第11話 恋に盲目になるとどいつもこいつも頭に花が咲く

「もともとわたくしの一目惚れから始まったでしょう? 当時の情勢が、陛下のお傍にいたいと言う私の願望とうまく重なって、話が進んで婚約者になれた。陛下はね、婚約時代、とても誠実にお付き合いしてくださっていたのよ?」

 へ~、誠実ですか。ふ~ん、そうなんだぁ。

 僕の表情を見て母上は声を殺して笑う。

「ふふっ、信じていないわね? でも本当に、良くしてくださったの。月に一度の親睦のお茶会はもちろん会ってくださったし、夜会に出席するときは必ずご自分の服とおそろいのドレスを贈ってくださった。エスコートもちゃんとしてくださったわ。夜会で置き去りにされるということもなくって、お知り合いの方々にも一緒にご挨拶していただけたし、終わったらちゃんと送り届けてくださった。会うときは必ず花束を持参していらしたわ。誕生日もね、わたくしが欲しいものを事前に調査してくださって贈っていただけたのよ」

 それ本当に国王陛下ですか? 

 今のアレとは考えられない……って言うか、王妃様には似たようなことちゃんとやってるわな。

「婚約者であった時、陛下のわたくしを見る目はいつも穏やかだった」

 そう言われても、まったく想像できないんだよなぁ。そんな目で母上を見る国王陛下と言うのが。

「アルベルト、貴方は信じられないと思うかもしれないけれど、婚約が白紙になって、陛下はわたくしに頭を下げてくださったの。わたくしを下に見ていたわけでも、婚約が嫌だったわけでもないのだと。王妃殿下に恋をしたけれど、わたくしのことがあるから諦めようとも思っていたのですって」

 じゃぁ諦めろよと、僕だけじゃなくって、きっとほかの人だってそう思う。

「でも……、王妃殿下は故国で、多くの人の目がある場所で、大変に屈辱的な目に遭われてしまわれて……。陛下は愛しく想っている人を、そのような目に遭わされるのが許せなかったのね。自分の心を制御できなかったと仰ったわ」


 ここで、かつて国王陛下と王妃様の間に何があったのか、少し説明しようと思う。


 国王陛下は成人前の二年間、隣国の王立学園に留学していた。

 その時、王妃様と出会って恋に落ちたわけなのだけど、王妃様は隣国の王家の血を引く公爵家の姫君で、当時隣国の王族第二王子殿下と婚約していたわけだ。

 この流れ、勘のいい人は何か勘づいたんじゃないか? 僕は、あ~、そっちでもそう言うのがあったのかぁ~。この世界の王族、頭沸いてるやつ多いな、と思った。

 王妃様のご実家には弟君がいたので、隣国の第二王子殿下は王妃様のご実家に婿入りではなく、結婚したら大公家を興すことになっていた。が、学園の卒業パーティーで、隣国の第二王子殿下はやっちまった。


 王妃様に冤罪掛けて婚約破棄。


 王妃様は、冤罪掛けて婚約破棄を言い放った隣国の第二王子殿下を逆に断罪返しして、自分の身の潔白を主張。でも第二王子殿下は逆切れかますし、会場はカオスだし、あと、やっぱり女性が婚約破棄をされるって言うのはね、瑕疵がなくても醜聞なわけだよ。

 そこでわれらの国王陛下の出番。

 この流れ、わかるよね? わかっちゃうよね? 国王陛下はそこでやっちまったんだよ。婚約破棄された王妃様にプロポーズを。私の妻になってくださいって言っちまったんだよ。


 これが、国王陛下と王妃様の間にあった、世紀のラブロマンスと言うわけだ。


 公衆の面前、隣国の高位貴族だけではなく、周辺各国の高位貴族なんかもいた場所での出来事で、やったことをなかったことには、出来なかった。

 隣国とラーヴェ王国と話し合いが行われ、この醜聞の収拾として、建前上は友好関係を強めるものとして、国王陛下と王妃様の婚姻が成立してしまったのである。

 とばっちり喰ったのは母上だけどね。隣国の第二王子殿下は、平民上がりの男爵令嬢を自分の妃にしたいがためにやらかしたので自業自得だ。


「婚約が白紙になったとき、とても悲しかったけど、でもね、同時に仕方がないと観念の思いもあったの。だって陛下が王妃殿下を見つめる目はとても情熱的で、わたくしには一度もそんな目を向けてくださらなかったのだもの」

「諦めたのに、側妃になっちゃったんですか?」

「もしかしたらと、思ってしまったのよ」

 もしかしたら? う~ん、国王陛下に愛されるとか? 王妃様ラブ状態を見てるのに、そう思うか?

「王妃殿下のように愛されることは無理だけど、以前のような関係を続けていけるのではないか? とね。だって、嫌い合っていたわけでも憎しみ合っていたわけでもないのだもの」

 そこは、側妃としての覚悟はできたんだよなぁ。妃として国王陛下の寵愛を独り占めしたかった、と言うわけでもなかった……と。

 やっぱりさぁ、母上がヒスってたのって、国王陛下が下手うったせいじゃん。

「陛下は、妃を二人持つことには向いていなかったのね」

 う、う~ん。それなら最初から側妃を召し上げるのは反対しとけって話になるんだけど、こればっかりは陛下の意見は押し通せない。

 母上を側妃として召し上げたのは確かに王命だけど、側妃を召し上げるようにと言う国議がね、あったはずなんだよ。

 ラーヴェ王国の世継ぎにおいて、一刻も早くと願うのは、国王陛下ではなく、臣下のほうだからね。居なきゃ困るし、何よりも跡継ぎは必要だもんな。

 王妃様もなかなか子が出来ない重責にプレッシャーがあっただろうし、あの人の性格なら、自分に子が出来ないのなら側妃を召し上げることはやぶさかではない。

「今はもう、陛下に対して心が躍ることはないけれど、でも、そうね……。陛下のお顔はやっぱり今でも好きなのよ」

 そう言って母上は笑う。

「わたくし今まで観劇を見たら、その内容ばかり注目していて、それだけだったのだけど、一緒に観賞したお友達はお話はもちろんのこと、あの役者の表現力は素晴らしいだとか、お顔が素敵だとか、お話ししていてね。あの時はわたくし、そのお友達の気持ちがわからなかったけど、今はそのお気持ちがわかるのよ」

 あ、にーてんご次元に嵌る好事家な方々を彷彿とさせる……。

 つまり? 根本的に、国王陛下と僕の顔は、母上の好みの顔だということか。





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