第13話 (異母弟は除く)同世代とはじめての遭逢
母上の再婚を周知するお茶会は翌日だと言うので、僕はそのままマルコシアス家のタウンハウスに泊まったのだけど、これ大丈夫だったのかなぁ? と。ほら、遠征とか遠方視察だとかならまだしも、王族の外泊って基本的に許可されんから。
きっとおじい様が今までのこと持ち出して、無理を通して外泊許可を取ったんだろう。
今回のマルコシアス家のお茶会。メインは母上だ。
表向き、母上の再婚は功績を得た武人への褒賞としての下賜。
国王陛下はもとから王妃様以外の妃は欲しくなかったのだから、この下賜は側妃と離縁するいい口実だと、そう思っている貴族がいる半面、とうとうマルコシアス家が動いたと戦々恐々としている貴族もいる。
そしてこのお茶会は、マルコシアス家と懇意にしている貴族だけが呼ばれて、母上が領地に戻ったら、程よくこの再婚話に母上も乗り気で喜んでいると広めることになっている。
貴族はめんどくせーなー。
離れた席で、たくさんの人に囲まれている母上とクリーガーを見ながら、意外に母上は同世代の貴婦人たちと、仲が良かったのだなぁと、思う。
その中でも、前国王陛下の姉君を母に持つ元公爵令嬢、今は北の辺境伯夫人。
この人、母上と同じく、国王陛下が王子殿下だった時、婚約者候補に名前があがったんだけどすぐに候補から外されたんだよね。理由は血が近すぎるっていうことで。
二世紀ぐらい前だったら婚約者になってたんだけど、おじい様の世代からはもうすでに、血が近すぎる結婚はよくないと、魔術塔のほうで検証結果が出ていたらしく、国王陛下の婚約者は母上に決まってしまった。
なんかあともう一人、侯爵家で釣り合いの取れる令嬢がいたんだけど、これがまた病弱な方だったので、世継ぎが産めないかもしれないのは……って言う理由で候補にもあがらなかった。
でもその方、結婚して子供産んでるんだわ。わ~、逃げられたね。
「先に、お言葉を発するご無礼をお許しください、リューゲン第一王子殿下。お初にお目にかかります。わたくし、ブリュンヒルト・グラーニエ・ヴュルテンベルクと申します。ご挨拶に参りました」
僕がいるテーブルのそばに、紅茶色の髪に金眼の僕と同年代だろう少女が、カーテシーをしながら口上を述べ、その隣にはこれまた同じ年頃の黒髪に緑眼の少年が、驚いた表情で、少女と僕を見比べていた。
双方ともに美少女美少年。う~ん、顔がいいということは、高位貴族の子供である可能性が高いな。
「え? 第一王子? マジかよ」
「ネーベル!」
お嬢さんが持っていた扇子で坊ちゃんの頭を叩く。
パシーンと、ものすごくいい音がした。
「いっ! 何すんだよ!」
「黙れ、この戯け者。殿下の御前であるぞ。お前は殿下にご挨拶もできないのか」
坊ちゃんはお嬢ちゃんを睨みつけた後、僕へと向き直り、胸に手を当てて礼の形をとった。
「大変ご無礼をつかまつりました。リューゲン第一王子殿下。ネーベル・ベルクと申します。以後お見知りおきを……、しなくてもかまいません」
わぁ~、めちゃくちゃ素直。いや、素直というか屈折してるな、これは。
「いくら親に僕と仲良くすることを強要されてるからってね、君がそれをしたくないなら、こういう場所に来ちゃだめだよ。君そこまで頭悪くないでしょ? 理由をつけて逃げなよ。君がバカやったら、始末されるのは連れてきたご両親も、になるんだからさ。それともそれが狙いだったのかな?」
僕の返答に、ネーベルくんは目を見開いて固まった。
無礼だとか不敬だとか言われるとでも思った? 確かにまだ僕は王族だし、ネーベル君の態度は問題ありありだ。でも、たぶんネーベルくんは、家族にも処分の余波が行くことを覚悟であの態度だったと思う。
案の定、今度は深く頭を下げながら、ネーベルくんは謝罪の言葉を僕に差し出した。
「……申し訳ございません。嫌われるためにやりました」
「わかってるよ。そんな感じだったもんね。とりあえず、ネーベルでいいのかな?」
「はい」
「僕のことはリューゲンではなくアルベルトと呼んでほしいな。ヴュルテンベルク嬢もね」
「かしこまりました。どうぞわたくしのことも、ブリュンヒルト、もしくはヒルトとお呼びください」
「うん。わかったよ。僕、滑舌悪いから、ヒルト嬢と呼ばせてもらうね?」
「寛容なお言葉、ありがたく思います」
「シルト、ランツェ。お茶を二つ」
まったく気配がないけど、おそらくそばにいるだろう双子に、お茶を持ってきてもらうように指示を出し、二人には僕のいるテーブルの席についてもらうことにした。
「アルベルト殿下、本当に申し訳ございませんでした」
再度頭を下げてくるネーベルくんは、さっきのふてぶてしさはどこへやら、まるで借りてきた猫のようになってしまった。つまらん。さっきの感じでよかったのに。
「謝罪は受け取ったから、もういいよ。もっと楽に話してほしいな。誰も近づかないしね」
僕の言葉に、ヒルト嬢とネーベルくんは互いに顔を見合わせる。
「……楽に」
「そうそう、君たちが普段会話してる感じで」
ヒルト嬢は何とも言い難い表情をし、ネーベルくんは腕を組んでぎゅっと目を瞑り、それからぱちりと瞼を開いて僕を見た。
「遠慮なくそうさせてもらう」
そう来なくては。
「ロイヤルファミリーもたいがいだけど、ネーベルくんのところも酷い感じ?」
「敬称は要らねーよ。貴族なんて長子とそれ以下の差別なんてザラにあるだろ。特に俺は庶子だから余計にな」
ネーベル、曰く、彼はベルク家のご当主が外で作った子供なのだが、彼の上には二人の兄がいるらしい。一人はうちの双子と同世代、もう一人は僕らと二つほど上なのだとか。
「俺は生まれてすぐに引き取られた口なんだけど、理由は殿下らと同じ年だったからだと思う。五年ぐらい前に、第二王子殿下の側近選びのお茶会に出席させられたからな。二番目の兄と一緒に」
ご両親の目的は側近の席狙いで、子供二人連れて行ったのは、どちらか一人でも選ばれれば儲けものだったからだろう。
今回、ネーベルだけの出席と言うことは、イグナーツくんの側近候補に選ばれたのは兄君のほうだったのかな?
そしてネーベルは、派閥の力関係がどっちに転んでもいいように、出来損ないの第一王子と仲良くなるように送り込まれたと。
何ともまぁ、貴族らしいご両親だねぇ。
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