第7話 マルコシアス家は、謎多き一族のようだ

 おじい様がやってきたのは、イグナーツくんの凸があった日から数日後のことだった。

 フルフトバール城の武器庫にある、長物系の武器を数種類持ってきて、自分の手になじむやつを使いなさいと言われた。

「これって、マルコシアス家の家宝の武器とか、そう言うんじゃないの?」

「武器は使ってこそだ。使わず眠らせておく意味などなかろう?」

 それはそうなんだけどね。

「壊れたりしたら?」

「わざと壊すのは論外だが、どれほど大事に扱っていたとしても、物はいずれ壊れるものだ。特に魔獣との戦闘に使う得物なら、そういうことはよくあるのだよ。無論自分の相棒となるべきものなのだから、手入れは怠らずに、粗雑に扱うものではないぞ。意図せず壊れてしまったのなら、それはそこがその得物の寿命なのだ。どのみちこれは、お前の武器を作るまでの仮のものだからな」

 あ、そういう認識か。

 じゃぁ、ありがたく使わせてもらおう。


「アルベルト」

 どんな形がいいかなと、並べられた武器を見ていると、おじい様に声をかけられる。

「はい?」

「アインホルン公爵から話があった」

 うぇ? 王妃様へ、じゃなくってマルコシアスに? なんで?

「謝罪がしたいとのことだ」

「誰にですか?」

「アルベルトにだな」

「なんの?」

「それが要領を得なくてな」

 ますますわからん。

「アインホルン公爵が言うのは、公女がアルベルトの評判を落とすような態度をとっていたらしい」

「お会いしたこともないのに、僕のことを他所で悪く言っていると?」

「それが、どうも釈然とせぬ話なのだ。公女はアルベルトの誹謗中傷と言ったことは一切口にしておらん」

 なんぞ、それは? なんだかややこしい事案が勃発していそうだなぁ。

「悪く言っていないのなら……」

 謝ってもらう謂れもないんじゃないかと思ったのだけど、おじい様は最初なんと言った?

「でも、僕の評判を落としている。それは、どんな風にですか?」

「公女は、お前の話題において、聞くことも話すことも避けているらしい」

「なるほど、つまり、公女の影響力と、避ける理由を憶測で話した結果、僕が公女に失礼なことをしたとか、令嬢の手本ともいえるほどの公女が避けるのだから、よっぽど性格が悪いのではないか、といったことが広まった、ってことですね」

「うむ……。おそらくそうなのであろうな」

「それならば、確かにアインホルンからの謝罪は、頂かないといけませんよねぇ?」

「そうだな」

 いくらあちらの爵位が上だとしても、経済力やら軍事力は、マルコシアスだって引けを取ってねーからな。

 これも貴族の面子というやつだ。めんどくせーなー。


「おじいさま、今回公女の行動で僕の評判が落ちたとして、僕の嫁とりに何らかの影響ってあります? 例えば、僕の結婚は政略ありきだとか」

 貴族の結婚のほとんどは、同盟やら利益やらが付いてまわるものだから、僕の結婚だってそうかもしれない。

 もし、公女の態度が原因で、政略を必要とする相手との結婚が流れたとしたら、それは大問題になるから、アインホルンからの謝罪には、僕の婚姻に水を差したというのも加味されるはず。

 すると、おじい様はきっぱりと否定した。


「ない。何処かと手を組まねばならぬほど、フルフトバールの財源も食料も逼迫しておらん。うちが他所からの同盟を必要とすることもない」


 うちが必要としているのは、魔獣を斃す戦力で、そしてその魔獣狩りのエキスパートを育成している本拠地なのだから、他所からわざわざ応援の手を借りるための同盟は必要ないそうだ。

「僕のお嫁さんは、どんな相手でもいいってこと?」

「マルコシアスの血筋はな、どこの血でも受け入れるのだ。ただし外には出さない。リーゼの件は特例中の特例だ」

 え? そうだったの?

「じゃぁ、あの国王陛下がやらかさなくって、僕が国王になったとしたら、世継ぎどうしていたんですか? あとマルコシアスの跡取り問題は?」

「王の血を持つものは、もう一人おるではないか」

 い、イグナーツくん。うわ~! どのみちイグナーツくんには、迷惑かけることになってたのかぁ。

「マルコシアスとて、黙って王族の言いなりになっていたわけではないぞ? リーゼを婚約者にしたり、側妃に召し上げたりするのなら、当然のごとく条件をつけさせたのだ。まず、リーゼが陛下の第一子を産んだ場合、その子は暫定的な国王とし、他の王家の血を引く子供をその次の王にすること。そして陛下には、マルコシアス家を継ぐ子供をリーゼとの間に儲けてもらうことになっていた」

 それをあの大戯けは、その条件さえも守らんかったのだと、忌々しげに、おじい様はつぶやく。

「この条件通りになっていたら、お前には辛いことを強いることになっていたな」

 ラーヴェ王国の継承権は国王の第一子が継承権第一位だから、確かにこの条件じゃぁ、僕は結婚しても、子供は作れなかったってことだ。

 僕、あの時、かなりめちゃくちゃな誓約条件だしてたよね。特に継承権に関するところ。普通に考えれば、子供や孫以降の子孫にも影響する内容だったはずなんだけど、おじい様はその無茶ぶりを止めなかった。

「じゃぁ僕のあの誓約はマルコシアス家、ひいてはフルフトバールにとっては、正解だったってことですか?」

「なんだ知っていて、あのような誓約を宣言したのではなかったのか? 『王家にマルコシアス直系の血は入れるな』、建国からマルコシアス家に代々引き継がれている家訓だ。アッテンティータの双子に何も聞いておらんのか?」

「マルコシアスの血を引く者は、フルフトバールの地で一生を終えるというのは聞かされていましたけど」

「ふむ……。まぁ、お前が学園に通うようになれば、そのあたりのことも知っていけばいい」

 何か理由がありそうな感じだなぁ。

 もしかしてマルコシアス家がフルフトバールの地にいて、不帰の森の管理者であることにも、関係があるのかな?





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