第2話 僕の宮にいる庭師は庭師じゃない

 僕は将来、フルフトバールの地を守っていかなきゃいけないから、不帰の樹海の魔獣を間引けるようにならなきゃいけない。

 もちろん一人で討伐を全部やるってわけではない。まぁ欲張ったことを言えば、単体の中型魔獣ぐらいは、一人で斃せるようになれればいいってことだ。


 僕の属性は風。

 おじい様の話によると、マルコシアスの銀眼持ちは、属性が風で固定されてるんだって。これはマジで例外もなしで、銀眼で他の属性持ちだった場合は、正確には銀眼ではなく銀色に他の色がうっすらと混じっているらしい。そうすると、風属性ではなくほかの属性だったりするそうだ。

 そんなこともあるんだねぇ。


「身体を動かす訓練はだいぶ慣れてきましたし、身体への魔力巡りも、うまくできてますから、そろそろアルベルト様の得物を考えないといけませんね」


 お散歩コースを三セット終了させた僕に、フェアヴァルターが腕を組みながらそんなことを言い出す。

「得物」

「えぇ、得物。主君の得物はグレイブです。クリーガーは大剣ですが、あれはちょっと規格外の大きさですからなぁ」

「大剣?」

 あれ? でも、ここにいた時に持っていた剣って、そんな大きいものじゃなかったような? 通常のものよりも大きくて重そうな感じはしたけど、大剣って感じじゃなかったはずだぞ?

「ここじゃぁ、あの大剣は振れませんからね。振ったらアルベルト様の宮が壊れちまいます。ここにいた時は、騎士団が使ってる仕様の剣を持っていたんですよ」

 本来使っているものではなかったから、使いにくそうだったと、フェアヴァルターは言う。

「フルフトバール軍の人たちは、みんな大きな武器なの?」

「いや、あんな大剣を振り回すことが出来るのは、クリーガーぐらいなもんです。よくあんなもんを振り回すことが出来るもんだ」

 ふ~ん、いいなぁ~。僕もクリーガーが大剣振るってるところ見てみたい。

 ちょっとだけふてくされている僕に気が付いたのか、フェアヴァルターが訊ねてくる。

「アルベルト様、何か使ってみたい得物の希望はありますか?」

「フェアヴァルターも知ってるけど、僕、今まで剣も振り回したことがないから、わかんない」


 以前、王妃様からイグナーツくんが僕と剣術の稽古がしたいというのを断った理由がこれです!

 僕、今まで、剣術の稽古したことない。それよりも、とにかく体力作りと、自分の思い通りに身体を動かすようにできること、それからそうやって動いてる最中でも、魔力を循環させ続けること、これを集中的にやってたわけよ。あと他にもあったんだけど、とにかく、剣術よりも、そっちを中心的に鍛錬してるんだよね。


 だからそろそろ、本格的に得物を持っての稽古に取り掛かろうって事らしい。

 あのー、そのー、もしかしなくても、その稽古をつけるのって、フェアヴァルター……ですよねー?! うん、なんとなくわかってた! そんな感じ、した! だってフェアヴァルターって、クリーガーと同じ匂いがするんだもん! フルフトバールから来た他の庭師も同じ!

 庭師だとか護衛騎士だとか、そんな雰囲気じゃねーんだわ。

 フルフトバールの保有軍にいるのはさ、騎士つーよりも兵士とか軍士とかそういうやつなんだよ。

 それでたぶん、フェアヴァルター筆頭に、フルフトバールから新しく入ってきた庭師たちも、たぶん戦闘に特化している人たちなんだと思う。だって動きがさぁ、もう素人のそれとは違う。

 フルフトバールの領地に行けない、不帰の樹海に入ることができない僕のために、あそこを模したものを作って、樹海に入っても動けるように、慣れさせてるんだよ。

 だってこのトラップだって、毎回、同じものじゃないからね? 訓練に入るたびに、トラップが変わってるから、仕掛けられている位置とか種類を覚えて躱すって言うのは無理。

 もう初見でトラップを見極めて、避けるってやつをやらされてる。


 僕の宮でちゃんとした庭師って言えるのは、王宮から異動してきたお爺ちゃん庭師だけだ。そう、四年前、王宮の花を折った僕を諫めようとして、元愉快なお仲間たちに止められた人である。

 四年前のあの騒ぎの後、王宮内での使用人の人事異動で、唯一、お爺ちゃん庭師は自ら僕の宮へ異動したいと名乗り出てくれたらしい。

 お爺ちゃん庭師曰く、王宮の庭師はたくさんいるから、自分が抜けても問題ないだろうとのこと。

 お爺ちゃん庭師が、人の目に入ることが多い表側の庭に興味を引くように手入れしてくれているので、このやべー魔改造された庭を隠すことが出来ているのだと思うと、頭が下がる思いだ。

 フェアヴァルターたちは、自重なんかまったくしないからな。


「アルベルト様の動きから言って、剣は向いていないような気がするんですよね。長物のほうがいいような……。ここはやはり、主君に連絡して、一通りの武器を取り寄せてもらいましょう」

 うん、うん。そうだね、おじい様に相談したほうがいいかもね。

 我が事のように嬉しそうに話すフェアヴァルターを見てると、僕はなんだか気恥ずかしいおもいでいっぱいになってしまう。

「アルベルト様に合う得物を見つけたら、今度は特注で作ることになりますからね。フルフトバールにいる鍛冶師たちも心待ちにしてますよ」

 フルフトバールぐらいになると、お抱え鍛冶師って言うのもいる。きっと腕のいい鍛冶師がいるんだろうな。

 そっか、僕の武器作ってもらうんだぁ。

 なんだろう、わくわくしてしまう。

 だ、だって仕方ないじゃん! 男の子だもん! 武器とかそういうのに興味があるお年頃なんだよ!!





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