第16話 懲りるということを知らないらしい
カチコチカチコチと、年季のある柱時計が振り子を揺らして時を刻む。
現在、僕は国王陛下の執務室にいるのだが、執務室にいるゲストは僕だけではない。
まず僕の後見人であるおじい様。それから王妃様。最後に、国王陛下と同じ年頃だろう男性。
そこに部屋の住人である国王陛下と、秘書官二名、それから宰相閣下。
事案発生しました。
部屋の中にいる人間は、国王陛下を抜かし、全員厳しい表情で黙りこくっている。
誰一人言葉を発せないでいるのは、国王陛下を気にしてのことではなく、誰もがひとたび口を開けば、暴言が飛び出ることを自覚しているからだろう。
冷静になれない。しかし冷静にならなければいけない。そのジレンマが拮抗状態なのだ。
ここにいるみんなが、そう思ってしまうことを、やらかしちまったんだよなぁ~、国王陛下が。
もう一度言う。事案、発生しました。
事の起こりは、王妃様から国王陛下がなにかやらかしそうという、情報共有会から一月ほど経った頃、とある公爵のもとに、国王陛下から登城の呼び出しがあった。
とある公爵……、先代国王陛下の姉君が降嫁したアインホルン公爵家の、現・当主であるジークフリート・カイル・アインホルン公爵だ。
王族の血が強いのか、銀髪に紫の瞳と国王陛下と同じ色を持つアインホルン公爵は、陛下よりも三つ年上なのだという。血統的には国王陛下の従兄にあたる方で、王位継承権もお持ちだったが、彼は公爵を継ぐと同時に継承権を手放している。
そのアインホルン公爵の元へ、国王陛下は登城の呼び出しをかけ、そして一つの話を持ち掛けた。
アインホルン公爵の長女と王家の婚約話である。
現実に可能かどうかは置いておくとして、現在、王家にはアインホルン嬢と婚姻を結ばせることが出来る王子が二人いる。
ひとりは言わずもがな第一王子である僕こと、リューゲン・アルベルト・ア゠イゲル・ファーヴェルベーゼン・ラーヴェ。
もう一人は第一王子と同じ歳の第二王子である、イグナーツ・シュテルクスト・ツェ゠イゲル・ファーヴェルベーゼン・ラーヴェ。
アインホルン公女は、イグナーツくんが五歳のころの、社交のデビュー兼側近・婚約者選びのお茶会に出席しており、そこから交流を続けているそうなのだが、婚約とか側近などという話は出ていなかった。
そこに来て、国王陛下からの婚約の申し出。アインホルン公爵としては、娘へと持ち込まれたこの話は第二王子とのものだろうと思ったのではないだろうか?
誰だってそう思う。
が、国王陛下が令嬢の相手として提示してきたのは、イグナーツくんではなく僕だった。
アインホルン公爵は、国王陛下が王子殿下時代に隣国でやったこと、そして元婚約者であった母上と第一王子にしたこと、それはマルコシアス家の怒髪天をついていること、何よりも、僕が継承権を放棄し成人したら王籍を抜けることを知っている。
なんせアインホルン公爵も、国議に出席し国政に携わっている貴族の一人。
国議でその件の可決に賛同しているのだから、知っていなければおかしいというものだ。
アインホルン公爵がどこまで情報を得ているかはわからないが、国王陛下の元愉快なお仲間たちの情報操作によって、僕が我儘で癇癪持ちのおバカ王子だと、いまだそう思っている貴族だっている。
その評判は、いまだ消えていないし、評判の悪い王子だと知れ渡っている相手と娘を結婚などさせたくないのが、親心というものである。
何よりも、僕のバックはマルコシアス当主、フルフトバール侯爵であるおじい様だ。
おじい様がその場にいての婚約話ではなく、国王陛下からの話というのに、アインホルン公爵は懐疑の念を抱いた。
そこで、宰相閣下のご登場。
事が発覚し、事案発生しました。
宰相閣下はアインホルン公爵に、相手が誰であったとしても、第一王子との婚約の話は、国王陛下の独断では決められない。この件においては『王命』を使うことはできない。と、はっきりと告げた。
「申し訳ございませんが、後日、この件で話し合いを設けます。アインホルン公爵にはお手数をおかけしますが、後日また登城頂けると幸いです。ご連絡をさせていただきます」
宰相閣下はアインホルン公爵にそう言って、本日、関係者各位がそろい踏みになったというわけだ。
このまま何時間も沈黙を続けるわけにはいかない。誰も何も言わないのであれば、ここは僕が話を切り出すべきだろう。
「前にも言ったと思うのですが」
静まり返った執務室の中、僕の声が通ると、国王陛下だけがピクリと動くが、それ以外の皆様は、視線だけを僕に向ける。
「国王陛下は将来王籍を抜ける第一王子の僕をどうしたいのでしょうか?」
前にも同じようなこと言ったな~。四年前だよね。そんな忘れるほど昔のことじゃないよね?
僕の発言に宰相閣下とおじい様は、あの時のことを思い出したのか、どこか遠い目をする。
そんな表情しないでよ。だって四年前、似たような質問をしたとき、国王陛下ったら結局なーんにも言わなかったじゃない?
動機をゲロったのは愉快なお仲間たちだった側近だけで、結局のところ国王陛下が僕のことをどう思ってるかなんて一言も言ってねーんだよなー。
あの時、おめーは僕の父親であることを放棄しただろーよ。僕が継承権を放棄して王籍抜けるって言った時、引き留めもしなかったじゃねーか。もともといらねーから放置してたんだろ? おめーの想い通りに、愛しの王妃様との間に出来た可愛い愛息が、おめーの後の国王になるんだから、もう何一つ憂うことなんかねーだろ?
なーのーにー、なんでまた、どうでもいい第一王子のことに、自分から関わろうとしてくるん?
黙ってねーでなんとか言えや。
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