第三章 十五節

河川敷に悲鳴が響き渡る。それは大地を震わす程大きく、強い怒りを持つモノだった。


無抵抗のまま、我が子二人と愛する妻を斬首されたセロ将軍は、血の涙を浮かべてそれを行ったアルフレッドを睨んでいた。




「憎いかセロ将軍。今お前には俺がどう見える?俺に心はあるか?」




「呪ってやるぞ!貴様を、それに付き従うお前達も!ろくな死に方は出来ぬと思え!!」




アルフレッドは怒りを吐くセロを目前に大きく目を見開き、見据えてから立ち上がった。


その光景を見ていたレグネッセスの将校達は、中には耐えきれず嘔吐するモノ、目を背ける者達も多くは無かった。




「これが本当に平和に繋がるのでしょうか?」




アンネが、隣にいるエリックに聞く。




「誰も分からぬ。しかし、アルフレッド様は何かを覚悟した様に見える」




「うむ。そして私達にも、覚悟しろと仰っているのだろう」




ガトーが、エレックの言葉に付け足す。


それにアンネは首を傾げる。




「私達に、ですか?」




「ああ、始めに言われただろう。グランデルニアを滅ぼす為に、それを支えるモノを破壊するとね。きっと、王都を落としてからもっと悲惨な事が待っていよう。それに私達の手が染まる事への覚悟だ」




「……だから悲しく見えるのですね」




「ん?悲しく見える?」




アルフレッドを見るアンネは、哀れむような表情をしている。


ガトーはその表情を見て聞き返す。




「はい……世界が平和になって欲しいと願う人は、必ず優しい心を持っている人です。


 アルフレッド様もかつては、かのロレイン様を諫める人だったと聞きます。


 世界を平和にする為には、今の世界を変える必要がある。その為にはもと合ったモノ


を破壊しなければならない。とても人が叶えられる願いじゃない、だからあんな……


見ればわかります。だって悪い人があんな苦しそうな姿、する訳ありません……」




アンネの視線の先で、セロの目の前でその家族を解体するアルフレッドが映る。




「何も感じなくなった……礼を言うぞ、セロ将軍」




「あ、あ……」




失意に落ちたセロの首が切り落とされる。


それらの死体は、塩漬けに防腐処理され、来る決戦の為に保存された。




この公開処刑を行った後、血塗れになったアルフレッドに物申した男が二人いた。


一人はルート、もう一人はペアレスだった。




「先程あれ程言ったではないか、次は蹴り飛ばされる処では無いぞ。


それに私は、痺れたぞ。アルフレッド様、中々に良い男ではないか」




「馬鹿を言え!私は父の後を継ぐ為、あの方には正しきことを……ぐっ」




「まぁまぁ」




ルートは、途中部下のリーゼに力づくで止められ追えず仕舞いだったが、ペアレスは違った。


アルフレッドを走り抜いてから、その顔を殴った。




「閣下!!」




「閣下、大丈夫ですか!?」




護衛の者達が、何かを申しているが構わない。


ペアレスは言った。




「先程は皆の手前言えず仕舞いだったが、お前どうかしているぞ!!明らかにヤリ過ぎだ!!ロレインとサラちゃんの為だと分かってはいるが……」




「皆の前だから?ヤリ過ぎだ?誰かの為だ?言い訳を並べて御苦労な事だ……。


 ただ単に怖いだけだろう、皆にどう思われるかが怖いんだ。お前は。


 だから少なくなった今、友としての俺に甘えているんだろう?」




ペアレスを押さえようとする部下を制しして、アルフレッドは淡々と答える。


その言葉にペアレスは感情を制御出来なかった。




「俺は、唯一人残ったお前の友として……お前を止めなくちゃいけない!!


 お前をロレインの様にしたくないんだ!!」




ペアレスは、打ち取られて首を掲げられたオーウェンの姿を見ていた。


その光景を思い出し、泣きながらアルフレッドに殴りかかる。




「勝手に決めつけないでくれ、これは俺のやりたい事だ。


 俺は今までの俺とは違う。


人は変わる生き物なんだよ、お前の友だったアルフレッドは死んだんだ」




アルフレッドは、そのペアレスの拳を掴み取って、腕を捻り倒した。


地に伏せるペアレスを冷たい目で見降ろし、何事も無かったように本陣に帰っていく。


その姿は、かつて見たアルフレッドからは想像もできない、この世の闇を背負ったかの様に見えた。








時は戻り、グランデルニア王都決戦。


レグネッセス連合軍は二十万の軍勢を率いて来た。対するグランデルニア軍は半分にも満たない九万の兵だった。その中には、多くの民間人が含まれている。理由は、二週間前に行われた戦争で多くの兵を失ったからだ。




兵の数的不利に加え、既に王都目前に王手をかけられたグランデルニア軍は、レグネッセス軍の大将アルフレッドとフォーグの首を取る事でしか勝利の道は無かった。




開戦前、この一大決戦に駆け付けて来るだろう大国の領主達を妨害する為、各地の城に配下を置き一万の兵を与えた。が、ルートとペアレスの受け持った城が落とされてしまったのだった。加えてレグネッセスの軍事業務がなされていた地帯が焼け落とされた。




「しかし、ルート様ペアレス様両人は無事逃げおおせ、此方に向かっていると」




「奴らの領地を取り上げる事で手打ちにしよう、他に何か?」




部下からの報告を受け、アルフレッドは作戦を少し練り直す。


落とされた二つの城は、グランデルニア軍が兵器などの供給が可能な道がある。


近くに置いていた軍事基地が無くなったのも痛い。




そうこう考えに耽っている時、グランデルニア軍が動きを見せた。


ペアレスの落とされた城の方角に向けて動いたのだ。そこには、リディの軍が置いてある。




グランデルニア軍は、落とした城からの援軍と連携しようとの狙いだったのだろうが、統率が全く取れていなかった。




有力な将が残って居なかったからであろう。




グランデルニア軍の先鋒ウンダーは、リディの軍に突進していった。




「グランデルニアを滅ぼそうとする馬鹿共!!


このウンダー様が返り討ちにしてくれる!!」




これに、リディの軍はあえて後退した。




「馬鹿はどっちでしょうねぇ……」




ペアレスが落とされた城の、ギリギリの距離まで後退し、殿に精鋭を置いて向かい討った。




「まんまと、かかったぞ馬鹿だ!!」




「待ち伏せだと!!構わん援軍が来るまで待てぃ!!」




これに誘き出された先鋒ウンダーは、率いて来た五千の部隊事、壊滅した。




「グランデルニアよ……許せ……」







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