第三章 十七節

平原を包む霧の中から現れたウォーレン達によって、白冥軍は大きく歩兵達を失う事となった。特別部隊が進んで行っていた事もあり、虚を突かれたのである。




ウォーレンの武力もさることながら、その指揮の高さはアルフレッドの想像を超えていた。


絶望的な状況からの逆転劇、グランデルニア軍は死力を尽くしてこの攻撃に賭けていた。




「マズい……マズいマズいマズい!!」




その戦況を東部戦線で、気が付いたキュネは急ぎ本陣へと向かった。




現在グランデルニア王都を決戦とする地は、遥かに広大であり、それだけ指揮や統率に力を有する。




パニックに陥っていた白冥軍の本陣を、ウォーレンは屠り進みに進んでいった。


運の悪い事にこの時、風が向かい風になり戦場は霧に包まれることになる。




白冥軍は味方崩れに陥る事になり、アルフレッドの本陣は丸裸になってしまった。


霧の中を進むウォーレンは、その目にアルフレッドを捕らえる。




「敵将を捕らえたぞ!!皆の者かかれぇー!!!」




「フェリックス、向かい討て!!」




だが、敵を前にしてもアルフレッドは動揺を見せなかった。


この騒動を聞き、崩れた味方の隊が戻る事を読んでいたのだ。それだけじゃない、副官フェリックスの力を信じていた事もあるが、本命は敵陣に向かうアンネにある。




主力を攻撃に転じたグランデルニアは、その本陣が手薄になっていた。


そこを突く為アンネ達、特別部隊が今堀を上がる。




レグネッセス軍同様、霧から現れたアンネ達にグランデルニア軍も奇襲を諸に受けた。


レグネッセス軍と違ったのは『狙い』だけだ。


アルフレッドから受けた指示は、『敵陣地にある旗を残らず焼き、そこに味方の旗を掲げろ』


だった。




「このガキ!!旗が!!」




「皆さん、此処が正念場ですよ!!」




アンネ達は奇襲に乗じて、堀の上に立てられていた旗を直ぐに降ろし、レグネッセス軍の旗を掲げた。これが指す意味とは、グランデルニア軍の敗北だ。




「嘘だ……」




「グランデルニアが、負けた……」




広大な戦場で唯一自軍の状況を示す物、それが旗だ。


それその物が、敵の者によって変えられた。これは疑いようもない敗北なのだ。




グランデルニア軍は、一気に戦意を喪失した。


中では持っていた武器を落とす者もいたという。


この戦争が、国の存亡をかけての物だと知っていたのも大きかった。




実際には、アンネ達はまだ掲げた旗を取り返されぬ様奮闘していたが、それぞれの戦場でグランデルニア軍は動きを止め降伏する者が相次いだ。




その中で、唯一戦いを止めなかったのがウォーレン達だった。




(まだ、まだ敵将を討ち取れば打開の策はある!!)




ウォーレンは、グランデルニア大国を愛していた。


アフマ教の唯一神に、平和を祈る民が大好きだった。


貧しい民に手を差し伸べる王も、一人の巫女を救う為と戦う兵も、ウォーレンは愛してやまない。だからこそ、守らなければならない。




ドアキア超大国からの侵略を止める為、前線で戦い続けて来たウォーレンは、そこに闇を見た。人間の残虐性を肌身で感じていた。




レグネッセスの白い悪魔ロレインには及ばないと言われるが、串刺し公と名高いアムド将軍が行う敵捕虜の見せしめは彼の心を痛めつけた。




ドアキア超大国とグランデルニア大国を結ぶ国境近くに、ウォーレンの住んでいた領地があった。一年前、三大国同盟が成されレグネッセス超大国との戦争が勃発した中、これを見たドアキアは、防備が弱まったグランデルニアを攻めた。




その中で、ウォーレンは愛する家族を女を友を街を、全て同時に失ったのだ。


この戦争に加わっていたウォーレンは絶望した。どうすれば良かったのだろうと。


だが、彼は再び立ち上がった。侵略を繰り返すドアキアを止める為に。




だから




「お前達を止めなくちゃ、行けないんだ!!」




「ぐっ!!……」




ウォーレンの勢いづいた戦斧にフェリックスの矛が砕かれる。


そのまま、フェリックスは戦斧に引き裂かれた。




「副官!!」




「フェリックス様!!」




矛が盾となり、命には別状は無さそうだが




「覚悟!!」




フェリックスを倒し、ウォーレンがアルフレッドに向かって走る。


だが、アルフレッドが剣を抜く気配が無い。




「後少し遅かったな……」




トンと、背中に衝撃が走る。


ウォーレンはそこで足が止まった。背中には矢が刺さっているのだろう、胸から貫き出ている矢の先端がものを言う。




後ろを振り返ると、連れて来た部隊は皆姿が見えず、ウォーレンは弓隊に囲まれていた。




「ここまで……か……」




諦めた様に、ウォーレンは呟いた。




「初めから、貴殿が居たのなら戦況も変わっていただろう。


 まぁ、もしも何て話は意味をなさないがな……」




アルフレッドはそう言って、弓隊に手を上げて指示を出す。


その手が降りる時、それがウォーレンの死ぬ時だ。




「最後に良いかい?」




「何だ?俺を追い詰めた褒美に聞いてやろう……」




「出来る限り、民に酷い真似はしないでくれるか?……」




「……」




ウォーレンの最後の言葉は、かつて聞いた亡国の将に酷く似ていた。


アルフレッドは、何も言わずに上げた手を振り下ろす。




「放てェ!!!」




アルフレッドの合図に、キュネが反応する。




名も無き将は、体中に複数の風穴を開けて絶命した。


最後まで自国を愛し、思い続けて……。






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