第6話 アインホルン公女の謎な行動

 イグナーツくんの疑問には答えたので、今度は僕の質問に答えてもらおうと思う。

「イグナーツ、アインホルン公女のことは知ってるよね?」

「はい。最初のお茶会の時に、顔合わせをしてます」

 あ、ちゃんと認識はしているのね。

「話をしたことはあるのかな?」

「王城ですれ違った時に、挨拶ぐらいなら」

 これは、う~ん、判断に困る。

「イグナーツのいる王子宮に、アインホルン公女が訪問したことは?」

「ないです」

「王城内で見かけはするんだね? それで、すれ違ったら挨拶をすると。挨拶以外に何か話たりしてるのかな?」

「ない、です。俺、女の子と話すのは、苦手で……」

 アインホルン公爵、アウトー! 何が仲良くしてるだよ。それ以前の話じゃねーか。

「うん、わかった。ごめんね。変なこと聞いて」

「いえ、母上にも同じようなことを聞かれた、のですが、何かあるの、ですか?」

 あるっちゃあるけど、具体的にこうとは言えない。

「ちょっとした行き違い。かな? イグナーツ丁寧語使いにくいなら崩していいよ」

「え、でも」

「いいんだよ。兄弟なんだから」

 さっきからずーっと気になってたんだよね。

 僕が兄だから、口調を崩すのは駄目だと思ってたんだろう。つっかえつっかえで、喋りにくそうで、可哀そうになってしまった。もっと早く言ってあげればよかった。


「そっか、イグナーツは女の子が苦手なのか。ヒルト嬢と同席させてるけど、それは平気?」

 僕の問いかけにイグナーツくんはヒルト嬢を見て、僕に視線を戻す。

「苦手なのは、色々話しかけたりされるのが嫌で、ヴュルテンベルク嬢はそういうところがないから平気だ」

「なんとなくわかった。イグナーツはぐいぐい来る女の子が苦手。たぶん年配の女性でもお喋りな方は駄目かな」

 僕の言葉にイグナーツくんはしきりにコクコクと頷く。

「でも、アインホルン公女とは、挨拶だけなんでしょう?」

 僕の問いかけに、イグナーツくんはきまり悪そうな表情を浮かべる。

「自惚れかもしれないけれど、話しかけたそうな感じがあって、それが……」

「嫌?」

「嫌っていうか、何か、企んでいるのかと……」

「アインホルン公女の思惑が読めなくって、身構えてしまう、ってところかな」

「うん」

 なるほどね。

 確かに、これだけでは、アインホルン公女が何を考えているのか、よくわからんよね。ただイグナーツくんとお近づきになりたいって言うのは、間違いないと思うんだよ。

「そうだ、ヒルト嬢」

「はい」

「ヒルト嬢はアインホルン公女との付き合いはある?」

 話を振られたヒルト嬢は首を横に振る。

「私も侯爵家の子女ですので、主催でお茶会を開いてお誘いもしていますが、公女とのお付き合いは、やはり挨拶のお言葉を交わす程度です。派閥、というほどのものではありませんがグループが違うと言えばお分かりになりますか?」

 あー、はい、支持層が違うんだね。

 ヒルト嬢はあれだ。いわゆる某歌劇団の男役みたいな感じで、同世代の女の子に理想の男性像を投影される人気がある。対してアインホルン公女は、令嬢のお手本みたいな感じで、理想の令嬢像として人気があるんだろう。

 それに二人とも高位貴族だからな。もとから、グループとして分かれるか。この様子では、個人的な付き合いもないみたいだしなぁ。


「アルベルト殿下」

 ヒルト嬢が意を決したように提案してくる。

「わたしが公女にお近づきになって話を聞いてきますか?」

「それはやめてほしいなぁ」

 女性のことは女性にお任せとは言うけど、僕の勘が、それはよくないと訴えている。

「なぜでしょうか?」

「間違いなく、警戒されちゃうよ」

 企みというほどではないと思うけど、アインホルン公女は何らかの思惑があって、イグナーツくんに近づこうとしている。これは間違いないと思うんだ。

 そこでヒルト嬢がアクションを起こしたら、アインホルン公女は警戒するはず。


 ただなぁ、イグナーツくん自身その気がないけど、僕の考えとしては、アインホルン公女が一番婚姻相手として当てはまっちゃうんだよなぁ。

 王妃様が隣国出身だから余計に、イグナーツくんのお相手はラーヴェ王国内から出さなきゃいけない。

 候補として一番近かったのはヒルト嬢だ。

 僕が一抜けしなければ、イグナーツくんは自身でも言ってたように軍に所属しただろうし、そうなれば、ヴュルテンベルクとの婚姻は、イグナーツくんの地盤を固めることになってちょうどいい。

 でもあれこれあったから、ここで軍関係の力が強いヴュルテンベルクとの婚姻は、パワーバランス的によくない。それに、ヴュルテンベルクのご当主は、手打ちになったと言えども、マルコシアスとは敵対したくないはずだから、孫娘を王家に輿入れさせるのは避けたいと思うんだよね。

 だとすると、次に可能性があるのは、血統的にも申し分ないアインホルン公女になる。血の近すぎはよくないけど、王妃様は隣国出身だから、血はかなり薄まっているはず。イグナーツくんの相手として、アインホルン公女はありなんだよなぁ。

 まぁ、この手のことは大人の領分なんで、そっちにお任せするか。





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