第5話 この顔マジで有効すぎる
僕の宮にやってきた王妃様は、僕の姿を目で捉えた一瞬、動揺した。
やっぱり、この顔かな? あと髪の色もあるか。目の色を抜かせば、僕は国王陛下のミニチュア版だしね。
王妃様に付き従ってぞろぞろやってきてた使用人たちも、王妃様と同じようなリアクションで、僕への興味が隠せてなかった。
挨拶を済ませ、準備していた部屋に通し、お互い向き合うようにソファーに座ってから、王妃様のほうから話を切り出してきた。
「リューゲン殿下。貴方と母君への待遇に対して、王妃でありながら何もできなかったこと、申し訳なく思います」
そう言って王妃様は僕に深々と頭を下げる。
第一印象は、きつい印象の美女。輝くような黄金の髪に、ルビーではなくガーネットのような赤い眼。
子供相手なのに緊張しているのか、微妙に表情がこわばっていた。
あれかな? 今までこっちに何にもしてこなかったから、不興を買ってるとか、そう思ってるのかな? 自分のほうが王妃で位も高いというのに、子供相手に律儀な人だな。
僕としては、手出ししないでくれて、ありがとうって感じなんだけど。
だって、あの時点で王妃様が僕たちのことに口出ししてきてごらんよ。王妃様の後ろというか隣というか、すぐそばにいる人が、王妃様に何を吹き込んだ、とか。王妃様の手を煩わせるな、とか。母上にいちゃもんつけてくるでしょう?
だって母上が側妃に召し上げられたときに、王妃様にご挨拶しようとしたら、関わるなとくぎを刺してきたほどなんだからさぁ。
宰相閣下からどこまで聞いているのかわからないけど、僕は猫を被って王妃様の言葉に答えた。
「僕や母上のあの境遇をよしとしていたのは国王陛下です。王妃殿下がそのようなことをする必要はありません。僕と母上を気にかけてくださって、ありがとうございます」
そう言ってはにかみながら微笑むと、王妃様は両手で口元を押さえ、お付きの方々は好意的な、まぁっという感嘆をこぼした。
おっし、掴みはオッケー。
もっと子供らしく無邪気な態度のほうがいいと思われるかもしれないが、それは悪手だ。あざといのは、かえってわざとらしく思われて警戒されるんだよ。
あと、僕のキャラ的に無邪気なお子様やると、そのうちボロが出るからね。続けられない。
だからここはあえて、控えめな態度で、王妃様に対して敵意は持っていないことを前面に押し出す。
実際、僕は王妃様に思うところは全くない。敵意もないしね。
母上が王妃になれなかったのは、国王陛下が母上という婚約者がいるのに王妃様に求婚したからだ。
母上を悲しませたのは、王妃様ではなく国王陛下である。
あと僕、男だからさ、一人の男をめぐって二人の女性がキャットファイトする状況は、下手をうった国王陛下には、指さしてプギャーって笑うけど、キャットファイトしてる女性二人には、なるべく口出ししたくない。
だからヒス状態で留まっている母上に、国王陛下捨てちゃえよって唆して、戦線離脱させたんだし。
王妃様は僕のことを健気な子供だと思ってくれたようだ。
僕の存在を好意的に受け入れて、今まで何もできなかったから何でも言ってほしい。離れて暮らすことになった母上の代わりだと思って、いつでも頼ってほしい、などなど言ってきた。
さすが国王陛下と同じ顔。しかも幼さも相まって、うまいこと王妃様の庇護欲をそそったようだ。
しかしここで調子に乗って、大げさに遠慮するのもいけない。まじでそれはわざとらしく見えるから。
ちょっと考えるように小首をかしげて、ただ感謝の言葉を述べる。
「ありがとうございます。王妃殿下のお言葉、本当に嬉しいですよ」
言った後に小さく微笑んで見せたら、王妃様は徐々に頬を染めて、それからもう我慢できないと言わんばかりに、身を乗り出してきた。
「遠慮しないで!! あ、いきなり大きな声を出して、ごめんなさい。でも、本当に、何でも言ってちょうだいね?!」
真剣なまなざしを向けてくる王妃様は、何なら今すぐにでも相談してくれと言わんばかりの勢いだ。
「あの……、王妃殿下?」
ちょっと落ち着いてほしいと声を掛けたら、王妃様ははっとして姿勢を直し、目を伏せながら話し出す。
「今まで何もせずにいたくせに、何を言ってるんだって思われるのも仕方がないと思っているの。王妃の立場にいて、知らなかったなんて、無責任だものね。わたくしがリューゲン殿下や母君の状況に何もしなかったのは、許されることではないわ」
国王陛下のご機嫌をとっていただけるだけで充分です。とは本人に言えないので、ちらりとすぐそばにいる宰相閣下を見る。
「それは、王妃殿下だけが責められることではございません。説明は私からしましょうか?」
え? なに、王妃様が今までこっちに不干渉だった事情、聞かなきゃいけないの?
宰相閣下は、気がせいている王妃様に、ちゃんとした説明ができないと踏んだのか、助け舟をだす。
しかし王妃様は首を振って拒否をした。
「いえ、わたくしのほうから」
今まで王妃様が動かなかったのは、王妃様のもとに、こちらの情報が入ってこなかったから、だそうだ。
王妃様の傍にいるお付きの侍女を筆頭に、王妃宮の上級使用人や女官、王妃様と顔を合わせている国王陛下の側近や宮廷使用人の全員が、母上と僕の状況が王妃様の耳に届かないように、細心の注意を払っていた。
当然のごとく、使用人たちは自ら進んで、こちら側の話はしないし、使用人たちが僕らの話をするにしても、王妃様が立ち入る場所では一切しない徹底ぶり。
母上が側妃として王城にあがったときも、お茶会を開こうとしたのだが、その招待状は使用人たちに握りつぶされ、拒否されたと嘘の返事をされたのだという。母上からのご挨拶も同様で、王妃様には伝えず、国王陛下のほうへ伝えられたそうだ。それが国王陛下から母上に、王妃様に関わるな発言に繋がるわけだ。
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