第20話 糸の先で操っている存在は人ではないのか?

 アインホルン公女は、『ざまぁ』ジャンルの主人公に憧れがあって、なれたらいいなぁ……から、この流れはなれるかも! っていう状況に浮かれたけれど、途中で何か違うな? と、気が付いた。

 確かにいろいろ違うだろう。

 僕は、それは現実との差だと思うんだけど、でも国王陛下のやらかしは、何か他の人智を超越した者の手が加わっているような気がしてならない。

 あと、アインホルン公爵ね。

 あれと話すのは避けたいから、とりあえず、アインホルン公爵に話を聞いてみたいところがあるんだよなぁ。


「第一王子殿下、図々しいお願いだとはわかってるんだけど、アインホルン家は何も悪くないの。全部、私が悪いんだし、だから……」

「さっきも言ったけど、アインホルン公女がやったことは、貴族が集まっている場所で、僕の話題を避けたこと。これだけなんだよ。さらに付け加えるなら、影響力のあるアインホルン公女のその態度が、僕の風評被害に繋がってしまった。この二点だけを考えるとね、アインホルン公女に何らかの罰則を与えるというのは、まぁ無理かなぁ。いわゆる口頭注意。以後気を付けてください。次はありませんよ。になるね」

 僕の返事に、アインホルン公女は安堵の表情をするものの、すぐに何かを思い至ったのか、恐る恐ると言った様子で訊ねる。

「で、でも、私がやったことは戦争が起きたかもしれないんでしょう?」

「僕に対しての悪意があったならね。あと、それでもざまぁをするつもりなら、ってことだよ」

「あ、悪意はないわ。する気だって、もうない。でも、できるってそう思ったのよ。それは悪意がなかったとしても、結果的には第一王子を貶める行為でしょう? 王族に不敬を働くことになるし、許されないことだわ」

 そうなんだけどねぇ……。

 でも、結果的に言えばアインホルン公女は、『ざまぁ』をしなかった。って言うか、無理だと気が付いて諦めた。そして僕がいろいろ言ったのもあって、『ざまぁ』が出来たとしても、そのあとはフルフトバールとアインホルンとの戦争が勃発することを知ったのだから、余計にやる気も起きないだろう。

 要は、していないことについて、それは罪だと断ずることが出来ないのだ。


「ざまぁってなぁに? なんのこと?」


 僕がそういうと、アインホルン公女は目を見開いて固まる。

 今までの話から、前世の同郷である僕が知らないわけがないはずなのにって、思ってるはず。

 でもねぇ、あっちの世界を知らない、こっちの世界の人に、『ざまぁ』の意味を理解できるだろうか? もちろんニュアンスから察するなら、良くない意味と捉えるだろうし、もしかして『ざまぁみろ』のことかと、気づく者だっているだろう。

 けれど、それが何に対しての『ざまぁみろ』になるのか、何故『ざまぁ』なんて発想になるのか、それを知るのは、やっぱりあっちの世界を知らない人には、理解できないのではないだろうか?


「アインホルン公女は、自分の影響力をいまいち理解していなくって、国王陛下の元側近たちが流した流言を鵜呑みにしてしまったから、僕のことを避けていただけ。そうだよね?」


 僕の問いかけにアインホルン公女は真っ青になって固まってしまう。

 そんな怯えた顔をしないでよ。もうこれで押し通せば、全部丸く収まるんだからね? 僕の言葉に黙って頷くだけで、要注意で終了できるんだから、そこは全力で乗っかろう?

「あ、あの、で」

「そうだよね?」

 でも、は言わなくていいんだよ。

 僕の発した圧にアインホルン公女はますます顔を青くさせて答えた。

「そ、そう、です」

「これからは、自分の影響力を考慮しようね?」

「は……い」

 今回は最初から、この会話を記録させてないし、前回のもすでに消しちゃってる。立会人もいないから、僕らの会話を知る者はいない。あー、シルトとランツェは……、余計なことは言わないし聞かないから除外でいいや。

 アインホルン公女の返事に、僕は笑顔を見せる。

 まだもうちょっと聞きたいこととかあるけれど、それは、今回の会談には関係ないことになるしね。


「わかったけど……、殿下は、怒ってないの?」

 終わりにしようとしたのに、アインホルン公女は僕が怒っていないことを気にしているようだ。

「なぜ?」

「だって……、『ざまぁ』しようとしたのよ? 普通は怒るものじゃない」

「その『ざまぁ』は、起きたとしても、もっと先の未来の話で、しかも起きるかどうかもわからない話だよ」

「それはそうだけど、でも……」

「感情的に、許せないと思うはずなのに、ってことかな?」

「うん」

「こんなことでいちいち腹を立てても、僕にとってはなんの糧にもならないんだよね」


 って言うか、こんなこと本人に言うのは憚られるから言わないけどさ、『ざまぁ』したかったって、なんだかものすごく、思考回路が幼く思える。

 イメージとしては小さな子が『あたしおひめさまになりたい!』って言ってるような感じ。子供が言うには、内容は可愛げないものだけど。

 そんな小さな子供の戯言に、いちいち怒る気にもならねーんだわ。


 アインホルン公女は僕の返事に複雑そうな様子だった。

「私だったら、そんなふうに考えられない」

「君は僕じゃないんだから、いいじゃない。もういいよって言ってるんだから、この件はこれでおしまい。ただし、本当にやろうとしたり考えたりはしないでね? そうなったら本当に内乱戦争だよ?」

「わ、わかってるわ」

 最後にもう一度釘をさすと、アインホルン公女は素直に頷いた。


 なんか、やっぱり……おかしいなぁ。

 なんで、アインホルン公爵は、自分の子供たちに、継承権を持っていることを忘れるなと言いながら、アインホルン公女の、特定の人物の話題を避ける態度を諫めなかったんだろう?





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