第6話 ある意味、鳥籠の鳥だった王妃様
そうやって王妃宮の使用人やお付きの侍女たちが、一生懸命隠ぺい工作をしていたとしても、王妃様自身が、僕や母上を気にして様子を聞いてくることもあった。
しかし、僕らのこと探るにしても、それを王妃様自身が自分で動いてやるなんてことはしないよね?
王妃様が変装してお忍びで側妃宮に潜入して探るなんてことは、そんなの本当に無理だからね。したくたって出来ないよ? だって王妃様は国王陛下筆頭に、周囲から溺愛されてるんだからさぁ。しかも周囲はこっちを敵とみなして、王妃様に近づけないようにしてるんだし、何が何でも王妃様の行動を阻止するよ。
王妃様は母上と違って、放っておかれている冷遇妃ではなく、国王陛下からの寵愛を一身に向けられて、周囲からは溺愛されてる、愛され妃なんだから。
それに王妃としての仕事だってあるじゃない? そんなお忍び行動できるほど暇じゃないんだよ。
結局は身近な侍女に指示を出して、探ってもらう方法になるわけじゃない? その侍女も情報遮断している一人なわけだから、当然、何事もございませんと言う嘘の報告をするわけだよ。
そんながちがちに固められた鉄壁の守りの中、僕らの話がどうして王妃様の耳に入ったのか?
凡ミスらしいです。
浮かれちゃったんだって。
王妃様の周囲からすると、母上の宿下がりと僕の王位継承権放棄と王籍離脱は、憎き側妃追放、我儘第一王子廃嫡、って具合に変換されて、やったー! これで王妃様を煩わせる敵がいなくなったー!! って、大喜び。
普段であったなら王妃様の耳に入る恐れがある場所では、絶対に話をしないのに、これで王妃様も安心されるはずだとか、ぽろっとこぼしちゃったんだとか。
って言うか、王妃宮の全体が朗報に浮かれていたので、さすがに王妃様も何かあったのかと気が付くものだ。
ただ、王妃宮全体がそのような雰囲気になった当初、何か祝い事でもあったのかと、王妃様は思ったらしい。
そこかしこでお祝いムードで、やっと王妃様のお心を煩わせる者がいなくなったとか、陛下の肩の荷もおりたとか、どうも誰かの祝い事ではなく、自分たちのことで騒いでる。
よくよく聞き耳を立ててみれば、側妃と第一王子の話っぽい。そこでどうなっているのだと侍女に聞いたら、直にわかりますとだけしか言われない。
王妃宮の侍従も自分の身の回りにいる使用人も、王妃様にとっても朗報だと言わんばかりの様子に、王妃様の内心は不安と疑心とで一杯になって……。
自分に近しい使用人たちを集め、何を隠しているのだと問い詰めたのだという。
最初はいずれわかると言葉を濁していた使用人たちだったが、王妃様の剣幕に圧され、側妃が追放され第一王子が廃嫡になったと伝えられた。
なんでそんなことになったのだと、王妃様は驚き混乱するものの、そんなふうになるまで側妃と第一王子のことは、自分のところに何も情報が入ってきていない。使用人たちが言った追放と廃嫡はどこまで信用できる内容なのか?
もう疑心だらけの王妃様は、国王陛下と宰相閣下のもとに行き話を聞き……、そこで全部の事実が明らかになった。
国王陛下は側妃と第一王子を冷遇して、国王陛下の愉快なお仲間たちと使用人は、第一王子を王位に就くには不安な人物になるように誘導し、そして王妃様のところには、側妃と第一王子の話が届かないようにされていた。
側妃は追放ではなく、フルフトバール侯爵が宿下がりを申し出て、第一王子は廃嫡ではなく、成人したら継承権を放棄し王籍を抜けてマルコシアス家を継ぐのだと。
まぁ、だいたい僕が予想していた通りの状況だったわけだ。
だってねぇ、母上の事は王妃様も複雑だったと思うから、動かないのは女性としての蟠りがあってもおかしくない。
だけどいくら自分が産んだ子供じゃないにしても、王位継承権第一位を持っている第一王子には、ラーヴェ王国の王妃として、次期国王になる第一王子の様子見や、必要があれば指導するなどしていかなければいけない。
僕に対してのそういった干渉が、王妃様からはなかった。
これはもう、王妃様の周りで何かしらの動きがあったのだと、僕はそう思っていたし、実際その通りだったわけだ。
「わたくしのあずかり知らない所であったとしても、彼らを御することが出来なかったのは、わたくしの責任です。そして彼らにそのようなことをさせてしまったのは、わたくしの落ち度。言い訳はしないわ。本当に申し訳ございません」
王妃様は再度僕に向かって深々と頭を下げる。
う~ん、これは僕から何か言わなきゃ終息しないよね。
「王妃殿下、顔をあげてください」
顔をあげる王妃様に、僕は困ったような顔を見せる。
「王妃殿下は何もしなかったと悔やまれていますが、僕、そのことは気にしてないんです」
むしろ余計な手出ししないでくれてありがとう。
「でもっ」
「何か事情がおありだろうということは、なんとなくわかってました。それに王妃様が手助けをしてくださっても、きっと母上は意固地になってしまったと思いますよ」
「リューゲン殿下……」
最初が肝心なんだってぇのに、国王陛下が王妃様に関わるなとか、言ってきたせいでよぉ。母上の王妃様に対する心証が悪くなった要因の一つだからな。
「だから、気にしないでください。それにもう全部済んでしまったことですからね」
控えめに微笑んで、これ以上の謝罪は不要だと話を終わりにさせようとしているのに、王妃様はそうではないようだ。
「では……、リューゲン殿下が、今、困っていることなどないかしら?」
王妃様が引いてくれないことに困ってます。とは言えない。う~ん、これは何か要求しないと、納得してくれない流れだ。
「では、一つだけお願いしたいことが」
「何かしら?! 何でも言ってちょうだい!」
めっちゃ食いついてくるなぁ。
「僕、リューゲンの名前は返上するので、アルベルトと呼んでほしいです」
宰相閣下も僕の名前を呼ぶときは、『リューゲン』だったけど、離脱が決まってから母上がつけてくれた『アルベルト』に変えていた。
母上とおじい様は最初から僕のことは『アルベルト』だし、僕の傍にいる双子を筆頭に、周囲の使用人たちも、もとから『アルベルト』としか呼ばない。
成人したら王族とはさよならバイバイだし、国王陛下の子供である『リューゲン』ではなく、マルコシアス家の『アルベルト』になるっていう意思表示? ケジメって感じかな?
本音は、国王陛下から貰った名前なんざ、いらねーんだよなぁ。
そして名前のことを言ったら、王妃様の戸惑いが見えた。
「リュ……いえ、アルベルト殿下は、本当に王位」
「王妃殿下」
王妃様の言葉を遮るのは不敬とも捉えられるだろうに、宰相閣下は強く王妃殿下を呼び掛け、その先を言わぬようにと、無言で首を横に振った。
王妃様が何を思っているのか、知りたくもないし探りたくもない。
そのあとは、母上がいなくなって大変だろうから、困ったことがあったらいつでも頼ってほしいだとか、今度は王妃宮に来てほしいだとか、まぁ色々言われて、それに対して僕は無難な答えを返し、その日はお帰り頂いた。
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