第9話 王妃様はお悩みのご様子
王妃様と宰相閣下との非公式のお茶会は、だいたいそんな感じで、僕陣営と王妃様陣営の情報の擦り合わせとか、宰相閣下は王妃様が僕にぽろりして障りがあるようなことを言わないようにとか、僕の近況報告とか王妃様の近況報告とか、そんなことを話している。
それでおじい様から母上が再婚するので王都へ来るという話を聞いた後の王妃様とのお茶会で、王妃様から遠慮がちに話を切り出された。
「アルベルト殿下、リーゼロッテ様が再婚されると、お聞きしたのだけれど」
「はい、そのようで」
「……お頼みしたいことがあるのです。聞き入れてくださらなくてもかまわないので、話だけでも聞いていただけませんか?」
非公式だからほとんどは砕けた口調で話す王妃様だが、母上の話になると、途端に丁寧な言葉遣いになってしまう。
「どうぞ?」
「リーゼロッテ様にお手紙を差し上げたいのです」
なんだ、そんなこと……、と思うなかれ。
王妃様と母上の間にあるものって、周囲によって捻じ曲げられて、こんがらかったこともあるし、ずっとジェンガのような状態なのだ。
「今までその機会は確かにございました。しかし、リーゼロッテ様がフルフトバール侯の元にお戻りになった理由や経緯、それにリーゼロッテ様のお心を考えると、すぐにお手紙を差し上げることが出来ませんでした」
「そうですね。あの時すぐに出されても、母上の元には届かなかったと思いますよ」
特におじい様が許さんからな。
「この再婚は下賜であると」
「母上とどうしても添い遂げたかったようで、頑張ったそうです」
誰がとは言わない。王妃様だって前回の教訓で周辺の人員整理したし、そういう情報だって独自に手に入れるルートを開拓してるはず。
「リーゼロッテ様は、この再婚をどう思われていらっしゃるのでしょう?」
「嫌ならお断りすると思いますよ」
恋に夢見てるお姫様な人だけど、好悪ははっきりと言うから、受け入れられないなら、この話は最初から出てこなかったはず。
それにおじい様は、もうそんな結婚を母上にはさせないと言ったし。
僕も再婚のことはまだ母上から聞いてないんだよね。っていうか、手紙は頻繁にやり取りしてるんだから、教えてくれても良かったのに。
意外とお茶目なところもあるから、驚かせたかったのかな?
僕が感慨に浸っていると、王妃様は躊躇いがちに心情を漏らした。
「わたくしからお手紙を差し上げてもよろしいのかしら……」
まぁ、だいぶ吹っ切れてるしねぇ。だから再婚するんだろうし。
「お手紙、お預かりしましょうか。母上にお話しして、読みたいと言ったなら渡します。嫌だと言ったらお返しにあがります。それでいいですか?」
僕の提案に王妃様は途端に表情を輝かせる。
「えぇ、もちろん! それで構いません。お頼みしてもいいかしら?」
「はい、お引き受けします」
「アルベルト殿下、わたくしの頼みを聞き入れてくれて、ありがとうございます」
嬉しそうにはにかむ王妃様を見ていると、まるで片恋の相手へ手紙を渡してもらえると喜んでいるようだ。
国王陛下に嫉妬されないように気をつけな?
「あ、それから、もうひとつ。これはアルベルト殿下に、なのだけど」
「なんですか?」
「その……、イグナーツのことです」
名前を聞いた途端、内心うわ~って気持ちになった。表情に出すようなへまはせんけどな。
王妃様が口にしたイグナーツなる人物のフルネームは、イグナーツ・シュテルクスト・ツェ゠イゲル・ファーベルヴェーゼン・ラーヴェ。
お察しの通り、王妃様のご子息でラーヴェ王国の第二王子殿下。
僕の腹違いの弟くんである。
う~ん、彼のことはね、一言では説明できないんだよね。
まず、一応、顔合わせはしているんだよ。
この王妃様のお茶会が初対面だったかな? ほら僕、王子宮ではなく母上と一緒に暮らしていたじゃない? 母上がいなくなった後も、王子宮に移るのではなく同じ宮で暮らすことになったし、社交のデビューもしてないから式典にも出てない。
顔を合わす機会が、それまで一度もなかったんだよ。
それで三度目、いや四度目だったか、宰相閣下と王妃様のお茶会に訪れたら、王妃様と一緒にいたんだよね。
第二王子殿下ことイグナーツくんは、これがまぁ、王妃様によく似てること。王妃様に似た容姿に黄金色の髪、瞳の色は国王陛下と同じ紫の瞳だけど、それも相まって国王陛下はさぞかし可愛く思うだろうなって言うのが、わかりましたよ。
イグナーツくんはもともと無口なのかもしれない、彼は始終沈黙したまま、王妃様の話や僕の話を聞いていたけど、ただなんて言うか……、お茶会が終わるまで、僕の顔から視線を逸らすことなくじっと見てんだよ。
王妃様との初対面とデジャブったわ。
そこから接触解禁されたと思ったのか、王妃様を通してではなく、僕の宮に訪問したいと連絡があって、何度か会ったんだけど……。
最初は、王妃様の前だったから何も言えなくて、直で何か言いに来たのかなと、勘ぐったんだよ。そしたらうちの双子が。
「第二王子殿下は、裏表の激しい人物ではございませんでした」
って言ってきたんだよ。
『でした』って、なに? それを知ってるってことは、何度かあっちに潜り込んでるって言ってるのと同じなんだよ。
王子宮に何者かの侵入形跡があったという情報は入ってきてないから、気づかれてないと思うけど、やめなさいよそういうことは。バレたら大ごとになるでしょ? バレないと思うけど、僕の心臓に悪いからやめて。
まぁそういうわけで何度か会ってるんだけど、ほんと寡黙なんだよ。殆どなんも喋らんの。ただ僕の顔を見に来て、一言二言喋って帰っていくわけね。
何をしたいのかさっぱりわかんない。
そのイグナーツくんの名前を出してきた王妃様に、内心身構えながら伺う。
「どうしました? 学問、剣術、ともに素晴らしい才があると、僕の耳にも入ってきますよ」
「そうね、どちらもまじめに取り組んでいるわ」
「なにか懸念がおありですか?」
「あの子、アルベルト殿下と一緒に、剣術の稽古がしたいと言っているの」
「それはまた……」
以前一緒に勉強したいって言った時に断ったから、今度は王妃様越しにいってきたんだろうか?
マジで何を考えてるのか読めないわ。
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