第16話 フェアヴァルターの魔獣講座
「大型の動物、熊や豹と言ったいわゆる猛獣類とて、一体斃すのに大変な労力を使います。魔獣ならその倍かかります。その理由が、まず大きさですね」
確かに、猛獣よりも、魔獣の大きさはけた違いだ。
「その次に、魔獣にも魔力があるからです」
フェアヴァルターの説明に、思わずえっと呟いてしまう。
「魔獣が一般の動物や猛獣よりも斃しにくい理由は二つ。一つは大きさ、その次が魔力を持っているからですね」
「どの魔獣も、魔力を持ってるの?」
「はい持ってます」
「少々、よろしくて? それは攻撃魔術を使用しない魔獣でも、魔力があるということかしら?」
いつの間にか、ヘッダ嬢もヒルト嬢と一緒に、フェアヴァルターの魔獣講義に耳を傾けていたようで、会話に加わってきた。
「えぇ、攻撃魔術を使用しない魔獣でも、魔力は持っています」
マジか!
「ですから、強い武器、例えば伝説級の武器を持っていれば、魔獣が斃せると思うのは大間違いです」
そして攻撃魔術を使わないからと言って、安心もできないとフェアヴァルターは言った。
「攻撃魔術を使わない魔獣というのは、その魔力を身体強化や我々と同じような魔力巡りを行って、防御力をあげているのです」
魔獣がふつうの大型猛獣よりも刃が通りにくいのは、魔力で防御力をあげているからなのか。
「では魔力で防御力があがっている魔獣をどうすれば斃すことが出来るのか? 魔力を使うのですよ」
「魔術、じゃなくって魔力?」
「はい、魔術では無く魔力です。まぁ、確かに攻撃魔術を使える魔術師ならば、魔獣退治も我々より効率よく狩ってくれるでしょうが、でも攻撃魔術に特化している人間は、フルフトバールで魔獣を狩るよりも魔術塔で魔術を磨くほうを望むでしょう。フルフトバールには攻撃魔法を使える魔術師はいません。ですから我々はないものねだりをするよりも、自分たちが使えるもの、持っているもので、魔獣に対抗しようということです」
そっか、ないよりもあるほうがいいけど、フルフトバールに来る魔術師はいないんだろうな。
「自分の魔力を全身に循環させる魔力巡りは、魔獣狩りである我々が魔力を使うための基礎です。魔力巡りが出来るようになったら、次の課題は持続です。戦闘中途切れさせることなく魔力巡りが出来るようにする。これがクリアー出来たあと、次に行うのは、全身に循環させている魔力を自分の持っている得物に繋げるのです。魔力を刃先にのせる、とも言いますね」
フェアヴァルターの言葉に、僕は持ってるバルディッシュを見る。
「魔力を繋げた武器でなら、魔獣を屠ることが出来ます」
とても単純なことなのですよと、フェアヴァルターは言うけれど、とても単純なこととは思えんのだが?
「アルベルト様、魔力を武器に繋げるためには、まず自分の使う武器の特性を知り尽くし、それこそ自分の手足のように扱えるようになりましょう。自分の一部のように扱えるようになれば、魔力を通しやすくなります」
なので、どんな扱い方をしても、バルディッシュが僕の手から離れないように、使いこなせと。
きびしー!!
そしてお散歩コースでも、バルディッシュを使って障害物を躱すなり破壊するなりして、クリアーしろと。
「きびしー!!」
「いや、そう言いながらお散歩コースをこなしてるお前がバケモンに思えるわ」
ネーベルは今まで剣を習っていたけど、それ以外の武器も使ってみたいと言い出して、縄鏢の使い方を教わっている。
「そんなこと言わないでよ。それ言っちゃったら、不帰の樹海で魔獣狩ってるフルフトバールの人たちはみんなそうなっちゃうでしょ?」
「そりゃぁ……悪かったな。やっぱ、育つ環境か」
それな。でもネーベルだって、お散歩コースできるようになってきてるよね? 何個かトラップには引っかかってるけど、ちゃんと避けれるようにもなってきてるし。
「……あのさぁ、ネーベル」
ここまで付き合ってもらっていながら、僕は少しだけ怖気づいている。
「あ? なんだ?」
「きつかったら、こっちの訓練は付き合わなくていいよ?」
ネーベルにいろいろサポートしてもらえると、僕は助かるけど、魔獣狩りは命がけのことなのだ。そう考えると、ネーベルには安全なところにいてもらって、僕の帰りをヒルト嬢と一緒に待っててもらうほうがいいのかも、って思うんだ。
そうしたらネーベルに呆れたような視線をむけられた。
「お前さぁ、そんなの今更言うなよ」
今更でも言うよ。だってさぁ、僕、ネーベルやヒルト嬢とずっと一緒にいたいんだ。二人を危険な目に遭わせたくないって、思っちゃうんだもん。
「俺はアルの肉壁になる覚悟はできてるぞ」
「ネベ……」
「でも、生き急ぐ気はねぇからな。生き延びるための訓練だろう?」
「うん」
「だから、アルは俺を上手く使え。俺を生かすも殺すもそれはアル次第だ」
……重。
重いけど、気合は入った。うん、ぬるいこと言った。そうだ、フルフトバールを守るためなら、僕はどんな手も使うと決めてるんだ。
「よし、じゃぁネーベルとヒルト嬢の命は僕が預かった!」
魔獣との戦闘だけじゃない他のことで、それがもし僕に関することでネーベルとヒルト嬢の命を落とすことになったなら、僕の全力でもって相手を殲滅しよう。
一つ、僕にとっての誓いが出来た。
この先、きっとたくさんの取捨選択を迫られることが起きるだろう。
だから絶対譲れないものを決めておかなきゃいけない。
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