな様子で話を切り出した。

「こちらの不手際で、アルベルト第一王子殿下にご迷惑をおかけしたのは、重々に承知しております」

 爵位はアインホルン公爵のほうが上だというのに、明らかに公爵はおじい様に対して下手だった。

 どうやらアインホルン公爵は僕に頼みごとをしたいらしい。


「我が家のお茶会に、アルベルト第一王子殿下に出席していただきたいのです」


 なんでも、アインホルン公爵のほうで、僕の風評被害を取り消すのは限界があるようで、手っ取り早く解消するには、アインホルン家のお茶会に僕が出席して、公女とは不和な関係ではないというところをアピールするというのが、効果的、らしい。

 えー、うーん、アインホルン公爵は、なんていうか……、ちょっとご息女に甘すぎるんじゃありませんかね?

「無理を承知でお願いします。どうかお手をお貸しください」

 そう言って頭を下げるアインホルン公爵が、恥も外聞も捨てての頼みごとをするさまは、あれよりはましなのかなぁ? と、思わずにはいられなかった。





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