第8話 アインホルン公女の秘密

 アインホルン公女の意味不明な行動で、僕への風評被害が起こったことについて、おじい様と公爵で決着をつけてもらうようにお任せしたのに、アインホルン公爵からどうしても僕と会談しての謝罪がしたいとの申し出があった。

 なんでぇ? 僕に固執する必要どこにある?

 ただ、ここで会いたくないと言ったところで、それで終了というわけにはならないだろう。これ絶対こっちが頷くまで、延々言ってくるパターン。

 そして、どうやら、公女が謝罪の場を設けてほしいと言ってきたそうだ。


 うえぇ、まーた、面倒な状況になってきやがった。


 だって、謝罪って言ってきたってことは、会ったこともない僕に対しての公女の態度は、故意にやったと言ってるようなものだ。

 つまりー、僕は嫌われてるってことでしょ? 会う必要、あるかなぁ? ないんじゃないかなぁ?


 と、グダグダ言っていても、仕方がないので腹をくくることにした。


 そうはいっても、僕、自分のホームであるシュトゥルムヴィント宮に、そんな悪意を以て風評被害をまき散らした方は、お招きはしたくない。相手だってそれだけのことをしてるんだから、こっちに対して警戒してるはず。

 宰相閣下にお願いして、王宮の談話室で面会をすることにした。

 本来なら、当事者である僕と公女以外にも、保護者であるおじい様とアインホルン公爵、そして見届け人として宰相閣下の五人での会談ということだったのだけど、おじい様の予定が立たないのだ。

 ほら、おじい様は不帰の森の管理者として、まず魔獣狩りを第一としなきゃいけないから、ほんとーに多忙なんだよ。

 今回は、僕と公女の一対一での対面で、記録の魔道具を発動させて会話の記録をするという条件下で、会談するということになった。

 これならお互い文句ないよね。


 やってきたアインホルン公女は、蒼銀の髪に紫の瞳といった、ラーヴェ王国の王族特有の色を持っている。そして可愛らしいというよりも、綺麗なという形容詞のほうが似合う少女だ。これはたぶん、王妃様タイプの、きりっとした美人に育つだろうな。


「ラーヴェ王国の輝ける」

「ストップ」


 カーテシーで王族に対する挨拶の口上を述べようとするアインホルン公女の言葉に、制止の声をかける。

 その口上はやべーでしょうが。

「アインホルン公女、それは、王太子に対しての挨拶です。するならば、立太子したイグナーツにするものです。その挨拶を僕に向けてしないでください」

 僕の言葉にアインホルン公女は驚いた表情で顔をあげる。なんだかアンバランスな子だなぁ。

「挨拶はもういいです。どうぞお座りください」

「失礼いたします」

 再度カーテシーをして、公女は僕が勧めたソファーに腰を下ろした。


 向き合う僕らの前にあるテーブルに、双子がお茶の給仕をし、一礼してから音もなく部屋の隅へと離れていく。

 それを見届けてから、僕はテーブルの上に置いてある、球体型の魔道具に手を伸ばした。

「ここからの会話は記録させてもらうね」

「……はい」

 魔道具を起動させると、アインホルン公女は茶器に手を伸ばすことよりも先に、僕に向かって頭を下げた。

「第一王子殿下。わたくしの浅はかな態度によって、第一王子殿下に多大なるご迷惑をおかけしたこと、大変申し訳なく思っております。お詫びのしようもございません。今回のことはすべてわたくし一人の咎でございます。わたくしが人に与える影響を考慮しなかったことが、このような事態を引き起こしたと自覚しております。いかような罰もわたくしが受けますので、どうかわがアインホルン家にその責を求めるのはおやめください」

 言い訳せずに、謝罪一辺倒。しかも、ちゃんと自分の影響力が引き起こしたと、わかってるんだぁ。

 ただ自分の影響力で僕の風評被害が起きたこと、これが故意であるのか過失であるのかいまいち読めない。偶然の産物だったのか、それとも計算しつくしてのことだったのか、どうなんだろう?

「確認しておきたいことがいくつかあるんだけど、答えてくれるかな?」

「はい、なんでもお答えします」

 素直だなぁ。なのに、なんであんなことしたんだろう?

「今日、この日が来るまで、僕はアインホルン公女とは会話をするどころか、お会いしたこともなかった。相性のいい悪いもわからない状態だったと思うんだけど、それなのにアインホルン公女は僕と関わりたくないような態度を周囲の人たちに見せていたと聞いたよ。それには何か理由があると思うんだけど、何故なのかな?」

 僕の問いかけに、アインホルン公女の表情が途端にこわばる。

 言いたくないなら言わなくていいよ、とは言えないんだよなぁ。だってこの子、やってることがなぁ。偶然ですと言うには無理がありすぎるんだよ。

 アインホルン公女は、こわばった表情のまま、僕とそれから記録してる魔道具を交互にみて、それから、一度ぎゅっと唇を引き結んだ後、僕に呼びかける。

「第一王子殿下」

「はい」

「殿下は……、転生というものを信じますか?」

 生まれ変わりではなく、転生かぁ。その言葉のチョイスは、偶然じゃないよね? 狙ってその言葉を使ったよね?

「わたくしには、前世の記憶があります」

 あ~、やっぱりそうかぁ。

「前世のわたくしは、この世界とは違う世界で生きていました」

「ちょっと待って」

 おそらく自身の秘密を語りだそうとしているアインホルン公女に、僕は待ったをかけて、記録の魔道具に手を伸ばす。

 さすがにねぇ、これ以上記録を取るのは駄目だわ。

 アインホルン公女の家族が、どこまで彼女のそれを知っているかはともかく、この記録が外に漏れたら、絶対騒ぎになってしまうんだよなぁ。

 そして僕が一番当たってほしくない予感が、確実になった瞬間だった。





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