王子様と悪役令嬢

第1話 一応ここはふぁんたじー世界、魔力も魔術もあるんだよ 

 僕の宮の庭師は、母上が宿下がりしたときに、一人を抜かして全員一新されたのだが、全員、フルフトバール出身のマルコシアス家の庭師である。

 残った庭師はクリーガーより年配の中年の人で、でも体つきなんかクリーガーと似たり寄ったり。そしてフルフトバールから新しくやってきた庭師たちも、大体似たような体型の人たちばかりだ。

 母上がいた時は、母上に合わせた、花や緑が美しい庭を作ってくれていたが、母上が去ってからは、まったく違う趣となった。

 王城の土地をこんな風にしていいのかなーと思うものの、外部から人が来るときに目に入る場所は、今まで通りなので、他所から文句を言われることはないんじゃないかな?


「アルベルト様がフルフトバールにお帰りになる際には、元に戻しますから大丈夫ですよ」

 と、母上がいた時からここにいた庭師、フェアヴァルターは笑う。

「どうやって?」

「俺の魔力は土属性なんですよ。あと二人ほど同じ土属性のものがいますからね。これぐらいの広さなら、元に戻すのはすぐにできます」

 へー、そうなんだ~。

 僕は魔改造された庭に目を向ける。


 なんて言うか、庭じゃないんだなぁこれは。森、しかも結構な障害物トラップが付いてるやつ。


 いやね、これ最初はもうちょっとこぢんまりとした、子供用のアスレチックだけだったんだよ。

 ほら、僕、基礎体力出来てなかったから、そういう遊具で遊んで体力つけようってやつでね。僕の体力がついていくのと並行して、少しずーつ少しずーつ、アスレチックの難易度も上がっていって、最終的にはこれですよ。

 これってさぁ、鬼に妹以外の家族を殺された少年が、鬼を斃す組織に入る前に、師匠のところで山中の稽古をつけてもらうやつ、アレに似てるなーって。場所は山の中じゃないし、規模だって小さいけど。

「本当はアルベルト様が五歳までに、フルフトバールの不帰の樹海で初狩りの儀を済ませていただきたかったのですが、それは無理ですからね。もう一つのほうを優先させようと思いまして」

 初狩りの儀っていうのは、マルコシアス家の男子はほぼ全員が行う儀式で、五歳未満の子供に、短剣を持たせて、斃された魔獣に刃を入れるというやつ。


 雄大な自然であるがゆえに、不帰の樹海には、人間でははかり知れない脅威がたくさんある。地理そのものもだけど、樹海に生息している魔獣は、間引かなければ、フルフトバールの地に甚大な被害をもたらすのだ。

 だからこそ管理者たるマルコシアス家の人間は、不帰の樹海に生息している、あらゆる魔獣に対応できなければいけない。

 魔獣の放つ威圧やら、造形の恐怖やら、その凶暴さの猛威やらにひるむことのないタフさを身につける最初の足掛かりとして、初狩りの儀というやつをやるわけだ。

 そして、初狩りの儀が終わると、不帰の樹海への立ち入りが解禁になるらしい。


 ねぇ? 僕、王城から出たことないわけでしょう? その儀式やってないわけよ。だから不帰の樹海の広大さも、魔獣にも相対したことがないんだよねぇ。

「初狩りの儀をしてないなんて、マルコシアス家の当主に相応しくない! って言われちゃうかな?」

 僕のつぶやきにフェアヴァルターは陽気な笑顔を浮かべて答えた。

「歴代の主君には、儀式をしなかった方もいらっしゃいますし、女性の主君もいたんです。アルベルト様が儀式を受けれなかった理由は、ちゃんとわかっていますからね。一応五歳までに済ませるということになってますが、成人後の、不帰の樹海での初陣が、初狩りの儀となることもあるんですよ」

 なるほどね。

「僕、生まれてくるタイミングが悪かったなぁ」

「アルベルト様?」

「第一王子じゃなくって第二王子だったなら、もっとスマートに事が収まったよね?」

 第二王子であったなら、国王陛下のやらかしは無視できたし、おじい様が訪れた時点で継承権の返上を見据えてのマルコシアス家継承の準備を表立ってしても、ごちゃごちゃ言われなかっただろうし、王族でもフルフトバールに行くことだって、意外とすんなり承諾されたと思うんだよ。

 んとによぉ、仕込みの段取り悪いんだよ、国王陛下は。


 フェアヴァルターが作ってくれた、アスレチックというにはいささか物騒な障害物込みの散歩道は、ある程度の体力や筋肉が付いていなければ、熟すのは難しい。そしてあともう一つ必要な要素があって、それが魔力。

 この魔力をうまく全身に循環させながら身体を動かすと、トラップだらけの散歩道も難なく進んでいくことが出来るのだ。


 この世界……、僕が知る限りでは、殆どの人間、王族も貴族も平民も関係なく、魔力を持っていて、ただし魔力量はやはり貴族や王族のほうが多く、平民はそれほど多くない。

 もちろん例外もあるよ。

 魔力を持ってない人、平民でもめちゃくちゃ魔力量がある人、王族や貴族でも魔力量が少ない人もいる。

 貴賤関係なく魔力を持っている世界だから、そういう人はなんか物語の主人公になりそうだよね。

 僕の身の回りにいたら、きっと僕はかませ役になりそう。王子だし、魔力量は可もなく不可もないって感じだしね。ちなみに、イグナーツくんはね、魔力量、結構多いみたい。こっちは主人公か、主人公の相棒的な存在になりそうだよね?


 この世界、魔王とか魔族とかそういうのはいないけれど、魔獣(モンスター)はいるんだよね。それでね、ドラゴン、ドラゴンもいるんだって! ロマンだよね! まぁ絶対的に個体数が少なくって、人間が立ち入ることが出来ない険しい山脈とか、海底の奥底とか、それから……不帰の樹海の深奥とか、にいるらしい。

 ドラゴンは魔獣の頂点にいる存在で、魔獣の中でも、唯一、人と意思疎通ができるらしい。この辺は伝承的なものも含まれてて、しかももう何百年も姿を見たことがないから定かではないんだ。ドラゴン自体、滅んだかもって言われてるんだけど、たまにドラゴンの鱗が発見されてるから、きっとまだ何処かに生息しているはず。

 生きてるうちに、一度でいいから見てみたいな。子供っぽいとか言わないで! だって僕まだ十歳だよ! 子供だよ! ドラゴンに憧れたっていいじゃない!





■△■△■△

新章始まりました。

章タイトルは間違っていません。

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