第5話 黙秘で乗り切れると思うなよ?

 宰相閣下はおじい様の嫌味に気が付いたようで、顔をひきつらせ、剣呑な眼差しを国王陛下に向ける。

「陛下、どういうことでしょうか? 以前、第一王子殿下をいつ王子宮に移されるのかと私が申し上げた時に、『宰相は宮中内のことに口を出す権限はない』と仰せになりましたよね? 宮中大臣からもこちらに何も連絡が来ていなかったので、第一王子殿下は王子宮に移されたのだと思っておりましたが、違うのですか?」

 あ、そうだった。基本的に宰相が摂政するのは国内や諸外国へのもので、王宮や王族の管理や采配は、違う組織が行うものだ。


 なんか、思っていたのと違う反応だな。

 僕の現状がああなのは、てっきり国王陛下と宰相閣下が結託してのことだと思ってたんだけど、違うのか?

 この様子だと、宰相閣下は、国王陛下の愉快なお仲間たちではないようだ。

 なら、母上と僕が放置されていたのって、国王陛下と王妃様に対する、宮中組織の忖度だったのか?

 そんなのある?


 我が国は君主制だし、国王陛下の是非でまかり通るところがある。

 たとえ宮中組織が、国王陛下と王妃様へ忖度していたとしても、側妃とその王子を放置するって言うのは、どうなの? ありなの? 組織として許されることなの? 王族の血を引いてる僕に対して、それは不敬になるんじゃないの?


「ハント卿、フース卿、卿らは今まで何をしていたのですか?!」


 宰相閣下の叱責は、国王陛下の側近たちにまで飛び火した。

「陛下のこれは、第一王子殿下に対する処遇ではないでしょう! 親でありながら、明らかな不遇をリューゲン殿下に強いる陛下を諫めずして、何が側近か! 恥を知りなさい!!」

 その通りなんだけど、なんか話がズレていきそうな気がするわ。

 ちらりとおじい様を見ると、おじい様も同じように思っているのか、しかめっ面で国王陛下と愉快なお仲間たちを睨みつけている。

 ですよねー、そういうことは内輪でやっとけ。


 僕とおじい様の主題は、母上の宿下がりと、僕を王家から引き抜いてマルコシアス家入りさせること。

 こっちのほうが重要だし、国王陛下たちの内情なんざ、どうでもいい。

 ズレていく話題を元に戻させるために、僕は国王陛下たちに声をかける。

「一つお聞きしたいのですが、よろしいでしょうか?」

 僕が発言すると、国王陛下並びに愉快なお仲間たちと、宰相閣下が、こちらに注目した。

 国王陛下がこいつ喋れたのかっていう顔をしているのは、珍しく国王陛下に声をかけられて返事をしなくちゃいけない時に、『はい』『いいえ』ぐらいしか言わなかったからだ。

 愉快なお仲間の側近たちに声をかけられても、うまく意思表現ができなかったって言うのもあるけど、単にこいつらと口を利きたくなかったって言うのもあって、返事もしなかったし、ただひたすら沈黙を守っていた。

 でも今はちゃんと喋れるしな。あとおめーらが何言ったって反論できるしな。

 一番意味不明なことをやらかしてくれている人物、国王陛下に質問した。


「国王陛下は第一王子である僕をどうしたいのでしょうか?」


 予想はしているけど、それが正解とは限らないでしょ? 何か理由あってのこととは全く思ってないけど、僕としては自分の考えがあっているという確証が欲しい。

 だからそう訊ねてみたら、名指しされた国王陛下は、ピクリと反応するものの、すぐに何かを言ってくることはない。


 僕がおじい様とこの部屋に入ってきてから、国王陛下は、まず僕が一緒にいることに驚いていた。でも声をかけるわけでもなく、存在を無視してくれやがって、その割にちらちらと盗み見はする。

 おじい様の母上と僕への処遇に対する陳情と、宰相閣下とのやり取りに、思考が付いていけないのか、ただ茫然と二人のやり取りを見ているばかり。

 そこに無視している僕から、ピンポイントでこの質問だ。


 宰相閣下だけではなく、おじい様もいる前で、今までのように、いないものとして扱うわけにはいかんだろう。ほら、さっさと質問に答えんかい。

 この質問の返答が聞きたいのは、おじい様も同様だし、宰相閣下もだ。

 なのに国王陛下は、動揺か困惑かはわからないけど、僕のこの態度があり得ないと言わんばかりの様子だ。


 んー、何そんなに驚いて……、あっ! そうだった。こいつ王妃様との間にできた王子を王太子にするために、僕を王族らしからぬ我慢が出来ない愚か者に育つようにしてたんだった。

 なるほどね。だから、この部屋にやってきた僕が、おじい様の腕におとなしく抱かれていたのに驚いてたのか。


 いやでもさぁ、もともと僕、回線が繋がってなかったから、知能に問題があるような頭の足りない王子様って感じだったでしょ?

 国王陛下と愉快なお仲間たちが望んでいたのって、国王陛下の姿を見た途端、嬉しそうに駆け寄って、虎の威を借るなんとやらのように、周囲に対して傲慢な態度をとる、そういうどうしようもなさだと思うんだ。

 王子だから自分は偉いとか、父親には愛されていると勘違いして何やっても肯定してもらえるとか、そんな驕り高ぶっている馬鹿にさせようとしている真っ最中なのに、今ここにいる僕は、国王陛下が望んでいる第一王子像とは程遠い。

 残念だったね、思い通りにいかなくってさ。

 それより、はよ、質問に答えろや。答えはわかってるけど、こっちだって予定っつーもんがあるんだよ。


「陛下、リューゲン殿下のご質問に、お答えいただきたいのですが?」

 宰相閣下に促されても沈黙してる国王陛下に、おじい様は剣呑な眼差しを向け、促した宰相閣下もどうなってんだって胡乱な様子だ。

 まぁ、答えられませんよねぇ? いらない第一王子を合法的に処分するために、馬鹿に仕立て上げようとしてた、なんてさ。

 僕的には、これが正解だと思ってるんだけど、ここではっきりさせておかないと、この先の僕の人生設計に横やり入れてきそうな気がするからね。


「お答えいただけないなら、こちらから質問させていただきます。沈黙は肯定として受け取らせていただきますので、違う場合はちゃんとお答えくださいね」

 ここまでお膳立てしてやったんだから、ちゃんと答えろよ。黙ってたらこっちの都合のいいように話を進めていくからな。


 宰相閣下は国王陛下の愉快なお仲間ではなかったけど、このやり取りの証人として、強制参加だ。

 親子間の泥沼に巻き込まれて可哀そうだとは思うけど、でもその国王陛下の首に鈴をつけてなかったのは、宰相閣下の落ち度だからね。





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