第19話 しかし『ざまぁ』ジャンルに変更したかも怪しい

「悪役令嬢が主人公の『ざまぁ』ものは、結局のところ『悪役令嬢』という役名がついているだけのヒロインなんだから、本当の意味での悪役ではないんだよ。『ざまぁ』ものの真の悪役はざまぁされる婚約者だからね」

 あとはその婚約者を寝取る『ヒロイン』と言う悪役かな。

 役柄が反転してるんだよね、『ざまぁ』ものは。『悪役令嬢』がヒロインになって、『ヒロイン』が悪役令嬢、もしくは悪女、もっとひどく言えばヒドインになっている。

 そして、主人公と恋に落ちる相手を他に用意して、もともといる『婚約者』を悪役に仕立て上げて、頭の悪い断罪劇を起こして、『悪役令嬢』がそれを言い負かして、読者にカタルシスを与える。

 ヒロインを『悪役』にするのは、ヴィラン側を主人公にする面白さ、あと平凡な女の子が悪役キャラに転生っていうギャップ、不利な展開からの逆転劇、こういうのが見たいからなんだけど、やってることは正義の味方が悪を叩くのと同じなんだよね。


 僕の言葉にアインホルン公女は納得したように頷く。

「言われてみれば、そうかも。なら……、私は本物の『悪役』になるの、かな……」

 アインホルン公女は、前回の自分の発言を思い出したのか、伏し目がちになる。

「私、第一王子殿下が『ざまぁ』ものに出てくるような、その……性格の悪い婚約者みたいになってるって思ったのよ。第一王子殿下の悪い話が嘘だって言うのも知らなかったし、もしかしたら、王命で婚約って言うのも、時期がズレているだけで、そのうち言われるんじゃないかって」

 まぁそこは、絶対にないとは言い切れなかったね。実際、あれは父親ムーブかまして、国王になれなくなった可哀そうな僕に、将来困らない後ろ盾を~なんて、ずれてることを考えていたわけだし。って言うか、フルフトバールがいるのに何でアインホルンを後ろ盾に持ってこようとしたんだよ。そこがわからんわ。もしかしてこれもなんか、あるのか?

「それで……、期待しちゃったのよね。やっぱり、私が主人公になる『ざまぁ』ものなのかもって。あと、ほら、『ざまぁ』ものって、婚約してないのに婚約したって勘違いして婚約破棄するパターンもあるでしょう? なら、そういう対策って言うか、このまま関わり合いにならないように、あと話題を避けて、周囲に無関係アピールして、それからイグナーツ殿下と仲良くなっておけば、いざ断罪されたりしたときに言い返せるとか、そういう……。ごめんなさい。私、その……自分の立場に酔ってた。そんなふうに考えて対策しておけば、こうしてやれば言い返せるとか、そんなこと考えてた。本当に、ごめんなさい。主人公になれるって、自惚れてたの」

「積極的に『ざまぁ』をしたかったわけではないんだ? じゃぁ、悪意はなかったってことかな」

「悪意なんて、それはないわ! あ、ごめんなさい」

 声を荒げてしまったアインホルン公女は、すぐさま、はっとして声音を落とす。

「信じてくれないかもしれないけど、何が何でも『ざまぁ』をしたかったんじゃないの。できると思ったのは、その第一王子殿下が『ざまぁ』ものの婚約者だなって思ったから、だし。それに、途中で変だなって思ったのよ」

「どの辺が?」

「そう言われると、具体的にこうだって言えないんだけど、決め手は、イグナーツ殿下よ」

「イグナーツ?」

「そう『しいでき』では名前は出てこなかったし、ストーリーにも出てこなかったんだけど、リューゲン王太子には快活な弟王子がいて、リューゲン王太子の唯一のコンプレックスだったの。弟王子はラーヴェ王国から出奔していて、リューゲン王太子とは疎遠になってるって設定だったわ」

 うーん、快活なイグナーツくんって言うのもだけど、ラーヴェ王国から出奔するって言うのが、全然想像できないなぁ。いや、脳筋ぽいところはちょっとあるかもだけど、でもあの王妃様に、将来は国王陛下の支えになれって言われてたイグナーツくんが、そんな簡単に責任放棄するようなことするか? って思うし。まぁ、アインホルン公女が言ってるのは、あくまでラノベの話で、この現実世界とは違うしね。

「もしかしたら、四章で出てくる予定だったのかも」

「四章?」

「うん、『しいでき』は連載中のラノベで、一章はヒロインの幼少期から母親が亡くなって父親と後妻それから義妹にいじめられて学園に通う前までの話。二章が学園で義妹にいじめられて悪いうわさを流されているなか、リューゲン王太子と出会って恋に落ちて、それから虐げてきた家族を断罪する話。それで三章は悪役令嬢が出てきて殺されそうになって断罪する話で、四章はその後の話になるの。私は四章の初めのところまでしか覚えてないから……」

 つまり、その途中でアインホルン公女の中の人は亡くなったと。

「リューゲン王太子がヒロインに、自分と違って弟は快活な性格で人当たりもいいし、本当なら弟が王になるはずだったんだって語っていたの。私は、この世界が『しいでき』をもとにした、私が主人公になれる世界だと思ったから、多少の違いは『ざまぁ』ものだしそういうものなのかなって思ったんだけど、もしこの世界が、私が主人公で『ざまぁ』できる世界なら、私と恋する相手は弟王子のイグナーツ殿下だと思ったのよ。『ざまぁ』ものだと、我儘で傲慢でプライドだけが高い性格で、実務能力がない婚約者が、完璧な婚約者や自分よりも優れている兄弟にコンプレックスを持つのって鉄板ネタでしょう? あと、悪役令嬢がその優秀な兄弟と過去に関わり合いがあって、後々くっつくのも『ざまぁ』ものではお約束の流れじゃない?」

 定石通りならそうなるか。

 つまり、アインホルン公女は、ラノベの快活な弟王子というのにも、『ざまぁ』ものにありがちな本命のヒーロー像にも当てはまらないイグナーツくんに違和感を持ったと、そういうことかな?

「それで、お父様から、私のせいで第一王子殿下が風評被害を受けているって言われて、そこで、ここは『ざまぁ』の世界でもないって気が付いたの」

 なるほど、だから謝罪の申し込みがあったわけね。





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