第4話 おじい様は国王陛下に頭を下げない
腐っても王族の血を引いている僕が、その日のうちにマルコシアス家に移動するわけにはいかない。
一応、これでも、国王陛下の第一子で、王位継承権第一位の持ち主だ。
正統なる貴き青い血の王族をホイホイと外に出したら、後々王家の後継問題に混乱を招くだろうし、王族の僕が王宮からなんの保護もされず外で何かあったら、諸外国からあの国と王家は、王の血を何だと思っているんだと、白い目で見られる。
だから、いらないものとして捨て置かれていても、僕が王城を出るとか、王族から離籍するには、いろいろ明文化した取り決めが必要になる。
手間も時間もかかるだろうけれど、僕の現状を見れば、難航するわけでもない。
一番の強みは、僕の状況だからね。
おじい様はここに来る前に、国王陛下と宰相閣下に、側妃の件でという接見の先触れを出していて、これから会いに行くらしい。
母上への処遇を持ち出して、宿下がりという名目で連れ戻すそうだ。無理なら、王宮での慣れない生活に心労が絶えないので、保養の里帰りにするとのこと。
そしてそのまま王城に戻さず、離縁させる。
父親が娘の境遇に腹を立てるのは当たり前だし、ここまでコケにされているなら、連れ戻しの要請は、妥当な流れだ。
きっと母上のことは、何の横やりも入らずそのまま通されるだろう。
おじい様はそれだけではなく、僕のことも言及し、マルコシアス家で引き取る流れに持っていく算段である。
おじい様が僕を獲得できる勝率は半分、かな?
いや、おじい様だって海千山千の相手方とやりあって、マルコシアス家の当主と、フルフトバール侯爵位を保守しているやり手だから、そうやすやすと諦めたりはしない。
問題は国王陛下と愉快なお仲間たちが、何を考えて、どう出るかってこと。
今までの放置っぷりから見るに、渡りに船で、こっちの要求を呑んでくれそうな気がするんだけど、でもあの人たち、わざと僕を馬鹿に仕立てようとしてるじゃん?
第二王子のための踏み台にさせそうな感じ、あるよね?
ほら第二王子の優秀さを見せつけるために、わざと劣ってる僕をそばにおいて、国王陛下と愉快なお仲間たちの画策を知らない、発言力の強い貴族たちに、『どう? どっちが優秀?』『虚栄心の塊の馬鹿な第一王子よりも、清廉潔白で頭脳明晰で優秀な第二王子のほうが国王に相応しいよね?』みたいなやつ。
やりそうな気がするんだよなぁ。
っていうかやるでしょう? あいつらは。そのための布石で、僕を歪ませようとしたんだからさぁ。
だから、勝率半々。
話の持って行き方によっては、おじい様の要望は却下されそうだ。
ただ、こっちが継承権第一位をどうぞどうぞってやって、すんなり継承できる土台を作ってやってるのに、さらに踏み台として残しておく意味があるかって言うのもある。
不確定要素の塊なんだよ、あの国王陛下と愉快なお仲間たちは。
それに、自分のことなのだから、どういう話し合いをするのか、僕は知りたい。
だから、おじい様と一緒についていくことにした。
今回は、側妃、娘の処遇に物申すってことだから、接見の部屋ではなく、国王陛下の執務室でのお話し合いをするそうで、そこへ爺馬鹿よろしく、ほくほくとした満面の笑みで、僕を抱っこしながら入室したおじい様に、国王陛下だけではなく、宰相閣下も面食らったような表情で出迎える。
いや、僕もね、抱っこはないのではと思ったんだけど、今まで可愛い孫に何かしたくても何もさせてもらえなかったんだから、じいじ孝行をしておくれって懇願されちゃぁねぇ?
なんでも友人知人から、孫可愛い自慢やらを聞かされて、おじい様は自分にだって孫がいるのにそれができず、ずっと歯がゆい思いをしていたらしい。
どうせ今日は連れ帰れないのだから、せめている間だけでも孫活させてくれと言われて好きにしてもらうことにした。
「王国の太陽にご挨拶申し上げます」
ご挨拶は、もっとこう、対象者に礼をしながらするものでは?
僕を抱っこしているから、胸に手を当てることも、頭を下げることもしない。おじい様の尊大な態度はわざとだ。
おじい様は、もうずっと、国王陛下と愉快なお仲間たちに、お怒りだったので、ご挨拶でもおめーらに下げる頭はねーよって言う気概である。
むしろ、おめーらがこっちに頭を下げて詫びいれろよって、そんなお気持ちでいっぱいだ。
母上はおじい様にとっては最愛の娘。マルコシアス家の唯一の姫君。婚約だってさせたくなかったし、側妃にだってあげさせたくなかった。
下にも置かない扱いでなければならなかったというのに、国王陛下は……王宮は、そのマルコシアス家の姫君を貶めた。
貶めたというのは言い過ぎかもしれないけれど、側妃になる前のことや側妃になる事情を読めば、放置なんてことはできなかったはずなのだ。
にもかかわらず、国王陛下も王宮の人間も、母上を利用するだけ利用して、あげくに放置を続けている。
そんな扱いをされて、マルコシアス家の当主であり、フルフトバール侯爵のおじい様が黙っているわけがない。
母上を粗末に扱っていれば、おじい様がこうやって特攻してくることは、国王陛下たちも予想できたことだろうに。
「本日は、ご報告に参りました。どうやらわが娘は、側妃として至らぬようで、皆々様に多大なるご迷惑をおかけしているご様子。これ以上そちらのお手を煩わせるのも忍びない。本日を以て、宿下がりをさせていただきます」
ジャブで様子見どころか、いきなり腹に一発ストレート打撃。
母上の宿下がりをおじい様は強引に押し通すようだ。
「そうそう、わが娘が宿下がりをいたしますと、第一王子殿下のお世話をする者がいなくなってしまいますので、娘ともどもわが家でお世話をいたしましょう」
そこまで言ってようやく正気付いたのは、宰相閣下のほうだった。
「お、お待ちなさい、マルコシアス卿!」
おじい様の怒涛の発言に待ったをかけて、会話の主導権を取り返そうとしてくる。
「リューゲン殿下はラーヴェ王国の王位継承権第一位をお持ちになられている第一王子殿下です。許可なく王城から連れ出すことはまかりなりません」
「しかし、わが娘は宿下がりいたしますし、そうなると殿下のお世話をする者がいませんでしょう? どうされるので?」
国王陛下と愉快なお仲間たちは、この意味わかってるかな?
おじい様はさ、後宮であるにもかかわらず、わが家から使用人を派遣しなければ、誰も側妃の世話をしないんだけど、どういうことなのかって言う嫌みと、僕がラーヴェ王国の第一王子だっていうなら、王子宮ではなく後宮にいるのはおかしいだろうって言及してるんだよね。
■△■△■△
面白かったら、フォロー・♡応援・★レビュー ぽちりしてください。
モチベ上がりますのでよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。