第18話 あっちもこっちも問題だらけ

 膠着状態に陥る前に、部屋中にぱぁんと音が響き渡る。

 音の発生源は王妃様で、美しい両手で拍手を打ち、おじい様を抜かした全員の視線を集める。

「話が進みません。陛下、それは今、しなければならない必要な話ですか?」

「カティ……」

 人前で愛称呼びですか、やめてください。そういうのはプライベートでお願いします。

「違いますよね?」

 反論はするなと言わんばかりに、王妃様の国王陛下に向ける視線は厳しく、これが甘々恋愛結婚をした人の態度なんかい? と思ってしまう。あ、公私を分けてるからかな?


「ビリヒカイト侯、進めてください。このまま冗長になるのはよろしくありません」

 暗に、おじい様のことを言ってんな、これは。

 まぁ、確かに、そう。最初のアインホルン公爵のアレに、今度は国王陛下のコレだ。いや、さすがにね、さすがに翌日国王陛下とアインホルン公爵が血まみれになって寝台の上に横たわってましたって事にはならんと思うのよ? まだ、そこまでしないと思う。

 ただし、国王陛下の場合、イグナーツくんが即位した後は、どうなるか知らんけど。


「アインホルン公爵、今、お聞きした通りです。この婚約はもとより成立しません。なにかご不明なところはございますか? 国王陛下が第一王子の件に手出しできないというところを抜きにしてです」

 もうこれ以上その話はしたくないと、宰相閣下も思っているのだろう。

「そこが一番聞きたいところだと思うのだが。まぁいい。一つ、聞きたいことがある。この話、なぜイグナーツ殿下と、という話にならなかったのだろう?」

 これは僕とおじい様にではなく、国王陛下と王妃様に、だな。

 だが、王妃様はその話を聞いて、なぜそこでイグナーツくんのことが出てくるのだと言わんばかりだ。

「どういうことかしら?」

「私の娘はイグナーツ殿下と親交を深めている」

 一拍の潜考の後、王妃様はアインホルン公爵に訊ねる。

「……どのような?」

「え?」

 アインホルン公爵は、同意が返ってくるものだと思っていたところ、まったく違う返しが来て、吃驚の声を漏らした。

 しかしそんなアインホルン公爵を置いてきぼりにして、王妃様は続ける。

「どのような親交を? わたくしのもとには、アインホルン公女が騎士団の訓練場にたびたび訪れるという話は届いておりますが、そこでイグナーツと親睦を深めているという話は聞いておりません。イグナーツからもそのような話は出ていません」

 ちょ、どういうこと? だって……。

「王妃殿下、アインホルン公女は、第二王子殿下の最初の社交のお茶会で交流しているのですよね?」

 思わず訊いてしまうと、そこは事実なのか、王妃様は頷いた。

「えぇ、そうです。ですが、それ以降、イグナーツとアインホルン公女が親しくしているということは聞いておりません」

 話が王妃様のもとに通ってない、とは思えない。

 だってねぇ? 四年前、あれだけの使用人の不祥事があって、王妃様だって自分の身の回りのテコ入れを行っている。

 ここで、そういった情報は王妃様のもとに入ってないということは、ないのでは?

 王妃様の言葉に、思わずアインホルン公爵を見ると、彼のほうもどうなっているのかわからないといった表情だ。

「すまない、私は娘からイグナーツ殿下の話をよく聞かされていたのだが……」

 ん? んん? なんかそれはおかしくないか? 話を聞かされていたからといって、それが仲の良いということにはならんのでは?

「ちなみにどういった話を?」

「訓練場で……」

 僕の質問に答えようとしたアインホルン公爵は、途中で口を閉ざしてしまう。

「訓練場で?」

「え、あ、いや、その……イグナーツ殿下にお会いしたと」

 それは、どうとでも取れる発言ではないだろうか?

「他には?」

 さらに問いかけると、顔をしかめさせて、またぽつりとこぼす。

「……王城の図書館で」

「図書館で?」

「お会いしてると……」

 一緒に勉強、ではなく、お会いしてる、か。図書館ってさ、基本私語厳禁で、そこでお喋りするもんではない。

 室内には再び静寂が訪れる。


 いや、まてまてまてまて、まだ結論を出すのには早すぎる。情報不足だ。

 え~、アインホルン公女が、イグナーツくんと仲良く……。


 ごめん! 誰かと仲良くお喋りしているイグナーツくんというのが、全く想像できない!


 だってあの子、僕が知る限りの話だけど、ほんとーに寡黙なんだよ。自分から進んで話さないの! そのくせ頻繁に僕に会いに来るけど、お友達とか側近とか、そう言うのくっつけてきたことは、今まで一度もなかったわ。

 そもそもあの子、ちゃんとお友達、いるの? いや側近はいるよね? ネーベルの元二番目のお兄さんが側近? 候補? とにかくそんな感じだったはずだ。

 だめだ! 自分で言うのもなんだけど、これは全部、僕の希望が混じってる気がする。

 なんかもう、イグナーツくんとアインホルン公女と仲が良いっていうのは、言葉マジックで、言ってる側と聞いた側の受け取り方の齟齬とか、あとは考えたくないけど、アインホルン公女の思い込みで変換してるとか、どうしてもそんな考えにいってしまう。


 ちらりとアインホルン公爵を見ると、ご息女との会話を振り返って思い出しているのか、顔色が悪い。

 そっかー、アインホルン公爵も同じように、齟齬が生じてることに気が付いたかー。

「アインホルン公爵」

「な、なんだろうか?」

「一度、ご息女とちゃんと話し合いをされたほうが、よろしいかと思いますよ?」

 人のこと言えんけどな?

 僕が王妃様のほうを見ると、王妃様は顔こそ青くはさせてないが、申し訳なさそうな表情で僕を見ている。

「アルベルト殿下、わたくしのほうでも聞いてみますが、イグナーツがアルベルト殿下のもとに訪れた際は、ご協力していただけませんか?」

 ハイハイ、聞き取り調査ですね? イグナーツくん無口だけど、こっちの問いかけにはちゃんと答えるから、そこは大丈夫でしょ?

 王妃様のご依頼に、僕は頷いて了承の意を伝えた。





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