第2話 父親面してくるなよ。めんどくさい人だなぁ

 ガヴァネスと護衛騎士団長の件は片が付いたが、まだマナー講師が残っている。

 このマナーって広義の意味で帝王学と微妙に重なるものがあるじゃない?

 宰相閣下とおじい様が後日マナー講師と面談して聞き出したところによると、それ込みでの指導をするものだと思われていたことが発覚。


 僕はいずれ王籍を抜けてフルフトバール侯爵になるから、重点的に学ばなければいけないのは当主教育のほう。でも今はまだ王族だから、王族としての考え方も知っておいてほしいという宰相閣下の希望がある。

 二人の意見を折衷して、基本的に学ぶのは当主教育にして、でも帝王学ではこんなふうに考えるんだよと、差異を知ってもらおうという形になった。

 そのため、おじい様が手配した当主教育の講師に、宰相閣下が手配する帝王学の講師を含めて、一緒に学ぶという話だったのだ。


 そこで、マナー講師の授業はどうなるのかと言うと、どちらにしろ行儀作法・宮廷作法は必要になるから、講師になっていただけるのは有り難い。だけど学ばせるのは、王族のものではなく貴族としてのものにしてほしいと、おじい様からの注文が入った。

 王族と貴族のマナーって違うんだよ。傅かれる相手と傅く相手、立場が違うんだから、当たり前だ。


 おじい様はどうも、国王陛下が手配した、と言うのが引っかかっていたようだ。

 国王陛下が、側妃と第一王子を冷遇して放置していたことは、王宮内の特に王族に接する機会が多い宮廷使用人たちなら全員知っている。

 でも、彼らが直接僕に何かしてくることはなく、してきたことは、いわゆる叱らない虐待。

 やっぱり身体に危害を加えるって言うのは、障りがあるんだろう。

 だって相手は王族よ? いくら家族にさげすまれてるからって、使用人が王族に対して殴る蹴るなんてことはできないって。

 あと僕の場合、後ろ盾しっかりしてるからね。国王陛下から冷遇されていても、フルフトバール侯爵がいるから、ばれたらマジで命落とすことになるからね。


 王宮の使用人は、国王陛下至上主義だ。国王陛下の意向こそが至上で、国王陛下が冷遇放置している側妃と第一王子にいい印象を持たない。

 たとえ第一王子が王位継承権第一位でも、国王陛下が可愛がっているのは第二王子なのだから、第二王子が国王になればいいと思うのだろう。


 国王陛下が僕のところに派遣してきたマナー講師、突き返したガヴァネスと護衛騎士団長もだけど、彼らが国王陛下に忠誠心を持っているのは確かで、その手の人たちは、国王陛下が冷遇している第一王子にどんなことをするか、だいたい予想できちゃわないか?

 マナー講師は間違ったことを教えるとか、ガヴァネスと護衛騎士団長ならことあるごとに第二王子と比べて、劣等感を煽って、授業を放棄する問題児にするとか。


 おじい様はそれを警戒しているのだ。

 でも、僕そう言うの、黙って受け入れる可愛げある性格じゃないしさ。

 今までぼんやりしてる頭足りない王子様だから、やりたい放題出来ると思われていたら、そこを逆手にとって物証つかんで、国王陛下に賠償ふんだくるよ?

 え? やった本人に賠償させるんじゃないのかって? いやいや、やらかした人は賠償では済まないでしょう? 刑が執行されるまで、牢にぶち込まれてまずい飯食わされるんだから。

 だから賠償するのは、そういう人たちを派遣した国王陛下になるわけよ。


「それで、どうする? 僕のマナー講師引き受ける? 引き受けるとしたら、まず魔道具による授業内容の記録と、それから僕の使用人たちを同席させることが最低条件になるよ?」


 そう訊ねたら、ぐっと喉を鳴らして沈黙し、そのあと、辞退させてくださいと蚊の鳴くような小さな声で言ってきた。

 あの時、僕の後ろには双子が控えていた。振り向いて確認しなかったけど、多分あの二人が、僕が見ていないからって脅していたんだろう。

 やりすぎなんだよ。過保護はやめて。

 結局のところ、僕のマナー講師はおじい様が手配した伯爵家の人に決まった。


 そんなことがこの四年の間にあって、僕というよりも、おじい様と宰相閣下は、さらに国王陛下に対して警戒を強めている。


 僕が王位継承権を放棄し王籍から抜けるという話し合いをするまで、僕のことはずっと放置して無視していたのに、何でそんなこと国王陛下がしでかしたかって言うと、今まで何もしてやれなかった(やらなかったの間違い)から、何かしてやりたかったと、宰相閣下とおじい様に供述したらしい。

 宰相閣下とおじい様が、僕の教育(帝王学とか当主教育とか)その辺の話をしているのをどこかで耳に入れたようで、今までの反省(白々しい)というか詫びの気持ちで、代々王族が教わっている教育係を手配した。そこに他意はなく、僕を害するつもりも全くなかったと、言い訳をしていたそうだ。

 その場に僕がいなかったから、全部、宰相閣下とおじい様からの又聞きだけど。


 そもそもの話、国王陛下は僕が王籍を抜けるという話し合いをしていたとき、なーんも言わなかったんだよね。

 国王陛下が僕の今後のことに言及できる最終チャンスは、あの時僕の親であることを主張して、僕の養育権を手放さないことだった。

 なのに国王陛下はあの時、ただただ宰相閣下とおじい様のやり取りを黙って聞いてただけで、僕が継承権を放棄することはもとより、王籍を抜けることにも、何一つ口を挟まなかった。

 それって、僕の親であることを放棄したってことじゃない? だから何も言わなかったんでしょう?

 だったらさぁ、今まで通り王妃様といちゃついて、第二王子可愛がって、三人でロイヤルファミリーやってろよ。


 僕のことはおじい様がちゃんと面倒見てくれるから、余計なことしてこないでね。

 そんな僕ら(おじい様と宰相閣下)の願いは、いるかいないかわからない神様に届くことはないのだ。

 やつはやっぱり、いらんことをやらかす。


 事の起こりはいつだって、おじい様が孫活&僕の将来を考えてくれる計画が練られているときにはじまるのだ。





「アルベルトも十歳になったから、そろそろ側近候補を見繕わねばならんな」

 半月に一回の割合で、僕のいる宮に顔を出しに来るおじい様が、そんなことを言い出した。

「側近候補、ですか? 王籍抜けるのに? あとそう言うのって学園に入ってからでもいいのでは?」

「マルコシアス家の当主になるだろう? 自分が足りないものを補ってくれる側近は必要だ。学園では盟友を作るものだよ」

 僕が当主になったら、シルトはマルコシアス家の管理を任せる家令になってもらうから側近では無い。

 当主としての仕事、侯爵の仕事には、やっぱり頼りになる相棒が必要ということだ。

 確かにそうだねぇ……。


 たぶん、これ、同年代の相手に僕のお披露目らしきこととか、もっと早くやるべきことだったんだろうな。それこそ、僕がまだ王太子になると思われていた頃に。

 でも、放置だったからねぇ。

 国王陛下から放置されている第一王子の側近なんて、側近になりうる地位の貴族としては、うまみがなかったと思うから、できたかどうかは不明なところだ。





■△■△■△


面白かったら、フォロー・♡応援・★レビュー ぽちりしてください。

モチベ上がりますのでよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る