第13話 異母弟の地盤固めは急務

 そっか、乳母は神様に祈りをささげているのか。じゃぁいいやって事にはならねーんだわ。まだ肝心の乳兄弟が残ってるじゃねーか。

「乳兄弟のほうは、どうなんですか」

「どう、とは?」

 逆に聞き返されてしまって、どう説明しようか悩んでしまう。宰相閣下のほうはともかくとして、王妃様が、イグナーツくんが僕のところに凸してきたことを知らないとは思えないんだよなぁ。

「イグナーツの従者として、ありかなしか、です。それから、側近……まだ候補ですか? それもイグナーツの傍にいないみたいなんですが、どうなってるんです?」

「あぁ、あの男爵家の子供ね。あの子は王族と接するには、まだ幼すぎたようなの。もう少し教養を身に付けていただいてからにしてもらったわ」

 ネーベルよりも二つ年上なのに、幼いときたか。体のいいお断り文句だよ。

 ネーベルの異母兄、何やらかした? 王妃様がここまで言うってことは、よっぽど目に余ったってことだぞ?

「そのうちまたお茶会でも開こうと思うのよ。今度はアルベルト殿下も一緒にお願いしたいの」

 うわ~、出席したくねぇ~。明確な回答は避けて、僕は王妃様に笑顔を見せる。

「……乳兄弟、どうするんです?」

「悩ましいところなのよね」

 伯爵家に戻したところで、追い出されるのが目に見えているというものだ。なんせそこの伯爵は代替わりしてるし、本当に伯爵家の血を引いているかわからん子供をそのまま置いておくとは思えない。

 とすると孤児院? でも孤児院だって年齢制限あるだろう? あとその年齢で孤児院入りというのはどうなんだ?

「有能な子なら、そのままイグナーツの従僕でいてもらっても構わなかったのだけど、考えなければいけないわね」

「ちなみにその乳兄弟から、イグナーツがシュトィルムヴィント宮で起こした一連の出来事の報告はあったんですか?」

 王妃様は無言で首を横に振る。

 報告してなかったんかい! 従僕としての自覚がないのか? って言うか、ちょっと嫌なことを想像しちゃうんだけど、母親である乳母がどう育てていたのかも、調査したほうがいいかもしれない。

「彼のことは一度宮中大臣も含めて話し合うことにしましょう」

 宰相閣下の提案に、王妃様は頷く。

 そうっすね。こういう王城内の人事的な話は宮中大臣のお仕事だから、王妃様や宰相閣下からの話が行けばそのまま放置ってことにはならんだろう。

 じゃぁそれはお任せで。

「それともう一つ、気になることがあるんですが」

「何かしら?」

「イグナーツはどこまで知ってるんですか?」

 四年前のこと。

 なんかその辺の詳細が、イグナーツくんに行きわたってない感じなんだよね。

 僕が国王になるんだったら、それでもいいと思うんだよ。それで成人したら、実はこういうことがあったんだよねって話すのもありだけど、僕はもう国王になる道から外れてるし、その時点でイグナーツくんの進路は変更されてるから、国王としてのことを学んでいかなければいけない。

 イグナーツくんはもう無関係というわけではいられないんだから、どうしてそうなったかを知らなきゃいけない。けどふわっとした感じでしか知らない様子なんだよね。

 イグナーツくんは、どこまで詳細を知ってるのか。

 そう思っていたら王妃様はにこやかな笑顔とともに言った。

「わたくしのほうから、陛下の望みをアルベルト殿下が叶えられたと、そう伝えさせてもらいました」

 おおぅ、そうですかい。それは、おおむね間違っちゃいないけど、言葉が足りなすぎるのでは?

「何故、そうなったのかは、陛下の望みがなんであったのか、それは少しずつでいいから、自分で調べるように言ってあります」

 あ、これは王妃様からイグナーツくんに課した課題なのね。

「アルベルト殿下、イグナーツから詳細を聞いてくることがあったなら、その時は、包み隠さず四年前の出来事を伝えてください」

 国王陛下の株価暴落するかもしれないんですが? って、それは、王妃様もわかってるんだろうな。

「いいんですか?」

「構いません。陛下が起こしたことです。陛下もご理解の上でしょう」

 いや、理解してねーから、誓約書を交わしたのに僕の父親ムーブかましてきたんじゃないか? おじい様と王妃様にガツンとやられたから、ようやくわかってくれたみたいだけどね。


 アインホルン公女の話だと、ラノベでは僕は生まれながらの王太子で、話の展開から言って、そのままヒロインとくっついて国王になるって感じだった。

 ラノベのほうの国王陛下は、どうだったんだろう?

 この現実世界の国王陛下は、どうにもアインホルン公女が『ざまぁ』をする主人公になるような流れの舞台装置のような動きをしている。

 たとえば、僕をバカ王子に仕立てようとしたり、アインホルン公女と婚約を結ぼうとさせたり、そう、まるでアインホルン公女が『ざまぁ』をしやすくするようなお膳立てをしているみたいだ。

 実際のところ、国王陛下の動機って言うのは、正統な後継者に素質がなければ、王妃様との子であるイグナーツくんが国王になれるって考えだったのと、僕とアインホルン公女との婚約は、国王になれなくなった僕が可哀そうだから、強力な後ろ盾をつけてやろうという善意。

 国王としてはどうなのかと問われるものだけど、これは国王陛下のやらかしが発覚しなければ、アインホルン公女がバカ婚約者を『ざまぁ』しました、おしまい。という流れになるんだよね。

 ただし、そのおしまい。の後、フルフトバールがアインホルンを殲滅するだろうけど、アインホルン公女が主人公の小説なら、そこまでは書かれない。

 ほんと、気持ち悪いなぁ。

 いつかデウス・エクス・マキナが出てきて、こうなった理由を説明されるんだろうか。





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