第17話 アインホルン公女の二度目の訪問

 ネーベルとヒルト嬢の訪問に、ヘッダ嬢が加わるようになって、一週間ほど過ぎた頃に、再びアインホルン公爵から、公女と面会してほしいという取り次ぎがあった。

 ずいぶん、はやいな。

 調べるのが、という意味ではなく、僕に会おうとする決断ね。

 自分が何をやろうとしたのか理解したなら、やっぱり怖気づくと思うんだよ。だってアインホルン公女のせいで内乱が起きたかもしれないんだから。

 だからさ、会って謝らなきゃいけないことは分かっていても、どうしようって苦悶して、逃げ出したくなる。

 やらなきゃいけないってわかってるけど、問題を先送りしたいっていう心境、あれによく似てると思うんだ。

 だから、僕に会いに来るのは、もっと時間がかかると思ったんだよ。


 今回は、王宮の方ではなく、僕のシュトゥルムヴィント宮で、会うことにした。


 アインホルン公女は待たされていたであろう客室のソファーに座っていたけど、僕が入室した瞬間に立ち上がり、カーテシーのお辞儀をする。

「こんにちは、アインホルン公女」

「第一王子殿下にご挨拶申し上げます」

「楽にしていいよ。座って」

 アインホルン公女と向かい合うように座ると、ランツェが僕の前に紅茶の入ったティーカップを給仕し、アインホルン公女にも新しく入れなおした紅茶を出すと、一礼してそのまま部屋の端へと移動するのを確認してから、アインホルン公女に訊ねた。


「宿題できた?」

 僕の問いかけに、顔を真っ青にしていたアインホルン公女はビクッと震える。

「あ、あの、わ、私、わたくしは、本当に、戦争になると思ってなくって、もちろん、したいとも思ってません! あの、本当に……」

 途中で言葉を詰まらせたアインホルン公女の目には、徐々に涙が盛り上がってくる。

 どうやら、ちゃんと勉強してきたみたい。もし、あのまま『ざまぁ』を決行していたら、どうなるのか、ちゃんと理解したようだ。

「ご、ごめんなさい」

 ボロボロと涙をこぼしながら、アインホルン公女は謝罪の言葉を口にだした。

「本当に、ごめんなさい。もう謝って済むことじゃないって、わかってるけど、でも、私、ちゃんと謝れていなかったから、ごめんなさい」

 前回の謝罪とは違って、自分の言葉での謝罪だった。

「私、取り返しのつかないことをしようとしたって、それはわかりました。でも、この先どうしていいか、わからない。私、如何すればよかったの?」

 難しい質問だねぇ。これが僕のことじゃなかったなら、しらばっくれればよかったんだよと言えるけど、そうはいかないし、それは根本の解決にはならない。

「そうだねぇ、ああしていれば、こうしていたらを今言っても、仕方がないんだけど、まず、最初から、もう一度、話を整理しようね?」

 僕の問いかけに、アインホルン公女は、素直に頷く。

「アインホルン公女がしたことは、お茶会の席で僕の話題を避けたこと、これだけだった。本来なら別にどうってことのないことなのに、問題になってしまったのは、アインホルン公女の影響力がとても大きかったから。あともう一つは、誤解してしまう周囲に、何も言わなかったこともかな?」

「そ、それは……」

「うん、今はアインホルン公女がどうしてそんな行動を起こしたかの理由の話ではなく、してしまったことの確認だからね?」

「は、はい」

「アインホルン公女が、伯爵家以下のご息女だったら、この話はたいして問題にはならなかったんだ。『あぁ、あのお嬢さんは、第一王子殿下と関わり合いになりたくないのね? 第一王子殿下は良くない噂があるから、そのせいかしら?』で、終わっちゃうものだった。でも、アインホルン公女は、公爵家のご息女だ。ついでに継承権も持ってる。周囲が誤解しちゃう要素がたくさんあった」

 たとえば、前代の王姉殿下が降嫁した公爵家だから、今の王族とは近いだろうし交流も頻繁にあるだろうとか、アインホルン公爵の子供たちは継承権を持ってるから、王子殿下たちとの顔合わせもできてるだろうとか、まぁ色々、邪推ではないけれど、そうであろうっていう感じで考えるんじゃないかな?

 だけど相手は公爵家だからね、面と向かってそんなこと聞けない。しかも公女たちには継承権があるから、変にそんなことを聞いたりしたら、神輿担ぎを画策してるのかと思われかねない。

「アインホルン公女は家柄と自身の高い評価、そして継承権があることから、周囲の貴族からは注目されていたし、シンパも多かった。だから、アインホルン公女が僕の話題を避けると、『なぜかしら?』という疑問が付いてきてしまう。そしてそこで更なる憶測が飛び交ってしまう。この辺は、そんな憶測をして、あまつさえ吹聴した相手が悪いんだけど、でもこれはアインホルン公女でなければ起こらなかったことだ。そして、こういったことが起きたのなら、そのまま話題を避けるのではなく、すぐに火消しの対処をしなければいけなかった。公女が自分の手に負えないと思うなら、公爵に報告するべきだったね?」

 っていうか、公爵は公女の行動に、なんで何も言わなかったんだ? 公女がしていることを知らなかったのか? おじい様と話をしてるらしいから、今度聞いておくか。

「公女が自分の影響を考えずにいたこと、そして公女が原因で僕の悪評が出回ったならすぐに対処しなければいけなかったこと、この二点が、公女の失点だ。さて、今度は、これを罪に問えるのか? という話になる」

 ここからがちょっとばっかりややこしくなるんだよなぁ。





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